第43話 泣き下手姉妹の告白と生徒会 2


 生真面目な書記少女は、大きく息を吐いた。


「倫理的、常識的に考えて、とんでもないお話です」

「んふぅ……」


 ばっさりと切り捨てられ、双子姉妹は揃って泣き顔になる。

 真理佳は続けた。


「名字が違うということは、養子縁組をされていないのですよね。つまり法律的には親子じゃない。親子同士の恋愛なんて言語道断ですけど、親戚同士なら……まあ、ギリギリありなんじゃないですか?」

「真理佳ちゃん……」

「あ、でも民法では3親等以内の近親婚は禁止されていますので、そのラインは守ってください。あと、せめて卒業までは清い関係でいてくださいね。社会的にアウトですので。あとイメージが壊れる」


 キリッと優等生らしい発言をする真理佳。

 恐る恐る紅愛が尋ねる。


「真理佳ちゃん、本当にいいの?」

「いいも何も」


 そこで顔を少し赤らめ、視線を外す真理佳。


「これまで、さんざんお世話になってきた憧れの先輩たちが、あんな真剣な表情で告白するんです。その……後輩として、応援したくなるじゃないですか」

「真理佳ちゃーん!! んふぅ!!」

「一ノ瀬さん! やはりあなたは私たちが見込んだとおりの女性です! イイ子!!」

「ちょっ!? 先輩方、やめてください! そんなに抱きつかれたら、また蓬莱先輩が――!」


 双子姉妹に力一杯抱きつかれる真理佳。

 その様子を、アズサはじっと見つめていた。例によって、テーブルに顎を乗っけて実に悔しそうである。「羨ましい……」と呟きながらテーブルの端を囓った。


 だがすぐに姿勢を正す。


「紅愛さま。白愛さま。ご安心下さい。この蓬莱アズサ、おふたりへの信仰心にはいささかの揺らぎもございません。むしろ、情報的にレア度が上がっておいしさ倍増です」

「おいしさ……」

「公式カップリングを邪魔しない。これは信者として当然のたしなみですわ」

「信者……」

「ちなみに、もし能登さん攻略のためにデートや旅行などをお考えなら、ぜひ、この蓬莱アズサにご一報を。何者にも邪魔させない、鉄壁最強最高のプランをご提供いたしますわ! 金に糸目は付けませぬ!」

「だ、ダメだよ。そんなことにおうちのお金を浪費させたら」

「え? そのための蓬莱家、そのためのリアルマネーでは?」


 当然と信じて疑っていない顔。これにはさっきまで泣き顔だった双子姉妹も若干引いた。


 それまで黙っていた田中が出入り口扉から離れる。会長席に座り、彼は鷹揚に言った。


「まさか、あの涼風姉妹にそんな背景があったとはな」

「田中先輩。今更下克上を狙っても無駄ですよ!」

「そうですわ。あなたは永遠の噛ませ犬なのですから、紅愛さま白愛さまのスキャンダルで身を立てようなどみみっちい真似はおよしなさい!」

「……単に感想を呟いただけでひどくね?」


 げんなりする田中。それから彼はひとつ咳払いした。双子姉妹を見る。


「とりあえず、今の話はこの部屋の人間のみに留めておいた方がいいな。能登氏への想いを貫くにしても、割り切って親子の関係に落ち着くにしても、学内を動揺させるのは得策じゃない。むしろ涼風姉妹の学内での影響力を考えると、このまま生徒会を『上手く使う』方がこの先も便利だろう。我々とすれば、涼風姉妹の心労が軽減されるならそれでじゅうぶんさ」

「…………」

「なんだ、お前らその顔は。揃いも揃って珍獣を見るような目をして」

「いや……田中先輩って、意外と冷静で常識人だったんですね」

「なあ諸君。俺はいつまでこの熱い風評被害と闘えばいいんだ?」

「初めて会長らしいところを見せましたわね」

「ひどくね? なあひどくね?」


 いつものやり取りを繰り広げる生徒会メンバー。

 その姿を見た紅愛と白愛は、小さく吹き出した。気持ちよさそうに笑う。


「生徒会に入って良かった。ねえ白愛?」

「ええ。まったくです」

「紅愛君。白愛君」


 田中が言った。アズサと真理佳も双子姉妹を見つめる。


「我々は君たちを全面バックアップする。真実を話してくれた信頼に応えよう。我々は――涼風姉妹の味方だ」

「ありがとう、田中君。アズサちゃん。真理佳ちゃん」

「これほど心強いことはありません」


 双子姉妹は泣き笑いの表情を浮かべて言った。


 ――そんな彼女らの様子を、大人たちは少し離れたところから見守っている。


「やはり、ぼくの見込んだとおり。これで紅愛も白愛も、前に進めるでしょう。これなら、『あの子たち』にも話してよさそうですね。……はなさん?」

「え? 何?」

「どうかされましたか。先ほどから何か思い悩んでいるご様子ですが」

「思い悩む……」


 はなは呟く。

 子どもたちの絆を、微笑ましく眺めていたのは確か。

 しかしはなは、心のどこかでもやを抱えていた。前に進もうとする双子姉妹を、スッキリ応援できなかったからだ。田中のように割り切れない。真理佳のように譲歩できない。

 なぜだろう?


 かつては妹のように可愛がり、庇護した紅愛と白愛。初対面とは思えないほど意気投合し、隣にいることがまったく苦にならない勝剛。


 ひとつ、思い至る。

 自分は『切ない』のかもしれない。

 彼ら、彼女らの間に、自分はもう必要ないのだと思えてしまうことが、切ないと。


 はなは、ぽろりと涙を流した。

 両目から一筋ずつ。

 天井を向き、ハンカチを顔に当てる。それから、自らの頬を軽く張る。


 朝仲に向き直り、努めて明るい声で彼女は言った。


「いえ、大丈夫。自分のことは自分でケリを付けようと、そう思っただけですよ」





【43話あとがき】


田中、アズサ、真理佳、反応は三者三様ながら双子姉妹を支えることで一致する――というお話。

それにしても相変わらず会長への扱いが雑ですよね? いいこと言ってるのに。

朝仲さんがぽつりと呟いた『あの子たち』とは?

それは次のエピソードで。

はなさん、複雑な心境を抱えてツラいなと思って頂けたら(頂けなくても)――


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