第44話

「アルカンタラ、あなた何か知ってるの?」


 ポピーの父親から飛び出した魔族の男マダックス。アルカンタラは何かを知っているようだった。


「ああ、100年前……いつも魔王のそばにひっついてた魔族だ……戦闘自体はそんなに強かった印象はないがな。作戦参謀って感じのチビのジジイだったな」


「魔王の部下だったってわけね……そいつが暗黒水晶を?」

 ミルリーフはポピーの父親に尋ねる。


「詳しい事は分かりませんが、おそらくそのマダックスという男が現在の魔族のリーダー格だったようです」


「けっ、あんなジジイが魔王になるだと? 調子乗りやがって、俺がぶっ飛ばしてやるよ。暗黒水晶の力で多少強くなっただけだろ?」

 アルカンタラは息を巻く。


「……そして、マダックスは言ったようです」

 ポピーの父親は恐る恐る口を開く。

「暗黒水晶はまだまだ完成していない、と……」


「つまり……」

 アルカンタラはゴクリとつばを飲み込む。


「はい……完成したらモンスターは今より増え、強力になり、魔族の力も更に強まるということです」


「そ、そんな……今さえあちこちでモンスターが現れるようになって大変なことになってるって言うのに……」

 ミルリーフは顔をしかめる。


「ヤバいことにやってきてるみたいだな……クソッ! せっかく魔王を倒したってのに、また魔族かよ」

 アルカンタラは拳を強く握った。


「またあの頃に、100年前のような荒れ果てた世界になってしまうのか? 勇者ソーサーが守ったこの世界が……」


 Sランク冒険者になり、手っ取り早く暗黒水晶を強せるとタカをくくっていたアルカンタラだったが、ことの重大さに気づきうつむいた。


 ◆


 最北端の島


 洞窟の奥、暗がりに怪しく浮かぶ紫色の光を放つ暗黒水晶。

 あたりには無数の冒険者の遺体が横たわる。


「ふぅ、突然、冒険者が来たから驚いたが、コイツら昔より格段に弱くなってるようじゃな。クックック、ソーサーとか言うガキには参ったが、今の冒険者ならワシでも楽勝だな」


 暗黒水晶のかたわら、紫の光に照らされ怪しく笑う魔族の男、魔王の側近だったマダックス。

 魔王が滅び、魔族は次々と狩られながらも、逃げ延びた数少ない魔族だ。

 現在はこの最北端の島で、魔王の側近だったということで生き残った魔族のリーダーを務めている。


「マダックス様、もう冒険者は来ないのでしょうか?」

 部下の魔族は片膝をつき、マダックスに声をかける。


「ふふふ、慌てるな。

 返り討ちにしたとはいえ、おそらく現在では奴らがトップクラスの冒険者たちだったのだろう。その冒険者があっけなくやられたんじゃ。

 人間どももバカじゃない、続けて同じような冒険者を行かせるような真似はしないはずじゃ」


 暗黒水晶は生き物の怒りや憎しみを養分に少しづつ成長している。100年前は小石のような魔族の秘宝をマダックスがこの島で長い年月をかけ育ててきた。


 マダックスは、老いてシワだらけになった細い腕をブルブルと震わせ興奮しながら言う。


「今のうちに暗黒水晶を完成させるんじゃ!

 敵は人間どもだけじゃない。ドワーフにエルフ、そして厄介な精霊もおる。力が……もっと力が必要だ。

 長かった……魔王様が亡くなってから、我々魔族は屈辱に耐えた……あと少しだ! あと少しで暗黒水晶は完成する。そうすれば我々は更なる力を手に入れ、再び魔族が支配する暗黒の世界の出来上がりだ。

 その時……魔王はこのワシじゃッ!」


 最北端の島、暗黒水晶の光輝く洞窟にマダックスの高笑いが響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る