第26話 顕示の一撃
◇◆◇◆◇
『ふむ……十数人は生き延びたか』
準S級ダンジョン最下層のひらけた空間真っ白な空間――ボス部屋にて、人の形をした何かは渋い男の声でそう呟いた。
(確実に殺すには、侵入者を全員同じ階層に飛ばしたのは間違いだったか。だが、希望をチラつかせ最後の最後に絶望させる事が、我にとって糧になる。
今は我が領域に侵入された怒りを鎮め、侵入者をどう扱うかが大事になってくるな)
男はそう考え、その男だけに見える、スクリーンパネルの86階層文字をタップし魔物達に指示を送る。
――侵入者を殺せと。
《side:芳我竜真》
《魔力回復ポーション》を希望した全員に飲ませて回ってから、約十数分。やっと皆さんの顔に生気が戻ってきた所で、俺の【魔力感知】に反応があった。
「なっ」
俺は思わず声を上げた。それに横に居た橋本さんと博幸さんが反応する。
いや、博幸さんは俺と同じタイミングで反応していたな、強力な察知系スキルを持っているのだろう。
「竜真君も気付いたのかい? ……悍ましい程の魔物の数だね」
「そうですね……」
「なんだ? 魔物が来てるのか?」
橋本さんの反応からして、まだ気づいていないのだろう。
「はい、この結界に魔物が、それも百体に近いS級の魔物が迫ってきています」
「な、何だと……?」
先程までこの辺りを覆っている博幸さんの結界の周り、大体100m圏内には魔物は一切近付こうとしなかった。だが、今になって魔物の大群がこの結界に押し寄せてきている。
何か作為的なものを感じるな。
橋本さんは皆がいる方向に向き直ると口を開いた。
「皆! 聞いてくれ! 今、俺達が居るこの場所に向かって、百体近い魔物が押し寄せてきている!! 今ここから逃げても追いかけてくる可能性は高いだろう! そして次の層に逃げ込める可能性も限りなく低い! なので、ここで向かい撃つ!! 皆配置に着けぇー!!」
なんて安直な指示なのだろうか。まぁ、その分やりやすくはあるけど。
俺はそう思い、配置に着こうと魔物が向かってくる方向へ前進する。すると、肩を掴まれた。
「竜真君、何をしているんだ。君は回復役だろう? 前に出てどうする?」
橋本さんは怪訝そうな顔で俺にそう言う。
そうか……俺はそう言えば回復役としてこの攻略隊に受かったんだった。だからだろう、橋本さんは俺の事を完全に回復役だと思い込んでいる。
――だったらここは単純に、力を示そう。
「橋本さん、ちょっと離れていてくださいね。博幸さん、こっちの方角で合っていますよね?」
俺は橋本さんの手を払いのけながら、博幸さんに魔物が向かってきている方角を確認する。【魔力探知】で見えてはいるが、一応確認しておくことで橋本さんにこちらの方向に魔物がいると認識させる。
「ああ、そうだよ」
そして俺は剣を召喚する。召喚したのは前世の記憶で薄らと見覚えがある、魔剣デイアクルムだ。
召喚された魔剣を見て高橋さんが固まる。
俺は一歩を踏み出し、魔剣を上段に構えた。
――そして俺は魔剣を振り下ろし、前世でスキルに昇華した技名を呟いた。
◇◆◇◆◇
「——【
酷く冷たい声が竜真を中心に、まるで池に一滴雫が落ち、波紋が広がるが如く辺りに響いた。
それは竜真の力の証明。そしてその存在の顕示に値した。
刹那、鼓膜を震わせる重低音と共に、禍々しい閃光が直線状に走った。
直線状に存在する一切合切を一瞬にして飲み込み、階層の壁に閃光は激突した。
存在した百体の魔物はなすすべもなく消滅したのだった。
「……これで俺が戦えるって証明出来ました?」
竜真は振り向きざまに地面に魔剣を刺し、橋本や他の探索者に微笑みかけた。
その場にいた探索者達はその微笑みを呆然と見る事しかできなかったのだった。
◇◆◇◆◇
“うわっ!?”
“なんだ今の光……”
“森が半壊してる……”
“はあ!?”
“一体今のはなんだい……?”(英語コメント)
“CGだろ”
“↑そんなわけあるか。これライブだぞ”
“こんな事、ライゴでもできないんじゃ……?”
“こいつ何者だよ”
◇◆◇◆◇
「……何だと?」
準S級ダンジョン最下層にて、スクリーンパネルで仕向けた魔物の様子を見ていた男は、目を見開いて食い入るようにスクリーンを見る。
「あの一閃は我にすら、傷を負わせる威力だぞ。どういう事だ、何故そこまでの人間がこの地球に存在する!?」
男は玉座から立ち上がり、スクリーンを睨みつける。
「これでは、我がこの男と戦う羽目になりそうだな」
男はそう呟き額を抑え、玉座に倒れ込むように座った。
そして男は気付く。目線の先に扉が出現している事に。
◇◆◇◆◇
「わぁお」
まるで天国のような花畑に寝そべっていた、灰色の髪に黒を基調とした服を着た男が、そう呟きながら目を開く。
その姿は花畑にある一つの異物にしか見えない。
「まさかこの世界にも僕たちに匹敵する人間がいるなんて」
この男も竜真の一撃を観測した一体だった。
「さ~て、どうしようかな~っと」
男は跳ね飛ぶように起き上がると、《植躁魔法》と呼ばれる植物を操る魔法で、花畑の花から強制的に蔓を生み出させ、自分の椅子を作る。そして座った。
蔓にしては丈夫な椅子だった。
そして男は気付いた。目線の先に扉が出現している事を。
一瞬目を剥くが、見知った柄の扉だと思い平然を装う。
するとその扉が古めかしい音を立てながら開かれた。
そこから現れたのは、ただただ白い少女。その顔には寒気がする程の無表情が貼りつけられていた。
(まるで精巧に作られた美。機械の様だ)
と、男は思う。そして同時に(見知った扉から見知らぬ少女が出てきた。どういうこと?)と首を傾げた。
「その疑問にお答えしましょう。私は
「その主様って、カイ様の事で合ってるよね?」
男のその問いにエムはコクリと頷く。
「じゃあ、伝言をさっさと教えてくれないかな~。僕はだらだらするのに忙しいんだよね」
「分かりました、伝言は二つあります。一つ、空席だったダンジョンマスター統括役に私が就任しました。以後宜しくお願いします」
「はいはい……え? わ、分かりました宜しくお願いします」
男は急に態度を改め、姿勢を正すと深々とお辞儀をした。
「二つ、クヴァルティスのダンジョンで我々に匹敵する威力の一撃を感知しました。彼の人間には気を付けてください」
「……分かりました」
「以上です。何か異常がありましたらこの扉をノックしてください。対応します」
「わ、分かりました、伝言有難うございます」
「では引き続き、この『幻想
そう言い置いてエムは扉の中に消えていった。
「はぁ……」
男はエムが扉の中に消えたのを見計らって溜息を吐く。
(あの少女がマスター統括かぁー……。カイ様があの少女を統括に任命したのであれば異論はないけど……しかしあんな少女、カイ様の配下にいたか?)
男はそう考えるも答えは出てこず、花畑に横たわるのだった。
《side:芳我竜真》
「あっははは、強い強いとは聞いていたけどここまでとは」
博幸さんは大きな声で笑いながら、俺の頭を撫でる。
「いや、なんで頭撫でる?」
「正直助かったよ、君以外の面々であの数の魔物を相手取るのは恐らく難しかっただろうからね」
「え、無視なの?」
俺は溜息を吐き、橋本さん達に目を向ける。すると高橋さんはビクッと肩を弾ませ目を震わせながら俺を見る。
なんでこんなに怯えているんだ? ちょっとやり過ぎたかな。これでも加減した方なんだけど。
「あ、ああ。竜馬く——さんは十分過ぎるくらいに戦力になるようだ。……皆! 見ていたよな!! 今から竜真さんを先頭に攻略していきたいと思う!! 異論はあるか!!」
嘘だろ……俺がそれなりに戦えると分かったら、先頭に立たせるとか……まぁ、それが最善策なのだろう。ここにいるS級A級の面々は一人でS級の魔物数体すら相手取れない。一対一で大体の面々がトントンだ。
そんな彼らを死なせない為に、S級の魔物数十体でも割と相手取れる俺を先頭に立たせるわけだ。確かにその方が死者を出さずに済む。
だが、橋本さんは俺に断りなくそう言った。それがなんとなく感じ悪い。
「いいのかい? 彼、勝手になんか言い出してるけれど」
「俺に号令をかける能力もありませんし、俺を先頭に立たせるのは理に適っている。俺が先頭になるのを断る理由もないですしね」
「そう……」
ようやく頭を撫でるのを止めてくれた博幸さんを見て、俺は再度溜息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます