人生最大のピンチと思わぬ救世主

ギルドで仕事をしているとカウンターの周りがざわざわといつもより人の声がしたので顔を覗かせるとギルドマスターであるヨハンと誰かが言いあっていた。



「ですから、これ以上の情報はないと言っているでしょう。」


「うるさい! これは皇后陛下の命令である。大人しく言う事を聞け!!」



(皇后陛下って……マリアベルの事? 今度は一体何だろう? )



そう考えていると真下から魔法陣が浮かんでおりそれと同時にぎゅっと後ろから誰かにしがみ付かれた。



(リリアナ!? )



何が起こっているか分からずそこで意識を手放してしまった。



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「う……。」


気が付くと見慣れたというよりも懐かしい天井が見えた。起き上がって辺りを見回すとやっぱりルーマン侯爵家にある私の寝室だった。


「何で私此処に居るの? ……そうだ、リリアナは!?」


床が光った時に見えたのは確かに魔法陣だった。空間移動の魔法だったらバラバラに飛ばされた可能性だってある。



(探しに行かなきゃ!! )



ベッドから出て扉を開けるとノックしようとしていたお父様とお母様が立っていた。


「……公爵様と夫人に置かれましては本日もお日柄が良く。申し訳ございませんが娘を探しておりますのでこれにて失礼させていただきます。」



はたから見たら大層失礼な挨拶に見えただろうけど、今の私はそれどころじゃなかった。そんな私にお父様はアシュリーと呼びかけた。


「詳しい話はリリアナがこちらに戻ってから話そう。取りあえず部屋にはいりなさい。」



いつもは他人の振りを貫き通す二人が昔の口調で話しかけてきたので、ハッと我に返った。……私に関することで何か問題があったんだ。その考えに至った私は大人しくリリアナを待つことになった。



程なくしてから、リリアナがエマと共に私の寝室に入ってきた。娘の無事を確認できて気が緩んだのかポロポロと涙が溢れてしまった。私の泣き顔に驚いたリリアナは急いでこちらに駆け寄ってきた。


「お母様、大丈夫!? 何処か痛いの……? 」


「いいえ、いいえ……っ!貴方が無事で本当に良かった……っ!」



思い切り抱きしめるとびっくりしていたけど、お母様は心配性なんだからと抱きしめ返してくれた。



「それに此処まで私とお母様を移動させてのは私だもん。失敗なんてありえないわ!! 」


---ちょっと待って?


「え、貴方がこの魔法を使ったの? 」


空間移動の魔法は難しいって聞いたことあるんだけどと頭に疑問符を浮かべているとお父様が声をかけた。


「その事についても話がある。二人ともに関係のある話だ。」





エマにお茶を入れてもらい、こうなった事情を聞きはじめた。


「マリアベルが私が生きている可能性を今更考え出したっていうの? 」



事の発端はヨハンがリリアナに魔法の訓練をしていた時だったそう。もうこの時点で本格的に魔法を学んでおり私の知っている範疇はとうに超えていて話の半分も理解出来ていなかったがそこは置いておく。


お父様は頷いてさらに話し出した。



「買い出しに来ていたお城の侍女が訓練中のリリアナを見かけて報告したそうだ。侍女は世間話の一つとして話したそうだが興味が出たと国中で捜索している。」



勿論それだけじゃないだろうがなと、お茶を口にした。お父様の言う通り私に瓜二つのリリアナを見て不安要素を取り除きたかったんだと思う。

そして、お母様は心配そうにこちらを見ながら話しだした。



「2人が来た時は驚きましたが、ヨハンがリリアナに持たせていた手紙を読んで状況を理解しました。事前にヨハンが予測して対処していなければ今頃どうなっていたか……。」



(だからあの時ヨハンはあそこで言い争っていたのね)



本当の目的は私達が此処へ移動するための時間稼ぎだろう。最もヨハンが前に出て長く時間が稼げたのはリリアナが空間移動の魔法を使えたのが大きい。そんな事を考えているとお父様が顔をしかめた。



「だが、逃げた事実は変わらない。時期にここにも捜索に来るだろうな。」



マリアベルは少しでも私の痕跡は消したいはずだ。そうしなければ彼女は皇帝を欺いた罪で処罰は免れないはずだから。



(こうなってくると小説のアシュリーがアルコール依存症で亡くなった事だって怪しくなってきたわね)



奇しくも、リリアナは10歳の誕生日を迎えたばかりだった。



私はお酒も飲まないので油断していたけどこの世界の修正力を忘れていたわけではない。---だって、リリアナが10歳になるまで生きられないかもしれないと覚悟していたから。



「お母様は10年前の約束は覚えていらっしゃいますか? 」



その言葉を聞いてお母様はハッとした。


「駄目よ、アシュリー!! 変な事は考えないで頂戴!!」


「彼女の目的は私でしょう。私が行けば少なくともリリアナは見逃してくれるはずです。」


立ち上がるとリリアナの前に屈んだ。



「良い? リリアナ。もし何か聞かれても知らないと言うのよ。お母さんは私に興味なんて無かったと言って---」


そう言葉を続けようとすると思い切り抱き着かれた。



「嫌だ!! 何でそんな事言わなきゃならないの!? お母様は何も悪い事なんてしてないじゃない!!! 」



その言葉に覚悟が揺らいでしまった。---そうよ、リリアナの言う通り私は何も悪い事なんてしていない。でも、これ以外に皆を守る術が分からない。



リリアナをきつく抱きしめていると玄関から何かを破壊する音が聞こえた。

急いで皆で玄関先まで行くと思いがけない人がそこに立っていた。



「あ、やっと見つけた。俺の娘!! 」



あの日以来、会う事の無かったリリアナの実の父親であるジャックがそこに立っていた。











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