第37話 アツシとの秘密の会話。

「懐かしいな! チーズが無かったのは残念だがソーセージもベーコンも美味い!!」

「チーズは自分で作ろうとするとパンに塗るタイプのチーズくらいしか作れない事が分かって……」

「それは……塗るチーズか。ネットスーパーでも買えるがこっちのモノも食べてみたいな」

「出来上がりましたら献上しますよ」

「それは有難い。俺に出来る献上物が無いのが残念だが……」

「それなら、もし良ければアツシ様のしているお店で買えるというお菓子を披露宴に出して貰えればと思います」

「ストレリチア菓子店で出してるのって言えばここにあるのと同じ奴だが、いいのか?」

「散々俺とリゼルを馬鹿にして来た貴族相手ですからね。徹底的に潰したいんです」

「なるほど、威厳も保ちつつどれだけ懇意に、そして大事にされているのか分かるようにか」

「ええ。度肝を抜ければ流石に奴等とてこれ以上俺とリゼルを馬鹿には出来ないでしょう」

「苦労するなお前は……。いや、この国の貴族問題か?」



そう言って頭を悩ませるアツシ様だが、このシュノベザール王国の貴族はそう多くはない。

そもそも貴族と言ってもアツシ様のいるような国とは雲泥の差だ。

昔は「国王の方が貧乏な生活をしている」と嘲笑っていた奴等だが、俺の快進撃のお陰でそうも言っていられなくなった。

国王の方が立場が上になったと言う証でもある。



「貴族からすれば、国王は愚王の方が都合がよかった……。だが、それを俺はよしとしなかった」

「ああ、なるほど……親が邪魔だったというアレか」

「そうですね。姑息な汚いやり方ですが、アレは親と呼ぶことが出来ない人種でした。だからこそ――国を想っての苦渋の決断です」

「それを15歳になるかならないかで決めないといけないくらいには、この国は病んでいた訳か」

「はい。改革するにしても古狸たちに汚職に脱税……賄賂まで様々ありましたからね。それらを一掃しつつ、大臣には定年制度を設けました」

「俺も一緒だな。大臣や上にいる者は確かに長い年月いれば知識や経験は豊富にあるだろう。だが、その分繋がりが多すぎて悪い事をしようと思えば幾らでもできる。だからこそ定年退職は必要だと感じた」

「上に立つ者が下の者たちを引っ張って行くだけの力がないと国は発展しません。それはアツシ様も経験済みかと思います」

「その通りだな」

「その為には、多少強引な事も推し進めなくてはならない苦労はありましたし、今思えばよく命があったものだなと思いますよ」



実際命を狙われても可笑しくはない状態だったと思う。

だが、命を狙われる事なく生きてこれたのは運が良かったのだろう。

運がいいにしても、その運が何時まで続くかも分からない。だからこそ、アツシ様との繋がりはとても大事だった。



「よし、明日拠点を通じてシュライに会いに行くから、その時に献上品としてこのベーコンとソーセージをお願いしたい」

「え?」

「その代わり、お返しには披露宴で素晴らしいモノを持って来ようって言えば、二人の王の親密さが周囲に伝わる。神々の島の王とシュライが親密にしている事は徐々に広めていくといい。【シュノベザール王国の現国王は神々の島の王と親しく、贈り物をし合う仲である】なんて広まって行けば、シュライの名声も国の名声も高まるし、移住者も出て来るかも知れない」

「そうですね……。将来的にはリゾート地は作りたい所ですが、移住者か……」

「そう言えばこの国では奴隷はいないのか?」

「奴隷に落とされるのは主に犯罪者です。殺人、殺害、強姦等、本当に人間としてしてはならぬ事をした場合奴隷に落とされ、奴隷商に売りに出されます」

「そっちか……。奴隷を買って欲しいとは言われないのか?」

「言われませんね。寧ろ仕入れに来ると言う感じです」

「なるほど」

「父王の時代は寧ろ、犯罪者を売る事で何とか国が持っていた……とさえ言われているくらいですよ。今は法整備も整いましたので法を犯した者の中で最も重犯罪者が奴隷に堕ちます」

「どこの国でもそうなるよなぁ」



やはりアツシ様の国でも奴隷問題は深刻らしい。

人権問題を考えると犯罪者や人を殺めたものに人権があるのかないのかと言う議論になるし、そこは国のトップにしてみれば頭の痛い問題でもあった。

一般市民であれば、人権など無いと言う考えが一般的だろう。

俺も実際そう思う。

だからといってポンポン首を刎ねていいと言う問題でもない。

悩ましい問題なのだ。



「そもそも、俺だって親を殺したんですから、本来ならば【オリタリウス監獄】で命を終わらせる運命だったでしょうね」

「オリタリウス監獄? なんだそれは」

「最も罪の重い者が行きつく監獄です。そこでは死ぬよりも辛い責め苦を味わうとされています。地脈が繋がっているだけでも害悪とされており、地脈の繋がった先にある国、【鉄の国サカマル帝国】では鬼門だと言われて封印される程だとか」

「そんな場所があるのか……」

「とても恐ろしい場所だそうです。死者は外に投げ捨てられ、腐る事も無く凍り付くのだとか」

「……」

「俺も、本来は【オリタリウス監獄】行きなのでしょう……。でも、国民全員の命と天秤にかけたら、どうしても……」



そういうと肩を落とし、自分のした罪が決して許されない事だと言う事を改めて知る。

確かに前世で両親が俺にしたことも決して許される事ではないけれど、どちらも【不要】だからと命を消していい訳では無かった。



「今更言っても遅いですけどね!」

「だが、その償いの分だけの働きを君はしている。国民全員飢えている訳ではないし、衛生面にも気を使っているだろう」

「そこは無論です」

「ならば、罪は多少なりと償えたんじゃないか? 俺も詳しい事は言えないし、言うだけの立場にはいない。だが君は国民を飢えさせない為に頑張った。それは誇っていい事だと思う」

「……ありがとう御座います」

「さて、明日は君に会いに行く。朝の時間に来ていいか?」

「無論です」



こうして翌朝、拠点から使者がやってきてアツシ様が面会したいと言っていると言う話が舞い込んでくるのだけれども、仲睦まじく会話する姿や献上品としてこちらが燻製を手渡した事、そしてアツシ様もお礼に今度品を持ってくると言った事などが城の人間より外に伝わって行くのだが、それはジワジワと広がり、俺の賢王としての名が更に上がって行くことになるのは、また別の話――。




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