同情?いいえ、愛情です

すやすやと眠る我が子を眺めつつ今思い出した記憶の状況の整理を始めた。


「やっぱり小説の世界に転生してたんだ……。それにしては思い出すのが遅すぎない? 」


私が読んでいた小説『優しき皇女様』の世界だとリリアナを産んでから思い出した。



小説『優しき皇女様』は皇女カトリーヌと侯爵家の次期当主アスランの恋模様を描いた恋愛小説だ。そして、私の娘リリアナは『稀代の悪女』として登場する。


美貌と魔法の才に恵まれたリリアナであったが親の愛には恵まれず、愛情を欲しがる女性へと成長し、デビュタントの際に優しくしてくれたアスランに熱を上げて恋を叶えるのに邪魔となるカトリーヌの暗殺を企て、その他諸々の悪事もバレて最終的には斬首刑となってしまう。


「物語の軌道修正が掛かっているのが何とも言えないわ~。」


そう、私が自暴自棄になって一夜を共にしたあの男こそ、この国一番の魔法使いジャック・ハーネスト。リリアナの父親として登場するキャラクターだ。


「そして、リリアナの母親のアシュリーは下町で暮らしてアルコール依存症で彼女が10歳の時に亡くなるのよね。」


リリアナの過去回想のシーンは母親の葬式からはじまるので母親の事は死亡理由以外は特に書かれていなかった。


「ジャックが欲しかったのは『自分の血を継ぐ子供』。あの人でなしがリリアナに愛情を注ぐなんて思えないわ。」


そんな事を考えていると眠っていたリリアナが起きたのか泣き出してしまった。

急いでベビーベッドに向かい、リリアナを抱き上げた。


「リリアナ……。泣かないで、お母様は此処にいるわ。」


さっきまで感じてなかった愛情が記憶を思い出してから湯水の様に溢れてくる。

あのまま思い出せていなければ小説と同じ道筋を歩んだかと思うと怖くなった。


(こんなに愛しく感じるのは私がアシュリーの置かれた状況を理解して心に余裕があるから。本当のアシュリーなら精神をすり減らしていても可笑しくないわ)


子供の事は私の様に家族に言えなかったんだろう。そして、自業自得とは言え自分をここまで追いやった自分の子供を愛することが出来なかったんだろうな。


「リリアナに暴力を振るった描写はなかったから多分八つ当たりだって出来なかったんだろうな。それでお酒におぼれてしまった。」


アシュリーの人生を考えるとあまりにも哀れだ。勿論そんな人生を歩むつもりなんて毛頭ないのだけど。


「この子を『稀代の悪女』になんてさせないわ。」



物語の修正力を甘く見ていた。真っ当に生きれば回避できると本気で信じていたんだから。



「10年……。10年でこの子の生きる基盤を整えなくちゃ。」



物語の修正力によって私はリリアナが10歳の時にはこの世に居ないかも知れない。

それでも、この子には幸せに生きてほしいと願うから。


「リリアナ、絶対に不幸な道に行かせたりなんてしないわ。」




---例え、私の人生を全て捧げたとしても


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