第44話 考え足らずの代償
翌日。俺たちはまた、このだだっ広い海を探索していた。
「アキモが照らしてくれてるおかげか、デンキダツとは全く遭遇しないな」
「fe!」
昨夜仲間にしたアキモのおかげで、デンキダツが全く近寄ってこない。なので、かなり安心して探索できている。
「ひとつ気がかりなのはやっぱりあのスキュラよね…」
「スキュラが出たところと反対の方向を探索してるし、大丈夫だとは思う」
まあ昨日スキュラと遭遇したときは真夜中だったため視界が悪く、こちらが圧倒的に不利だったため撤退したが…昼間なら戦っても勝てそうな気はする。
まあ、念には念を入れてスキュラなど大型の魔物はある程度こちらの水中戦力が整ってから仲間にしにいくとしよう。
リゲル、サルヴァント、アキモ、アオの4体の仲間を杖から出して俺たちは海を探索していた。…ん?あれはなんだ。
「何あのビニール袋。この世界も海洋汚染が進んでるの?」
「いや、ちがうわ。あれは…クラゲかしら?」
プカプカ浮かんでいるクラゲを発見した。黄色と青くの混ざった、毒々しい色をしている。触手は…だいたい4mくらいだろうか?かなり長い。この中で唯一の海勢であるアキモに聞いてみた。
なになに…自分たちはアトゥイエタルと呼んでいると言ってる。なんだそれ、知らん。
「よくわからんけど、アトゥイエタルっていう魔物らしい」
「聞いたことないわね…」
まあ、いい。海の仲間二人目は彼にしよう。ただ…
「これ毒とか絶対あるよな」
「ファ」
明らかに毒持ってそうな見た目をしていて、正直近寄りたくない。刺されたらやばそう。
それは仲間モンスターたちも同じようで、実際アキモやサルヴァントたちはあのクラゲにはあまり近づきたくないと言っている。ただ1人、例外を除いて。
「ゴシャー!」
「マジで?アオいけるの?」
熱探知とテレパシーのせいで忘れがちだが…というか実際忘れていたが、バジリスクであるアオはどんなに強い毒でも決して効かないのだ。
サフンがアオから降りて、アオが単身でアトゥイエタルに突撃する。
アトゥイエタルが自分に向かってきているアオに気づき、自慢の触手を巻き付けようとゆっくりとアオに近づく。
「ゴシャー!」
アオは自分に巻き付いてきた触手をものともせず、クラゲの傘に噛みついた!
ちなみに関係ないが、他の生き物なら痛がり具合で瀕死かどうかはわかるのだが、このクラゲには痛覚がないため判別するのが難しい…
ただ、クラゲの抵抗する力が少しずつ弱くなってきている。そろそろだろうか?
「アオ、一旦攻撃やめて!」
俺はアオに攻撃をやめるよう指示し、杖をクラゲにかざしてみた。だが…
「あ、ダメですかそうですか…」
弾かれた。確かに瀕死ではあるがまだ俺のことを主人とは認めたくはないらしい。いやまあ、確かに普通は自分のことボコボコにしてくるやつに忠誠とか誓いたくないよな。
「こりゃまいったな…」
どうやらこのクラゲ、相当負けず嫌いなようだ。瀕死にも関わらずまだまだやるつもりらしい。
「ザァ…」
「こりゃどうしたものか…」
ここまで痛めつけておいてはいサヨナラ、はおそらく彼にとって殺されるよりも相当屈辱だろうしな…
「仕方ない…アオ、最後まで相手してやれ」
「ゴシャー」
クラゲにとどめを刺そうとしたときだった。
突然、杖から勝手にファラクが出てきたのだ!
「ど、どうしたファラク!?」
「ゴァーッッ!!!」
ファラクはクラゲ…ではなく、全く別の反対方向に向かって体当たりした!
「いたっ!……コホン、どうやらいい仲間がいるみたいでしてね?」
「はぁ?」
人語を話す魔物?何故だろう、嫌な予感しかしない。
アオの熱探知でも判別できなかった魔物、その正体は…
「ごきげんよう。昨夜ぶりですわね?」
昨日俺たちを散々追いかけ回した、スキュラだった。
「ゴシャー!?」
「何故、熱探知が引っ掛からなかった…ですか?簡単でしてよ。私たちは体温を自由自在に変えることができるのですわ。実際、私がここまで接近するまでバラクーダかなんかだと思っていたでしょう?」
魚の体温とほぼ同じ温度まで自分の体温を調節して、アオの熱探知に引っかからないようにしていただと!?
だが、それなら
「でも前会ったところからかなり離れてるのによく私たちの居場所がわかったわね?尊敬するわ」
そうだ。この海は広い。普通、俺たちの居場所がわかるわけがな…
「犬の嗅覚を使わせてもらいました。おっと、ただの犬だと思わないでくださいまし。一度匂いを嗅げば、海の中ならどんなに遠く離れていても必ず見つけることができますの」
はぁ?
水中版アオじゃねぇか。
妖艶の美女は不気味な笑みを止めない。
その美しい髪を触りながらこう告げた。
「では、そうですね。——鬼ごっこの、続きと行きましょうか」
スキュラはタコの触手と犬の首で動揺している俺たちに先制攻撃を仕掛けようと…
「ゴァー!!!!!」
「え!?」
砂漠鰐という種族は、奇襲が大の得意だ。それは水中でも変わらない。
スキュラが俺たちへ攻撃を仕掛けるよりもファラクが彼女に体当たりした方が一足早かったのだ。
スキュラは一瞬怯んだ。だが、すぐに持ち直し、こちらも反撃しようと…
「ファー!!」
「fe!」
その一瞬の怯みが、スキュラにとって致命的なものであったのは誰がどうみても明らかだった。
「リゲル、お前も行ってこい!」
「ザァ!」
リゲルも助太刀させるため俺はリゲルから降りた。
「アオは戻ってこい!クラゲは後回しでいい!」
「ゴシャー!」
俺とサフンの護衛はアオに任せる。ちょくちょくバラクーダなどの魔物が寄ってくるから1匹は護衛が欲しいのだ。
で、肝心なスキュラはどうかというと…
「このワニ硬いですわね……触手で気管を塞ぐくらいしないと厳しいかもしれませんわ」
「ファー!!wwww」
「でもシーサーペントの方も邪魔ですわ、これはキリがないかも…」
ファラクとサルヴァントが主体になってスキュラと格闘していた。リゲルとアキモが彼らの援護をしている感じ。
「「ワンワン!」」
「ゴァー!!」
すごい、大量の犬の首をファラクが1人で抑えている。アオとファラクは多頭龍であるファルド戦に参加していたメンバーでもある。
まるでワクチンによって作られた抗体のように、洗練された動きでスキュラと対峙していた。
「ゴー、ァ!」
「「キャン!?」」
ファラクが尻尾で薙ぎ払いをし、犬の首たちを一斉に怯ませた!
「ファー!」
もちろん、サルヴァントも黙っていない。スキュラの触手を引きちぎろうとタコの触手に喰らいつく…!
「このままじゃ埒があきませんわね…それなら」
スキュラはそうポツンと言った。
投降でもするつもりか?——いや、違う。
これはまずい!
「最初からこうすればよかったのですわ。——先に本体を潰して仕舞えばよくてよ?」
タコの触手が俺やサフンを締め付けようと伸ばされた!
「ゴァ!?」
「ef!?」
熟練の戦闘員である仲間の魔物たちも予想外の事態に遅れをとってしまった!戦いは、何が起こるかわからない。ありとあらゆる可能性を、考えておかなければならない。それを怠ったならば、どんなに有利な状況でも敗北に繋がってしまうのだ。
タコの触手が俺たちを掴む…!
………おや?
タコの触手が俺たちを掴む直前で動かなくなった…?
このタコの触手だけでない。犬の首たちも痙攣して動かなくなっているではないか。
「ま、まさあ…こんなことひなうとは…」
スキュラの呂律にも異常が発生している。まるで、何かに麻痺させられているような…?
スキュラが動きを止めた原因。
その原因は、すぐに判明することになる。
「ゴシャー!」
「カプ」
クラゲの毒だ。クラゲの毒がスキュラに回り、動きを止めさせるにいたったのだ。
何故クラゲが俺たちの味方をしたかというと…アオがクラゲと交渉し彼を仲間にしたからだ、魔物杖なしで。
???
そしてスキュラに勘付かれないように彼ら2人はスキュラの死角に忍び寄って………
で、今に至るという。
「すごいな、マジで」
「ゴシャー」
アオがすりすり甘えてくる。あざとい奴め。
「ありがとうねアトゥイエタルちゃん。あなたのおかげで助かったわ」
「カプ」
サフンがクラゲにお礼を言っている。ちなみに、俺じゃなくてアオが主人判定になっているが特に問題はないという。よかった…
彼にも後で名前も決めてやらねば。で、あとは…
「スキュラも仲間にしておこうな。これからはキビキビ働いてもらいますからね!」
気絶しているスキュラも仲間にしたあと、俺たちは一度拠点に帰ることにした。
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