第21話 主達とD級ダンジョン

 俺は届いたスマホとPCの設定に深夜まで没頭した。


 因みに夕飯を誘いに来てくれた未羽さんに「俺は実は食事が必要ない身体だから」とそれを断った。

 大変不服そうな顔をした未羽さんは、何故か夕食後俺の部屋に来てPCの設定を手伝ってくれた。


 それで意外と未羽さんは機械に強い事が分かった。スマホに転生した俺よりも機械について知識あったぞ?


 朝仮眠して起きると、PCを開いてフリマサイトを開く。そこからマイページに飛び、自分の商品が売れたかどうかを確認する。

 実は昨日未羽さんが自分の部屋に戻った後、俺はフリマサイトに会員登録し、《通常級回復ポーション》を一本三万(送料込み)で売り出していたのだ。


 おっ、二本売れてる。


 登録して数時間しか経ってないアカウントだから、まだまだ売れないと思っていたが案外直ぐに売れた。それだけポーションの需要が高いって事だろう。


 お、コメントも付いてる。どれどれ……。


“安すぎw”

“怪しい”


 oh……辛辣。この値段でも安いのか。確かにフリマサイトに出ている通常級の回復ポーションはどれも七万円近くで販売されている。まぁそれと比べれば安いか。

 六万円に値上げしておこう。


 取り敢えず、ポーション二つを箱詰めしてっと。


 さて、今日は何するかな。発送の為にコンビニに寄るのは確定として……そうだ、久しぶりに主のスマホに入ろう。

 そうと決めたら取り敢えず、留守にするって正道さんに念話で連絡しておこう。


『正道さん、今日は外出します』

『どこに行かれるのですか?』

『ダンジョンに行きます』

『分かりました。お気をつけて』


 すまん、正道さん。主の所に行くことがばれるわけにはいかないのだよ。


 俺はスマホをポケットに入れて、肉体から魂を離脱させる。そして肉体を異空間収納の中に入れた。

 そして転移する。


 転移するとそこは主の部屋だった。

 主の部屋に直接転移するのは初めてかもしれない。大体は玄関前だからな。


 丁度主は部屋で着替え中だったようだ。

 ベットに置かれているスマホに戻り、俺は安心する。


 やっぱりこのスマホの中、心地いいな。

 そう思ったのも束の間、持ち上げられポケットに突っ込まれる。


 うん、なんかもう懐かしいわ。この物扱いが。

  

 主は一階に降りると、お母さまに挨拶をして玄関を出た。


 んん? あれ? 主もうご飯食べたのか? 着替えをしていたからご飯を食べる前かと思っていたがどうやら違ったようだ。これまた珍しい。

 時間を確認すると確かに、いつもの登校時間だった。


 そのまま主は何事もなく教室まで行き、友達に挨拶をする。そして会話を始めた。


「おはよー明奈ー」

「おっ、おはよう! 明日香」

「ねぇ、今日どうする?」


 ん? 


「行っちゃう? ダンジョン」


 んん?


「私は行きたいけど、明奈は大丈夫? 放課後予定とかない?」

「全然大丈夫! じゃあ行こ!」


 なるほどね、スマホのメッセージアプリにダンジョン関連の履歴も消した痕跡もなかったから、口頭でしか喋ってないのだと思っていたけど、やっぱりか。


 主は要件は済ませた感じで席に着いた。そして教材を机の中に入れ、リュックを横に掛けた。


 その後の授業中は俺はスマホで、探索者の規則や有名どころなどを調べて過ごした。


 探索者の規則が載っているサイトは沢山あるが、より詳しいのはやはり省のサイトだ。

 ついでに俺が受けたA級試験の結果を見ようとページを開くと、合格者の名前と顔写真、二つ名にA級魔物との戦闘時の動画が誰でも見れるようになっていた。


 因みに俺の所だけ『二つ名・異名募集中!』と書いてある。

 二つ名なんて募集した覚えがないんだが……。まぁ、どうせいずれは付くだろうし放置でいいか。




 そして放課後――


 主はリュックを担ぎ、明奈と言う友達と喋りながら教室を後にした。すると校門を出てから二人は主にダンジョン関係の話をするようになった。


「今日もE級? どうするの?」

「う~んと、どうしようかなぁ……明日香はD級いける自信ある?」

「私一人だと自信ないかも。だけど明奈がいれば大丈夫って自信はある!」

「そっかぁ……じゃあ行ってみる?」


 二人は道の分かれ道で立ち止まった。

 

「わかったよ。待ち合わせ場所はどこにする?」

「高校前の自動販売機の所で待ち合わせしようか! あそこだったら丁度、D級ダンジョンの近くだしね!」

「賛成ー! じゃあ私こっちだから、また!」

「またねー!」


 別れた後主は若干速足で、自宅へと戻る。玄関から入ると、「ただいまー」といって二階に上がる。そして自分の部屋に着くとリュックを下ろし、着替え始める。

 着替える際に俺はベットに置かれた。


 ジャージ姿になった主は、俺をまたポケットに入れそのまま家を出てきた道を戻る。

 ダンジョンに早く行きたいという気持ちがあるのか、その歩みが自然と小走りに変わっていた。


 自動販売機と主の友達の明奈さんが見えてくる。どうやら明奈さんの方が早かったようだ。


「おまたせー待った?」

「ううん、丁度私も二分前に来たところ」

「じゃ、行こっか」

「うん」


 二人は歩いてD級ダンジョンに向かうようだ。

 そのD級ダンジョンとは、コンビニの近くにあるダンジョンだ。このダンジョンを知る人は大体、コンビニダンジョンと呼んでいるそうだ。


 それにしても、D級だなんて主達大丈夫か? いざとなったら結界が主を守ってくれるだろうし……一応明奈さんにも結界掛けとくか。でも、結界に魔物の攻撃を防がれたら主達に気味悪がられないかな? ……そうだ!


 俺はスマホから離脱して、近くの路地っぽいところに入る。そして異空間収納から自分を取り出し、その中に入る。


 俺が思いついた手段はこれだ。

 探索者資格を持っている今の俺なら、主達の後ろを付けながらもしもの時に助けることができる! 正道さんには感謝しないといけないな。


 俺は先回りしてD級ダンジョンの広場に入る。そこには十人程度の探索者と準備中の屋台がぽつんとあった。

 屋台から漂う匂いに釣られて寄ると、屋台のおっちゃんが話しかけてきた。


「兄ちゃん、あともうちょっとで準備ができるから待ちな!」


 そう言いながらおっちゃんは丸い鉄板を拭くなり、器具の配置を確認したりしていた。

 そうか、この屋台クレープの屋台か。


 そう思ったその時、主達の気配が広場に近付いた。それに気を取られていると、クレープ屋のおっちゃんに話しかけられる。


「兄ちゃん、営業開始だぜ! さぁ何を買っていく?」

「あ、えっとじゃあ、いちごクレープで」

「はいよ、740円ね」


 俺はおっちゃんに異空間収納ポケットから取り出した1000円札を渡すと、おつりを返してくれる。


 おっちゃんはクレープの生地を、丸い鉄板に掛けるとそれを薄く平らに伸ばす。

 いい感じに焼けた所を、専用のへら? のようなものでクレープを掬い、大きなまな板の上に乗せる。そこにイチゴと生クリームを適度に並べて完成した。


「はい、どうぞ」

「有難うございます」


 俺はクレープを受け取って近くのベンチに座り、一口食べる。


 甘っ!! 澄鳴家で食べたお菓子よりも格段に甘いんだが!? イチゴの酸味と生クリームの甘みが口の中で革命を起こしているではないか!!


 俺は夢中になってクレープを食べる。

 すると突然声を掛けられた。


「あの……!」

「ん?」


 顔を上げるとそこには主と明奈さんが居た。まさか二人からここで声を掛けられるとは思ってなかったので俺はぽかんとする。


「私達と一緒にダンジョンに潜ってくれませんか!?」

「…………」


 えぇえええええええ!?

 俺は咀嚼していたクレープを飲みこむと、心の中で叫んだ。




 なぜこうなったのか。前には意気揚々と歩く主達の姿がある。俺はその後ろを……当初よりもより近い距離で付いて行っていた。


 主達に何故俺を選んだのかと聞くと、流石に初のD級ダンジョンで一人は危ないと思い、丁度良くあの広場に居た人で一番強そう且つ、ソロだった人がいたから声を掛けた。と答えた。慧眼と言うかなんというか……。

 まぁ、これで他の男と組んでいたら、多分その男に呪いを掛けてたよね、うん。


「D級ダンジョンもお兄さんが居ると、安心感が凄いね~!」

「そうだね」


 主の友達明奈さんから何故かお兄さん呼びをされている。そうか、名前教えてなかったっけ。


「俺の名前は芳我竜真だよ。気軽に竜真って呼んでくれ」

「え……?」

「それって冗談ですか? お兄さん」


 ん? なんだこの微妙な雰囲気は。特に俺何も冗談言って滑ってもないぞ?

 俺達三人は立ち止まって顔を見合わせる。


「どこも冗談は言ってないが?」

「え……? その芳我竜真って人、A級の方ですよ? こんなダンジョンに居るわけないじゃないですか」


 そういう明奈さんの横で主がコクコクと頷いている。


 ああ、なるほどそういう事。俺の名前は既にもう、割と知られているんだな? だから、D級ダンジョンの広場ベンチで美味しそうにクレープ食べている人が、A級なはずないと思っているわけだ。


 ならばここは信じてもらうために探索者カードを――あ、魔物が二人に接近してる。


「二人とも、魔物が来たよ」

「えっ?」

「わぁ、ほんとだ」


 主がとぼけた声を出し、明奈さんが気配を探ったのか驚いたようにそう呟く。


 現れたのは、ゴブリンファイター、アックス、メイジの三体のゴブリンの武器持ちだった。

 ゴブリンのナイフ以外の武器持ちは、一応E級のゴブリンの上位種だとされていて、各武器の特性に合わせて進化されている。

 例えば、ファイターだと防御力と攻撃力に重点を置いた進化になる。


「お兄さんは、ゴブリンメイジ任せられる?」

「わかった」

「私達はファイターとアックスね!」


 その言葉を皮切りに俺達は走り出す。


 俺は一気にメイジに肉薄すると、顔面を殴って爆散させる。後は主達の戦いを見守るだけだ。


 走って行く方向を見て、主はファイター。明奈さんはアックスを相手にするようだと分かる。

 二人の内先に攻撃を入れたのは主だった。


 主の剣技スキルを活かして、ファイターを上手に翻弄している。ファイターの拳を短剣の柄に受け止め、軌道をずらしそのままファイターの胸に一撃を入れた。

 だが浅い。残念ながらこれでは致命傷にはならない。E級のゴブリンならもっと刃が通っただろうが、こいつはゴブリンファイター。防御力が普通のゴブリンとは違う。


「やぁああ!!」


 主はファイターの連撃を剣でいなし、連撃が止まったところでファイターの首を刎ねた。


 流石は主。今のファイターの拳をいなしたのならば、剣技スキルがLv.2に上がっていてもおかしくはない。


 主が目を向ける先では明奈さんが、特段危なげなくアックスを倒していた。

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