走れメロカス
ハイテン
1
メロカスは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
メロカスには政治がわからぬ。
メロカスは、村の厄介者である。
法螺を吹き、女と遊んで暮して来た。
けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明メロカスは村を追い出され、野を越え山越え、
十里はなれた此のシラカスの市にやって来た。
メロカスには父も、母も無い。女房も無い。
十六の、内気な妹と二人暮しだ。
この妹は、村の或る律気な自称イケボ配信者を、
近々、花婿として迎える事になっていた。
結婚式も間近なのである。
メロカスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買わされに、
はるばる市にやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。
メロカスには唯一の友があった。セリヌンティカスである。
今は此のシラカスの市で、ホストをしている。
その友に、これから金を借りるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、金を借りれるか不安である。
歩いているうちにメロカスは、まちの様子を怪しく思った。
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