第47話 戦場でポケーっとしている敵は大体強い

 パリーン!


 魔人の呪いを受けているルベリア王女が、クリスタルに突き刺さっている剣を抜くと、クリスタルは粉々に砕け散った。


 まるで粉雪みたいに舞降るクリスタルから女の子が出てくる。


「……」


 ラベンダー色した長い髪が特徴の女の子。幼い顔立ちは年下を思わせる。無表情でどこか悲しげな顔をしてこちらを見ていた。


 これをバンベルガは世界最悪の魔法、『ウルティム』と呼んでいたが、どこからどう見ても女の子にしか見えない。


「よし、良いぞ。ルベリア! そのままウルティムを使え!」


 バンベルガがルベリア王女へ指示を出す。


 だめだ。バンベルガに邪魔されて俺じゃ届かない。


「ヴィエルジュ! フーラ!」


「はい!」


「うん!」


 咄嗟に出した指示に従って、氷と炎の魔法を唱えてくれたヴィエルジュとフーラ。

 しかし、魔法が届く前にルベリア王女は引き抜いた剣を振り下ろした。


 間に合わなかったか……。


「……」


 あ、うん。なんだろ。擬音にすると、スカッってのがお似合いだね。


 なんとも言えない沈黙の空気が流れる。


「な、なにをしている! 早くウルティムを使え!」


 バンバーン!


『UGAAA!』


 後発で放ったヴィエルジュとフーラの魔法がルベリア王女に当たった。ラッキー。


「ご主人様!」


「あいよ!」


 ヴィエルジュの声に従って横に回避する。


 後ろからヴィエルジュの無数の氷の刃がバンベルガを襲う。


「くっ。小賢しい!」


 流石は落ちても三番隊隊長。持っている剣で無数の氷を弾き飛ばしていた。


「はああああああ!」


 バンベルガが無数の氷を弾いている間に、フーラが炎を纏った拳でバンベルガへ攻撃を仕掛ける。


「ふん!」


 バンベルガが無数の氷を弾きながらも、フーラの一撃を小手で受け止めていた。


「ヴィエルジュ。フーラ。そっちは任せた」


 バンベルガの相手はヴィエルジュとフーラに任せることにする。


 チラリとウルティムの様子を伺うが、ボーッと突っ立っているだけでなにもして来ない。


 ルベリア王女のウルティムってのは不発に終わったみたいだな。そのウルティム自体もポケーっとしているみたいだし、今は特に気にしなくても良さそう。


 そんなわけで俺は一気にルベリア王女との距離を詰める。


 ハルバートに魔力を込めて、魔人の呪いを解除してやろうと思った。


 けど、そんなに甘くはいかないみたい。


 キンッ!


 俺のハルバートは簡単に受け止められてしまった。


「流石はルベリア王女様。簡単に受け止められちまったね」


『り、おん、ヘイヴン……。UOO!』


「なに? きみより強い俺のことがやっぱり好きなの? だったらそんな姿じゃごめんなさいだから、せめて元に戻ってよ」


『りおおおOOO!!』


 魔人の求愛行動なのか、俺の名前を呼びながら素早い突きの攻撃を繰り出してくる。


 魔人化して更に速度の上がった突きは剣術大会の時とは段違いだ。加えて二本の剣で素早く突いてくる。


「ドーピングに加えて二刀流とか、そんな求愛行動ありかよ! こちとら苦手な武器なんだぞ!」


 魔力を感知できずに予測もできない突きに対し、ハルバートでなんとか受け止めるが何発かかすっちまう。


「回避特化の紙装甲の俺には、そんなかすり傷さえも効くんだ、よ!」


 なんとか反撃でハルバートを振るが、簡単に受け止められちまう。


「流石ドーピング姫様。こんな攻撃じゃ刺激が足りないですか」


『きゃあああ』


 フーラの悲鳴が聞こえて来たかと思うと真っ直ぐにこちらに飛んでくる。


「フーラ! 受け止めてやっから、そのあと風魔法!」


「……う、うん!」


 なんてカッコつけたは良いけど、すんげー速度。火の玉ストレートみたいなんですけど。


「ごもっ!!」


 飛び込んで来るフーラをなんとかキャッチ。そのままお姫様抱っこして浮遊する。


「ありがとう。リオンくん」


「怪我はない?」


「リオンくんが受け止めてくれたから全然大丈夫だよ」


「良かった」


「それにしても、バンベルガって人、めちゃくちゃ強いよ。私とヴィエルジュの二人がかりでも全然太刀打ちできない」


「ムッツリスケベだけど実力は本物だからなぁ」


『ちょっとお姉ちゃん!! なにをご主人様にお姫様抱っこしてもらっているんですか!! そこは私のポジションなんですけど!!」


 下からヴィエルジュの怒りの叫びが聞こえてくる。


「言っている場合!?」


「ヴィエルジュ! その怒りをバンベルガにぶつけてやれ!! 今のこの状況を作ったのはバンベルガだぞ!」


『……確かに。バンベルガ様がお姉ちゃんを吹き飛ばさなければこんなことにはならなかった』


 ダンっとヴィエルジュは怒ったように地面を踏み込んだ。


『処刑です! そこのムッツリスケベ!!』


『俺はムッツリじゃない!!』


 なんとかヴィエルジュの怒りの先をバンベルガに向けることにできた。単純というか素直というか。


「バンベルガはヴィエルジュに任せるとして、こっちは王女を解放してやるか」


「どうするの?」


「フーラ。『メテオストライク』を撃ってくれ」


「え? う、うん。わかった。受け止められちゃうかもだけど良い?」


「むしろそっちの方が良い」


「オッケー」


 フーラは俺の胸の中で火の最上級魔法を唱えた。


 大量の魔法陣が浮かび上がり、まるで俺が魔法を唱えている擬似体験を経験できる。


『メテオストライク』


 上空からルベリア王女目掛けて放たれる燃え盛る隕石。


『……FN!』


 それを難なくと受け止めるルベリア王女。ここまで予想通りだ。


「ライオ兄さんの武器は使いにくいんだよ! マザコン兄貴があああ!」


 武器にはなんの罪もないが、ライオ兄さんの愚痴を放ちながらハルバートをメテオストライク目掛けて投げる。


 バーーーーーーン!


 ハルバートがメテオストライクを貫いて大爆発が起きる。煙が大きく舞い上がる。


 徐々に煙が晴れていくと、ルベリア王女は元の姿に戻っていた。

 どうやら俺の魔力を込めたハルバートが魔人の呪いを貫いてくれたようだな。


「くそ! 使えない王女め。致し方ない──!」


 バンベルガはどこからか注射器を取り出して頸動脈辺りに刺した。


 いや、鎧でガチガチだからってそこに刺すかね。痛そう。


『くっ。OOOOOO!』


 バンベルガは段々と姿を変えていく。その姿はジュノーよりも禍々しくも大きい。


『お、俺が魔人化することはないと思ったが……。こうなっては誰にも止められんぞ』


 コキコキと自分のパワーアップを確かめるように体を鳴らすと、ヴィエルジュをロックオンする。


『まずはヴィエルジュ。お前から──だ……?』


 言葉の最中にバンベルガの首が取れてしまう。綺麗にスパンと首と体が切り落とされた。


 一体なにが起こったのか一瞬わからなかったが、さっきまでぼーっと立っていたウルティムが、封印されていた剣でバンベルガを斬っていた。

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