第42話 YOASEABI

「ただ剣の鍛錬をするだけでは立派な人間にはなれないと勉学も極めさせられたからな」


遠い目をしながら彼はそう言った。彼の目の色が灰色に曇っている。剣聖一家、どれだけスパルタなんだよ…


「わかった!情報感謝する」


俺は踵を返しまた再び海へと戻ろうとした。しかし…


「ねぇ、さっきあんな目に遭ったのにもう海へ戻るの?」


「一旦休んだ方がええんじゃないやろか。もう日も暮れそうやで?」


むむ、確かにいつの間にか夕方になっているではないか。


「確かに、夜になったら危険だし続きは明日にするか…」


この世界で夜に行動するのは自殺行為だ。増してや海で活動するとなると何があるかわからない。明日に備えてゆっくり休むとし


「でも夜の方がチョウトリアンコウ見つけやすかったりしませんかね?」


ポツンとそう言ったのは、魔法使いであるアリサ。おそらく彼女は何気ない気持ちで言ったのだろうが…


「確かにチョウトリアンコウの放つ光は途切れることはないから、見つけやすくなるとは思うが…正気か?」


魔物使いより魔物に詳しい次期剣聖ゼアトが思わずそう言ってしまうくらい無謀な行為。だが…


「なあ、危なくなったらすぐ逃げるから一旦夜に行動してみていい?」


俺はあえて夜に活動してみることにした…!






「ねぇ、本当に大丈夫なの?」


「チョウトリアンコウはそこまで強い魔物じゃないみたいだから大丈夫だよ。もしやばいのが来たらアオが知らせてくれるし」


今は深夜の12時くらいだろうか。辺りは既に真っ暗、俺たちは松明を持って上空からチョウトリアンコウを探していた。


「でもアオちゃんだとただの魚の群れとデンキダツみたいな危険な魚の群れの区別がつかないじゃない。そこは大丈夫なの?」


「それは大丈夫。あの後調べたけどデンキダツ以外の群れを為す生物はそこまで大した脅威じゃないみたいだから」


ここら辺で群れを為す魔物はバラクーダとかチノアジダイなどがいるが、まずそれくらいならサルヴァントたちで蹴散らせるだろう。


デンキダツはチョウトリアンコウの近くには寄ってこれないから問題なし。クラーケンとかに気をつければ大丈夫なはずだ。



「あ、あの光がそうなんじゃない?」

「よし来た、行ってみよう」



海で光を放つ生き物はこのチョウトリアンコウの他に龍喰らいがいるらしい。龍喰らいは、エイと龍を混ぜ合わせたかのような見た目をしている魔物だ。名前の由来はシーサーペントすらも捕食するからとか聞いたことがある。


「あれは…うん、白っぽいから大丈夫か」


チョウトリアンコウの放つ光は白色、対して龍喰らいの光は赤色だ。もし間違えて龍喰らいの方に行ったらとんでもないことになる。


「よし、リゲル出てこい!」

「ザァー!」


俺はリゲルを杖から出しながらキジクジャクから飛び降り、海へドボンと音を立て着水した。


サフンはそのままベガと共に空で待機、俺とリゲル、アオの3人でチョウトリアンコウと戦うつもりだ。


「ザァー!」

「!?」


リゲルがアンコウに飛びかかり、噛みついた!アンコウは突然の奇襲に動揺し、遅れをとってしまった。もちろんこのまま何もせず終わるわけがなく、アンコウも反撃をしようと…


「ヤツメ出てこい!あの魚をチューチュー吸うんだ!」

「wir!」


獰猛ヒルのヤツメがリゲルへと反撃しようとするアンコウに張り付いたのだ!


「⁈」


アンコウは自分の力が全く出ないことに驚きを隠せていない。ひどく弱々しい体当たりがリゲルに繰り出されるが、当然そんなもの痛くも痒くもない。


「アンコウは小型の魔物。ヤツメの妨害が効果抜群ってわけよ!」


大型の魔物ともなると全く効果は出ないが、アンコウほどの大きさならかなりの効果が期待できる。


「!……」


ほぼ集団リンチ同然の闇討ちに遭い、アンコウはあっという間に痙攣して気絶してしまった。


「さあ、仲間にしてさっさととんずらするか」

「ザァザァ」


俺はいつもの通り杖をかざし、アンコウを仲間にした。だが…


「fe!」

「ああ、そうか。ヤツメが血吸いまくったせいで貧血なんだな」


肉が食べたいと言い出したのでチョウトリアンコウにサーベルベアの肉を食わせた。名前は…とりあえず後で決めよう。ここは危ないし。


アンコウも満足したみたいだし、帰ろうとしたその時だった。


「ゴシャー!!」

「は?何か大きな生物が来ている?」


アオのレーダーに何かがひっかかったようだ。アオ曰くクラーケンや龍喰らい、シーサーペントほどではないが、それなりの大きさの魔物が徐々にこっちに向かってきてるみたいだ。


「みんな、逃げるぞ!」


もう長居は無用だ。俺は魔物たちを杖に戻したあとさっさと上へと浮上し、キジクジャクに騎乗した。


「お帰り。ちゃんとチョウトリアンコウは仲間にできたの?」


「ああ、ばっちりだ。もう用はないし、帰ろう」


そのときだった。


「ツク!?」 「クェ!?」


突然キジクジャクとベガが旋回したのだ。

——まるで、何かから逃げるかかのように、


「ワン!ワンワン!!」


二つの長い犬の首が先ほどまでキジクジャクとベガがいたところを噛みついたのだ!


「クゥン…」


獲物を海へと引き摺り込めなかった犬の首たちは……タコの足へと変わり、海へと戻っていった。


「夜遅くにこんばんは。こんなところで何をしているのでして?」


海から、可憐な美少女が現れた。いや、違う。足が明らかにおかしいのだ。これは…タコの触手?


訂正しよう。海から、恐ろしいスキュラが現れた。

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