看病開始とジャックのささやかな願い

ジャックを連れてきてから朝になるまで仮眠を取りながら様子を見ていたけど、昨日の夜より酷い症状はでなかった。



軽く伸びをしてキッチンに向かい、私達とジャックの朝ごはんを作り、リリアナと朝食を食べているとガタンッと大きな音がなったので何事かと思って廊下に出るとジャックが床に倒れていた。



「何をやっているの!? まだ安静にしてないとダメなのに!! 」



熱だって下がっていないのにと思いながら駆け寄ると彼は何処かホッとしたような表情を浮かべていた。



「良かった……、夢じゃなかった。」



そう言う彼はどこか幼く、まるで熱を出した時のリリアナの様だった。



(そんな顔されると調子狂うわ……)



やはり、リリアナの父親なだけあって雰囲気が娘と似ている。殆ど私に似ていると思っていたけど表情ひとつで血の繋がりを感じてしまった。


「兎に角、部屋に戻りましょう。もう少ししたら食事を持っていきますので起きていて下さいね。」



ジャックが居たのは幸いにも彼が使っている部屋の前だったけど男性で病人の体は思った以上に重くて担ぐだけでも一苦労だ。



(凄く重い……。これ、ベッドまで落とさずにいけるかしら? )



なんとか彼を持ち上げてベッドまで行こうとした時、急に体が軽くなって驚くと既にジャックはベッドで寝転んでいた。

驚いて彼を見ると明らかにさっきまでより体調が悪化していて急いで駆け寄る。



「はは……、簡単な転移魔法を使ってこの体たらくじゃ格好がつかないな……。」



ぜいぜいと苦しそうに息をする彼を見て色々と小言を言おうとしたけど諦めた。



「自分でベッドに戻ってくれて助かりましたけど今度からは私に用がある時はそのベルで知らせてくれたら絶対に行きますから。」



だから、安易に動き回るなと釘を刺すと何故かジャックはヘラヘラと笑っていので、用もないのに鳴らすなと言っても表情を変えなかったのが不思議でならなかった。




ーーーーーーーー


朝食を終えて、彼の分のご飯と風邪薬をお盆に乗せて持っていく。スープを持ってきてはいるけど食べれる状態なのだろうか?と思いつつノックしてから扉を開けて部屋に入った。



「伯爵様、お加減はいかがですか? スープは飲めそうですか? 」



そうは聞いたけど、薬を飲んでもらう為にもお腹に何か入れてもらわないと困る。ただでさえあの状態ではろくに食べることも出来なかったと思うので。


「……そこに置いておいて。まだ自力で動くのはしんどいから……。」


「食欲はあるんですか?」



そう尋ねるとどうだろうとジャックは答えた。



「食欲はあると思う。でも、食べられるかは別問題だ。今の状態じゃスプーンを持つのも難しいと思う。」



(彼にしては随分とハッキリしないというか、後ろ向きな答えね)



まさか私に気を遣っているのだろうか?……何だかとても今更な気がする。

彼に近寄ってからベットの上で起き上がって貰いスープをすくってから彼の口元に持っていった。


「一口でも良いから食べてみて。気分が悪くなったらすぐに言ってね。」



そう言うと彼はスープを飲みこんだのでホッとしているとカパッと再び口を開けたのでスープをすくっては彼の口元まで持っていく作業をしていると気がつけばスープはなくなっていたので手早く薬を飲ませた。



(本当にリリアナを看病しているみたいだわ)



この時にはもう男性ではなく子供を相手にしている感覚になっていた。片付けてキッチンまで持っていく準備をしているとアシュリーとジャックが呼んだ。



「何かしら? もう少ししたらお薬が効いてきて楽になるからね。」



もう少し頑張ってと彼の頭を撫でると撫でていた手をとり、お願いと言った。



「俺が眠るまで手を握っていて欲しいんだ……。ダメ……かな……。」


まるで一生のお願いでも言うかのような言葉に勿論と答えた。



「貴方が眠るまでここにいるわ。だから安心して眠って下さいな。」



そう答えると彼は安心したかのように眠りにつくのだった。









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