第24話 転移
俺が来た後も、五人ほど人が広場に入ってきた。
自衛隊員が見ていたタブレットは恐らく、今回の選抜に選ばれた人の名簿だよな? なんて書いてあるのかすごく気になる。
俺は博幸さんの隣で広場に居る人たちを眺めていると、その中から一直線にこちらに駆け寄ってくる人が見えた。
あれって、洋治か?
「竜ー真ー! よう! 昨日ぶり」
「昨日ぶり、今日の調子はどう?」
「調子良いぞ! めちゃくちゃ!」
「それは何よりだよ」
バンバンと背中を叩いてくる洋治。今日は一段と元気だな。
「竜真君、その人は誰かな?」
「あっ、紹介します。同じA級試験で出会った友達の三谷洋治君です」
「そうなんだぁ。よろしくね、洋治君」
「アッ、ヨロシクオネガイシマス」
急に洋治が片言になって、博幸さんと握手を交わした。
握手し終えると洋治が肩を組んで、小声で話しかけてくる。
「お前さん、どこであんな大物と知り合ったんだよ!」
「えーっと、霊能力関係?」
「ああーなるほどな。竜真も霊能力家の血筋か、どおりで強い訳だ」
なんか勝手に解釈して勘違いされたが、まぁそれでもいいだろう。
そうやって喋っていると時間が来たのか、辺りに設置されていたスピーカーから男の声が聞こえてきた。
「諸君、本日こうして集まってくれてありがとう。……攻略映像を配信するため、諸君らにはカメラ付きヘルメットを被ってもらう。参加する者は全員ダンジョン前に集ってくれ」
そう言う事なので俺達はぞろぞろとダンジョン前に行く。
全員ダンジョン前に集まった時、どこからか見ていたのだろう男の声が聞こえだした。
「では職員にヘルメットを配らせるので諸君らはそれをかぶってくれ。因みにこれは義務だ」
俺にもヘルメットが渡され、俺はそれをかぶる。
「全員被ったようだな。では今より北区準S級ダンジョンの攻略を開始する!
『おー!!!!』
橋本というS級の探索者を先頭に、ダンジョンの中に入っていく。
俺もダンジョンの中へ入った。
目を開けるとそこは、ジャングルだった。
不思議な鳥の囀りが聞こえ、あちらこちらで強力な魔物の気配がする。
普通、ダンジョンは最初の三層までは洞窟なはずなのに、ここはジャングル。流石S級ダンジョンなのだろう。(思考放棄)
というかそれよりも、だ。
「なんで俺ぽつんと一人だけ?」
辺りを見回せど、人は目視できない。
探索系スキルで洋治や博幸さんの場所は分かっていたが、念の為辺りを見回したのだ。
俺の目的は博幸さんの護衛。取り敢えず、転移で博幸さんの元へとんで……ってあれ? 転移が使えない!? どうして!? こんなこと初めてだぞ? このダンジョンの特性か?
取り敢えず急ごう、場所は分かってるんだ急げば間に合う。
俺は足に力を溜めて、一気に加速させる。木を避けながら博幸さんの元へ一直線で走る。
するとすぐに博幸さんが見つかる。だが博幸さんの正面に何か黒くて山のように大きいモノがいた。
あれは……まさかカイザーキングコングか!? 準S級どころか正真正銘のS級だぞ!?
まずい、博幸さんにゴリラ野郎の拳が迫っている!!
俺は音速に近い速度になって、カイザーキングコングに体当たりをかます。すると木を突き破って遠くに飛ばされていった。
「大丈夫ですか? 博幸さん」
「うん、大丈夫。助かったよ。それにしてもこれはどういう事だろうね? 事前情報にはこんな事書いてなかったと思うけど……」
「ですよね、どうやらみんなバラバラになってしまったようなんです」
◇◆◇◆◇
一方、ダンジョン配信サイトでは。
“うわぁ……なんだここ”
“どうなってんだ? 全員の視点が一瞬暗転したかと思ったら、全員場所がバラバラだぞ?”
“ジャングルじゃん。この配信さっき始まったって聞いたけど、もう四階層に着いたの?”
“↑ちげぇよ。攻略隊が続々とダンジョン入ったと思ったら、全員違う場所に飛ばされてたんだわ”
“へぇー。じゃあイレギュラーって事じゃん。やばくね?”
“攻略隊の命運を祈るしか俺達には出来ないのか……”
と視聴者は困惑していた。
◇◆◇◆◇
「クソッ、どうなっているんだ!! 事前確認では転移などと言う現象は起こらなかったというのに!!」
数多くの職員が忙しなく動くモニタルームで白髪の男が机を叩いてそう悪態を吐いていた。
彼は先程、竜真たちに突入を指示していた声の主だった。
肩書はダンジョン省北区支部支部長。
彼が慌てるのは無理もない。
攻略隊が向かったのは準S級ダンジョン。そこに出現するS級の魔物は未知な部分が多い。そしてS級探索者と言えども、そのS級魔物には一対一では敵わないというのが、有識者の判断だった。
だからこその、団体を組んでの投入。だったのにこの有様なのだ。頭を抱えたくもなるだろう。
今回の攻略隊にはS級が十一人、A級が十五人の人数だった。それを失う可能性がある。それでも現地に居る探索者を信じるしかないだろう。そう思い顔を上げた時だった。
職員たちが歓声を上げる。何事だと支部長は皆が見ているモニターを見た。
その視点は確か、回復要員の芳我だった気がするのだが……と思ってよく見ると、霊能家の水無月氏が映っていた。
「おお!! 二人は合流したのか!!」
支部長は期待の滲ませた表情でそういうのだった。
《side:三谷洋治》
どうなってるんや? 竜真と並んで入ったと思ったら、竜真はおらんしジャングルの中にはおるしで良く分からん。
とにかくここは離れた方がいいと俺の第六感がビンビンとそう言ってる。
俺は浸食氷剣を抜くと、警戒しながら走って移動する。とにかく人の気配がする方向に言ったらいいだろう。
そう思った瞬間、殺気で分かったが矢が迫ってきているのが分かった。
それを後ろに跳んで躱し、「出てこいや!!」と叫びながら【挑発】を放つ。
すると出てきた。
大蛇の足に人間のような上半身。半蛇だ。それが一体。
そいつは弓矢を構えると、中距離で放ってくる。
これに当たってはいけない。半蛇の矢には毒が塗られているらしい、掠っても致命傷になり得る。
俺はそれを全力で避けながら隙を伺う。
奴はどうやら弓を引き絞る時に一定の溜を必要とするみたいだ。タイミングよくその隙を突ければ勝てる!!
次だ、次外したら接近する!
半蛇が矢を放ち、俺の横を矢が通り過ぎていく。
今!!!!
俺は【身体強化】を使い、足に力を溜め放った。
肉薄しての一閃。
半蛇の首が刎ねることができた。
「よっしゃ!! やるやん俺!!!」
俺は立ち止まって手を振り上げる。ガッツポーズで喜ぶ。
ヒュ、トツ
「あ?」
一瞬痛みを感じた腹部を見ると、矢が刺さっていた。
「嘘、だろ」
気付くと空に地面があり、一瞬半蛇の大群が見えた。
「や……ばい」
俺はマジックバックを弄り、竜魔から貰った《通常級回復ポーション》を飲む。
そして俺はそのまま意識を手放した。
《side:芳我竜真》
「なっ……!?」
「どうした?」
「洋治の反応が消えました……」
「なんだって!? あの子結構強そうだったのに、一体何が……」
「ちょっと失礼します」
「え、ちょっと」
俺は強引にも博幸さんをお姫様抱っこし、洋治の気配が途絶えたところまで音速で駆ける。
するとすぐに着いた。
そこにはもう、洋治の死体はなかった。代わりに湿った衣類の破片らしきものと、洋治の浸食氷剣、マジックバックが落ちていた。
そして俺がこの間渡した、回復ポーションの瓶が落ちていた。
「嘘だろ……? そんな馬鹿な、あの洋治が死ぬなんて、そんなことがある訳が」
辺りに視線をさ迷わせ、そして俺は見つけてしまった。
洋治の左手を。
その左手には洋治の腕時計が付けてあった。
俺があの時、洋治を先に合流すれば助かったかもしれないのに。でもそれでは博幸さんが……。
いや、俺が出し惜しみせず、周辺破壊を顧みず走っていれば間に合ったかもしれない。
知っているようで知らない、遠い昔に味わったことのある感情が溢れ出す。
「あぁ……ああぁああああ!!!!!」
俺はその場で泣き崩れそうになる。それを支えてくれたのは、博幸さんだった。
「今は取り合えず、遺品を回収して他の生きている人達と合流しよう。泣いている暇なんてない」
冷静かつ、冷酷な判断で俺は素晴らしいと思った。
「分かりました」
俺は遺品と洋治の左腕を異空間収納にしまった。
その時俺は見つけた。――洋治を殺したであろう魔物の鱗を。
「……行きましょう、またお姫様抱っこでいいですね?」
「いいよ……」
それから一番近くの気配に向かった。
そこには何時しかの、晶を誘ったパーティーの女性の魔法使いがいた。
魔物に囲まれていたその女性は、俺達を認めるなり「助けて!!!」と叫んだ。
「博幸さん」
「ああ、分かってるよ」
俺は剣を召喚して、その得物で魔物達を斬り刻む。先程の洋治を失った怒りを乗せて。
始めて流した涙が空中に霧散した。
「助かったわ……ありがとう」
「いえいえ、では次行きますよ。走れますか?」
「……なんとか」
「じゃあ行きますよ」
俺達はがむしゃらに探索者を探し、合流した。
ダンジョンに入ってから30分が経つ頃には、生きている全員と合流できた。その数十五名。
そして残念では済まされないが、A級のほとんどが死んでしまった。
博幸さんに結界を張ってもらい、今は全員で遺品の整理と休憩を取っていた。
「改めて君のおかげで助かったよ、竜真君。本当にありがとう」
皆を代表してそう言うのはダンジョンに入る際、先頭だった橋本さんだ。
「亡くなってしまった人たちの事はとても残念だけど、俺達は進まなきゃいけない。このダンジョンを攻略しないと、もっと沢山の人々が亡くなってしまう。だから皆、頑張ろう! ここで亡くなってしまった人達が無駄じゃなかったと思わせる為に!」
そうやって指揮を上げようとしている橋本さんだが、皆の顔にはもう帰りたいという文字が張り付いていた。
取り敢えず今俺にできることをしよう。まずはけが人の回復だ。
「皆さん! 怪我をしている人はこっちに集ってくださいー! 俺が治します」
すると七人ほどの人が浮かない足取りで寄ってきた。その中には俺のA級試験の試験官だった、義知さんと風間さんも居た。
「私から……いいですか?」
「いいですよ」
俺は一人一人に中位回復魔法を掛け、治していった。
「キミは本当に凄いね。精神的疲労も確かなはずなのにまだ人を回復させる余裕があるなんて」
そう言いながら頭を何故か撫でてくる博幸さん。
「はは、ありがとうございます」
俺は苦笑いしながら、魔力回復ポーションを飲んだのだった。
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