悪い予感は大体当たる

あれから12年が経ち、16歳になった私はデビュタントを控えていた。



「アシュリーお嬢様は何でもお似合いになられますね。」



そう言ってあれもこれもと服やアクセサリーを進めてくるのは数か月前に私の専属侍女となったマリアベルだ。



「少し派手すぎる気もするけれど……。」


 いつもシンプルなデザインを好んで着ているせいか、お母様お抱えの仕立て屋が作ってくれた沢山のドレスは正直言って目が痛くなりそうだった。



「他のご令嬢はもっと着飾ってこられるはずです!! 美しく着飾ったお嬢様の美貌が社交界に広まる日はもうすぐですよ!!」



 マリアベルがそう言うと準備をしていた他の侍女達も彼女に賛同しており心なしかいつもより気合いが入っているように思えた。


(今頃の私は社交界で色んな貴族と交流を深めている筈だもんね)



 本来であれば私のデビュタントは去年行われる筈だった。



 しかし、私達の領地で魔獣が大量に出現してしまいデビュタントが始まる時期には私達の家はてんやわんやしていたのだ。



「死傷者が出なかったのは本当に幸運だったと思うわ。」



私の言葉を聞いて去年の事だと分かったマリアベルはそう言えばと私に話しかけてきた。



「凄腕の魔法使いが大活躍したんですよ。侯爵様が町の修繕に力を入れることが出来たのは殆どの魔獣をその方が倒したからだとか。」


とても格好いい人でしたと興奮した様子でマリアベルは話していたけど、私はそれどころじゃなかった。


(そんな話聞いたことがないわ)


初めて知った内容に驚いていたけど、侍女達の慌てる姿を見てどうやら皆は知っていたのだと理解した。


「魔法使い様が領地に来てくれていたの? お父様は何で私に教えてくれなかったのかしら。」



 領地を救ってくれた恩人が居た事も知らず、お礼も出来なかった事に眉をひそめると侍女たちが戸惑った表情を見せてから、おずおずと一人の侍女が口を開いた。



「そのお方はその……。とても女性が好きな殿方でして、侯爵様と奥様がデビュタント前のお嬢様に会わせたくないと仰り、私達も口止めをされておりまして……。」


そう言ってからその侍女はマリアベルをギロリと睨みつけていたけど、当の本人は察しが悪いのか何故自分が怒られているのか分からないといった態度をしていた。



「二人が会わせたくないというのであれば相当なのでしょうね。」



 少なくとも恩人に対しての礼儀はきちんとする人達だから、よっぽどの事が無い限りそんな対応はしない。

 手を出してはいけないという分別が付かないのか、私がその人に惚れてしまうことを恐れたのかのどちらかなのだろう。-----少なくとも手は早い人なのだという事は侍女達の態度を見て分かってしまった。



(この部屋の侍女達の態度を見る限り、屋敷の殆どの侍女に手を出してそうだわ……。それに気が付いたお母様がお父様に提案をした可能性が一番高いわね)



 お父様一筋のお母様からしてみれば理解出来ない行為だと思うし、お父様も人に価値観を押し付けたりはしないけど男女の交友関係に対して潔癖なところがあるから私を近づけたくなかったのかも知れない。



「未だにジェレミー様にもお会いできてないのだからお父様たちの男性に対する基準が高すぎる気もするわね。」



そう言って微笑むと侍女達はさっきの気まずそうな態度を一変して嬉しそうにこちらを見てきた。


「そうですよ! 皇太子殿下に初めてお会いになるのですからより一段と準備に気合いを入れてデビュタントに臨まないといけませんよ!!」



 侍女達がそう言った途端マリアベルは浮かない顔をした。


 隠しているつもりかもしれないけれど、きゃあきゃあと楽しそうな侍女達の中でマリアベルの表情はより一層浮いて見えた。



(自分で言うのと聞かされるのでは感じ方が違うのかしらね)



 マリアベルはこの世界のヒロインかもしれない。でも、彼女を苛めてもいないし侯爵家も後ろ暗い事情があるわけでもないので少なくとも今現在彼女に断罪されるような展開にはならないはずだ。


(大丈夫……ここまで来て悪い方向へは行かないはずよ)


そう自分に言い聞かせて感じた不安感を無視したのだった。




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