第39話 大誤算

「ま、情報ありがとうね。他はなんかあったりするかしら?」


「あとは……ラグナロク首都のギルド付近にいる浮浪者が怪しいってことくらいですかね」


「あらー、その人はどんな見た目でどんな理由で怪しいの?」


「黒髪の人なので見れば1発でわかると思います。詳しくは省きますが…この世界の人間であるはずなのに異世界人でないと知り得ない情報を持っていたり、魔物使いしか知らない情報を持っていたり、などですかね」


この世界では黒髪は滅多にいないからな。ちなみに、俺は茶髪。


「あら、わかったわん。——こちらの方でも調査はしとくわあ」


「あとは特にないですね」


「ありがとう、有意義なお話ができたわ。今度プライベートの方で会わない?」


「結構です」



非常に残念そうな顔をしながらケイカは帰っていった。しかし……


「まさかここまで入り組んでいるとは…」


正直アキラだけが黒幕だと思ってたが…なんか他にも黒幕いそうな気がしてきた。まあ、とりあえず。


「これはウネリツノの討伐をできるだけ急いだ方がいいな」


三怪物を全員倒して結界を解除しなければ。厳密には結界とは違うらしいが、まあ似たようなもんだろ。まあとりあえず…


「アガスたちの方でも手伝いにいくか」


本来俺がやるべき仕事をアガスたちが代わりにやってくれているのだ。全部任せきりは流石に申し訳ない。


「ツクツク!」


「キジクジャク、頼むぞ!」


毎度お馴染みキジクジャクに乗ってラグナロクへ向かう。




「おお、ミナトやん。手伝いに来てくれたところ悪いけど、もう大体終わったで?」


チハイザメの元々出現区域は超危険地帯のため調査は難航してると思ったが、普通に終わっていた。で、彼らは今何をしてるかというと…


「何その石板?」


「なんかたまたま見つけた遺跡の中にあったんよ。やから、戦利品として貰おうかなって」


それ歴史的価値めっちゃありそうだな。国に渡さなくていいのか?まあ、いいけど。


「でもこの石板、何か読めない文字が書かれてるんですよね」


「そうなのだ。こんな文字、見たことも聞いたこともない。おそらく、古代文明の言葉だろうな」


考古学研究者に聞いてみても皆目検討がつかなかったらしい。実は案外日本語だったりして。


「ちょっとその石板見せてみて」


「これね」


サフンに渡された石板に書かれた文字を見て、俺は戦慄する。なぜなら…


「英語じゃあないか…!」


まさかまさかの英語が書かれていた。賢いアピールをするために俺は早速翻訳作業に取り掛かった。だが…


「知ってる言語のはずなのによめねぇ…」


知らない単語多すぎ。わけわからんわ。

一応ヒーローがなんちゃらかんちゃらってのはわかった。


「あーなんか英雄がなんちゃらかんちゃらって感じ」


「ちょっとだけ理解度が深まったわ。ありがとうな」


さて、そんな彼らにもあのことを話しておかなければ。


「ちょっと聞いてほしいことがあるんだが」


北方と三怪物についての関係性などを俺は洗いざらい全て話した。


「それはまずいな。おそらく、その黒幕も結界が壊れそうなことに焦りを覚えているはずだ。…向こうから先に何か動きを見せてくるかもしれない」


ゼアトがそう推測する。まずい、それならチハイザメは最後に討伐すべきだったってのか!?


「中途半端にチハイザメを討伐してしまったせいでタイムリミットが生まれたってわけか…」


クロツバサ、ウネリツノ、チハイザメ。この順番で討伐するのが最善だったように思える。


「過ぎたことは仕方ないわ。それよりもまずは一刻も早くウネリツノを倒すべきね」


「せやなぁ。さっさと結界打ち破らんと、とんでもないことになるんちゃうか?」


「ミナト殿、今すぐサフンを連れていけ。俺たちは後から向かう」


サフンの意見に全員が賛成する。チハイザメさん、本人の戦闘力はあまり高くないのに世界に与えた影響があまりにも大きすぎる…!


「ベガ、ヴァイ!全力で今来た道を戻るぞ!」


キジクジャクは今疲れ果てて飛べないので杖の中で休ませている。ベガはヴァイよりは移動速度は遅いが、それでも十分速い。


「クェー!」 「ガァ」


幻獣と飛竜がそれぞれ人間を乗せ、己の出せる最高速度でカリヨネッタへと戻る。そしてその間に俺はあることを考えなければならない。それは……


「どうやってウネリツノを倒すか。それが問題だ」


「そうね。確か、ウネリツノの出現区域は海全域。探すのにもかなり時間を使いそうだし、逆に言えば戦力が整う前にばったり遭遇しても終わりよ」


この世界、造船といった技術がほとんどないのだ。カヌーくらいならあるが。その理由は単純。


「海が、あまりにも危険すぎるから」


船を作って大海にでも出てみろ、シーサーペントやクラーケンなどといった超危険生物にすぐ壊されてしまうだろう。


「おまけに、ほとんど攻撃手段がないのよね」


弓矢や魔法は基本水の中に入れば威力は落ちる。だからといって剣で突撃するのは、どう考えても無謀である。他にもいろいろ理由があり海の沖にまで行こうとする人間はほぼゼロに近い。そうジャックに教えてもらった。


「そう考えると海は完全に魔物使い一強なのかもな」


あー、いやでもたまたまシーサーペントを仲間にできたから良かったけど頼りになる水棲生物を仲間にするまでが大変なのか。ちなみに…


「そう考えるとシーサーペントを海進出前に仲間にできて良かったわね。でも、何故シーサーペントが湖に?」


「確か、サルヴァントがいた湖はもともと海と繋がってたんだって。でも大昔に地殻変動かなんかで塞がっちゃって閉じ込められたとかなんとか」


サルヴァントに聞いたらそう言ってた。てかそう考えるとサルヴァントって結構長生きなんだな、精神年齢はまあ…9歳くらいだけど…


ま、まあそれは置いといて。


「しばらくは頼りになる水棲生物を仲間にして行こう。例えば…」


「クラーケンとかスキュラ、龍喰らいとかね」


俺たちはウネリツノ討伐へ向けて、今後の活動方針を定めた。

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