第22話 撤退

ある石碑にはこう刻まれている。三体の怪物とそれを統べる王がいずれ世界に災厄をもたらすと。石碑には、そう刻まれている。



クロツバサが展開した目をファラクが食いちぎろうとする。だが、それだけで倒せるほどクロツバサは決して甘くない。なぜなら…彼は何百年もの間世界を牛耳ってきた支配者なのだから。



「なにこのちっちゃいマンタ!?」



目には目を歯には歯をとでもいうつもりか、奴はなんと口から大量のしもべを呼び出したのである!子分も子分で、不気味で気持ち悪い。


「ニョ!」

「ッス!」


その数、300はあるだろうか?目が青く光り、黒色の体のマンタが大量に湧いてきた。こちらの魔物連合軍の数ほど多くはない。だが…



「ア"ー!?」

「ヒョロ!?」


連合軍を混乱させるためには十分な数だった。そしてその間に羽虫を振り払うかのごとく旋回して俺たちを振り払った。…実際、あいつには俺も羽虫も全く同じように見えているのだろうな。


「はあああああああああああ!?!?!?」


いや、わかっていた。奴は空の覇者。数百年も退治されなかった凄腕の魔物だ。そう簡単に倒せるような奴ではないとは思っていた…!


「だが、油断してた感は否めないのが悲しい!!!」

俺は、とんでもない速度で下へと落ちながらそう言い放つ。

最近は激闘を繰り広げることはあったが生死を分けるほどの死闘は繰り広げてはいなかった。ましてや、俺たちだけでなく連合軍まで組んで挑んだんだぞ。それでも、届かないか…!



「mgdpmggmpwjwgmpd」


相変わらずクロツバサは訳のわからない奇声をあげている。その図体に似合わない妙に甲高く、不気味な鳴き声で、だ。

しかし今の俺たちにそんなことを気にしている暇はない。何故なら


「。。。。 。 。」

「お、おちるぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「ゴァー!???」

俺とファラク、マレムは空中に投げ出され、今まさに地面に激突しようとしている。

最悪の事態に備え、俺はファラクとマレムを杖の中に戻した。 


これで、死ぬのは俺一人になる。



「今度こそ、終わりか…」


アルタイルは今まで見たことのない速度で俺に向かっているが、多分間に合わない。

今度こそ死ぬ。そう思ったとき、サファイア色の色の閃光が俺の下へと回り込み俺を受け止めた。


「ガァ!」


「ヴァイ!?ヴァイじゃないか!!助かった!!」


瞬間速度最強であるヴァイが俺を受け止めてくれたのだ。あとちょっと遅れてたら俺は死んでいただろう、ありがとう。アルタイルも、俺が無事なことに気づきホッとした表情をしている。


とりあえず、まずは一旦引こう。


「野郎ども、引き上げじゃあ!」


ヴァイに乗った俺が連合軍に撤退命令を出す。彼らのほとんどは俺の仲間モンスターではないが、魔物使いが仲間にした魔物なら人間の言葉はわかるのでちゃんと俺の命令もわかっているはずだ。


少しずつ撤退を始める連合軍を、クロツバサは襲わない。ただ、上空で羽ばたいているだけだ。深入りは危険だとわかっているのだ。強さだけでなく、この賢さも数百年空の覇権を握り続けた理由のひとつである。


でも…その賢さは今回仇となった。逃げる彼らを襲っておけばクロツバサは勝てたのに。



「なるほど。やはり、一筋縄で勝てる相手ではありませんでしたか」


「ああ。でも、ダメージはそこそこ与えられたと思うんだけどな」


今俺は魔物使いたちと共に作戦を練り直している。ちなみに連合軍はイヤシムササビからの手厚い治療を受けている。ある程度は、彼らも回復しただろうか。


「まずはクロツバサの攻撃の種類を整理しましょう」


噛みつき、切り裂き、イカヅチ、薙ぎ払い、巨大風の円盤、目の展開、しもべの召喚。


「クロツバサの上にいる俺たちを直接攻撃せず、子分を出すという回りくどい方法を使って振り払った。これ以上奴に攻撃方法はないんじゃないか?」


そしてアルタイルがもう一度奴の展開する目を無理矢理開けさせたままの状態で固定させ、そこを集中攻撃すれば勝てるのでは、と俺は言った。子分はヴァイやフェニックスなどをクロツバサの口元に配置し、そこから焼き払って出てくる前に殺すのだ。


「私は反対です、ミナト殿」


「なんでだ?」


「これほどまでに賢いクロツバサが、自分の弱点が展開する目だと相手に看破されている状態の中目を展開するほど愚かとは思えないのです」


「あ、しまった…!」


よくよく考えれば当たり前のことだった。クロツバサがその弱点を対策するにはどうすればいいか?そう。目を展開させなければ良いのだ。


もちろん、目を展開させないことにより今度こそ彼の側面は死角となる。だが、目を展開させなければ彼は鉄壁の如き防御力を持つ。まずクロツバサを倒す前に連合軍のスタミナがつきて墜落するのが先だろう。


俺たちは、千載一遇のチャンスを逃してしまっていたのだ…


「く、くそったれー!!」

俺はそう絶叫した。


「ですがその代わりにいい案があります」





「水と火と雷を奴の口の中に放ち、爆発を起こさせるのです。展開した目ほどではないと思いますが、ダメージはかなり入ると思われます」



あ、昔どっかの映画で見たことあるぞ。雷が水を電気分解して水素と酸素にして、そこに炎入れて大爆破させるやつだろ、これ。

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