しまなみ海道へ

 憧れの北白川先生の話で盛り上がってるうちにそろそろ尾道のはず。


「次の信号もまっすぐや」

「あら曲がらないの」

「予定変更でシンプルに行く」


 三次から走り続けている国道一六四号で尾道市内に入っちゃうらしい。もう尾道の市街に入ってるけど、この先に海があるはず。でも山も見えるな。


「あれは向島や」


 そこまで来てるんだ。さらに道は進み、


「この陸橋の先の信号を左や」

「国道二号ね」


 あそこだな。曲がったけど狭苦しい道だな。ホントに国道二号なのかな。


「いわゆる旧国道や。そやけど西国街道の雰囲気を感じへんか」


 西国街道ってなんだよそれ。いかにも旧市街って感じの道を走ってたら、向こうに見えるのは海じゃないの。あれが尾道水道でその向こうに見てるのが向島のはず。


「あちゃ、次の信号右折しながらターンや」

「こうなってるのか」


 えっ、どこに行くのだと思っていたら、


「ここ入るで」

「こっちは初めてだね」


 こんなところからどうするのか思ってたら、なになに、


『向島行渡船のりば』


 となってるけど船で渡るとか。


「尾道大橋渡ったらタダやねんけど、あれはあれで道がややこしいねん」

「こっちからの方がかえって早いかな」


 料金は大人百円でバイクが十円だって! 安いんじゃない。待つほどもなく渡船に乗り込みいざ向島に。てほどな時間もかからず五分ほどで向島上陸だ。尾道も観光したかったけどさすがに時間がないからパスみたいだ。


「また来たらエエやん」

「新幹線なら近いし」


 近いは言い過ぎだけど尾道は電車でも来れるのは来れる。でもしまなみ海道は電車じゃ来れないもの。向島に上陸してからも道を知ってるみたいで、


「まだ三回目や」

「尾道からは二回目よ」


 向島の西の海岸線沿いに走って行くと大きな橋が見えて来た、


「あれが因島大橋やけど入り口はもうちょい先や」


 因島大橋を潜ってしばらくすると、


「ここや」


 はぁ? ここなの。見落としそうな程の道路案内に原付道入り口って書いてある、そこからもクネクネした狭苦しい道を登って行くと、あった、あった、橋の入り口だ。なるほど車道の下を走るのか。そして因島上陸だ。因島と言われてもイメージないんだけど、


「因島やったら八朔は行かんとアカンやろ」


 因島は八朔が生まれた島と聞いてビックリした。この島は水軍の島だったから、南の島で食べた果物のタネが引っ付いて来て変異して出来たんじゃないかって話だった。お目当てのはっさく大福を食べて一休みしてから、


「しまなみ海道やったら景色を楽しまんと意味があらへん」


 そう言われて連れていかれたのが山道。それもバイクを停めてからさらに歩きだ。ホントにこいつら歩くのを苦にしないんだよな。ここは白滝山って呼ばれてて五百羅漢があるのも興味深いのだけど、それより何より三百六十度のビュースポットだ。


 因島大橋からの景色も素晴らしかったけど、因島大橋さえ見下ろす大展望は登って来た甲斐があったと言うものだよ。景色を堪能したら、


「水軍城はもう一つあるからそっちで十分やろ」

「そうね、因島しか見られないところが良いはずよ」


 白滝山を西側に下りて、そこから海岸線沿いを反時計回りに走ったのだけど、あれは生口橋じゃないの。


「そうや。そやけどもう一か所寄っとこう」


 そこから着いたのは小さな神社だ。大山神社ってなってるけど、どこにでもありそうな神社じゃない、


「幟をよう見んかい。自転車神社ってなってるやろ」


 鳥居の両側にあるのは自転車の狛犬みたい。しまなみ海道はサイクリストの聖地ともなってるから、ここはサイクリストの守り神なんだろうな。


「コトリらの守り神でもあるで」


 あのね、アリスが乗ってるダックスは小型であってもバイクだよ。


「何言ってるのよ。原付自転車じゃない」


 ぎゃふん。たしかに原動機は付いてるけど自転車の一種でもあるか。ツーリングの無事を祈って生口橋に引き返したんだけど、ここも上品すぎる案内板だ、まだ橋が二つだけど、クルマが走る橋と原付や自転車が走る橋は同じところにあるけど、入り口も出口も走るところも違うんだ。


 原付や自転車が走るところはホントに島と島を結んでいるだけで、次の橋に向かうには島内の道路を走るしかない、言うまでも無いけどクルマは高速でビューンだけどね。でもね、島内道路を走るのは絶対に楽しいと思う。


 海だって間近に見えるし、観光名所に立ち寄ったり、美味しそうなものがあれば食べたりも出来る。クルマだってインターチェンジがあるからやろうと思えばできるのだろうけど、


「やっても一か所か二か所やろ」

「途中下車のコストが違うし、クルマで走ると島内の道路は厳しいところもあるよ」


 しまなみ海道を楽しむならやっぱり原付か自転車だ。サイクリストの聖地と呼ばれるだけあってかなり走ってたものね。


「あいつらタフやもんな」

「橋への道を登るだけでも尊敬するよ」


 それは御意だ。それぐらい走れるから自転車で来るのだろうし、サイクリストと呼ばれるのだろけどアリスじゃ絶対に無理。でも原付でだって余裕で楽しいもの。この辺は昨日から延々と山間の道を頑張ったからもある。


「耐え難きを耐え」

「忍び難きを忍び」


 一瞬のカタルシスに酔うマゾなんかじゃないぞ。やっとこさありつけたシーサイドロードが気持ち良いだけなんだから。そんなことを言ってるうちに生口島に上陸。ここの見どころは、


「耕三寺はパスや」


 ここはクルマでも立ち寄られることが多いとこみたいで、大阪の実業家が日本の有名建築物を再現していることで有名みたい。とくに有名なのは日光東照宮の陽明門を模したものらしいけど、


「あれはあれでエエけんど」

「どうせ見るなら本物よ」


 本物ねぇ。島の北側を反時計回りに走りながら連れていかれのが平山郁夫美術館。たしかにこっちは本物だ。平山郁夫といえばシルクロードが有名なのだけど、しまなみ海道五十三次は興味深かった。


 そこから連れて行ってもらったのがレモン谷。ここも知らなかったのだけど生口島は国産レモンでは日本一の生産量らしくて、ちょうどレモンの花盛りで綺麗だった。だからと思うけど生口島にはレモン関係の飲み物やらジェラートやらも売っていて、レモンラーメンまであるのはさすがに驚いた。


 レモン谷の近くに多々羅大橋があるのだけど、ここを渡ったところにあるのが大三島だ。ここで気になったのが時刻なんだよね。もうすぐ十五時じゃない。まだ早い時刻と言えば早いのだけどあの二人にとっては今日のツーリングの店じまいタイムに近づいている。


 もちろん昨日みたいな事だってあるけど、あの二人の基本は早出、早着きで宿でノンビリなんだよね。というか、このペースじゃ、どちらにしてもしまなみ海道を渡り切るのは難しいと思うんだ。


「さすがね。しまなみ海道は三回目だけど新しい趣向にしてみたのよ」

「通り抜けるだけでもエエとこやねんけど、泊りを入れたらおもろそうやんか」


 その手もあるよね。原付なら通り抜けてしまうのがポピュラーだと思うけど、サイクリストの人なら泊まってる人も多いんじゃないかな。大三島にした理由は、


「コトリの趣味よ。大三島には大山祇神社があるけど、前に来たときは駆け足だったからゆっくり見たいってさ」


 歴女だものね。アリスもどうせならゆっくり見たいかも。あそこは有名武将の奉納した鎧とか刀剣がたくさんあるって言うじゃない。アリスも元寇シナリオのヒットで歴史物の依頼がボツボツ出てるんだ。


 鎧だって刀剣だってネットの画像で見れるのは見れるけど、やっぱり本物とは違うのよ。どうしたって画像の方が綺麗に撮れ過ぎてる気がするんだ。本物を自分の目で見ておくのは必要だし、今後の参考になると思うんだよね。


「歴史物って今度の大河とか」


 それはまだまだ下交渉段階だから言えないよ。でもね、あんまり歴史物は得意と言えないから考え中だ。元寇の時みたいに良いアイデアにありつける訳じゃないし、あの時のサキ監督みたいに鬼のような執念で映像化してくれるわけじゃない、


「映画って共同作業だし、監督の影響は大きいよね」


 もちろんプロデューサーもさらに大前提である予算もね。それと、今の段階で苦手な分野でコケたくないのもある。どうしたって人気商売だからケチが付くと色々と都合が悪くなるのは間違いない。


「パイが小さなっとるとこがあるさかい、一度のミスの影響はやっぱり大きいか」


 どうしてもね。日本映画は斜陽を言われてから何年経つかわかんないぐらいだけど、テレビも元気がなくなってる。とくに地上波ね。とは言うものの衛星放送だって規模としてはまだまだじゃない。


「ネットかってそうやもんな」


 ネットは伸びるとは思うけど、大作レベルになると資金力がまだまだ過ぎる。とにかく金食い虫のジャンルだもの。あんだけの資金を回収するスキームはまだ確立してない気がする。


「需要は確実にあるやろうけど、回収できてナンボの世界やもんな」


 そこはシナリオライターの直接の責任分野じゃないけど、コケたら共犯扱いにされてしまうのがこの業界だ。そんな話はともかく、多々羅大橋から山の中に入って西に走った。ここは街だな。


「大山祇神社の門前町や」


 それだけ人気のある神社ってことだよな。さてとどんな宿かな。


「ここや」


 う~ん、旅館の前にある石を組んだ庭は立派そうだけど、建物は愛想がない鉄筋二階建てだ。


「建て替えたんだと思うよ」


 そんな感じだよな。建て替え前は庭と一体となった純和風旅館だった気がする。

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