【 一 】(24 / 25)

 * * * * *



 次に君の意識が再び浮上し始めた時、周囲から聞き覚えのある声達が聞こえてきた。


「──ほぅほぅ。なるほど、おぬしたちの『なれそめ』はそんなかんじだったのか」


「『馴れ初め』などと言ってはウェイクが可哀想です。この子はワタシを哀れんで付き合ってくれているだけです」


「そうかの? いやいやにはみえんかったぞ?」


「それもつまるところ、この子の善性によるものです。良い子だからこそ、ワタシみたいな者に手を差し伸べられる」


 何やら当人が気絶している内に、話のネタにされてしまっているようだ。

 人の気も知れずに談笑に耽っている様子である。


「あいじゃよ。あい」


「なるほど『敬愛』という事ですね? ワタシには勿体無い限りです」


「いやいや、そうはならんじゃろ?」


「うーん……前々からそうだったけど、これは重傷だね」


「……いや、すんません。何の話をしてるんすか?」


 放っておくと永遠と続きそうな気がした君は、我慢できずについ口を挟んでしまう。

 ゆっくり目を開けると、ボヤけた視界に見慣れぬ天井が広がっていた。

 そして君を見下ろす頭が二つ。赤毛の頭と白い獣の頭だ。


「お、おきたかの?」


「……今、どういう状況っすか?」


「まぁ、まてまて。じゅんばんにせつめいする。……あかいのがな」


「あ、僕ですか? まぁ、それが一番良いですかね。(文面的にも)」


 向かって右側にいた白い猪の神様・ルスティは、少し離れた位置に立っている紅い髪色の少年・レックスを指名する。


「まぁ、まず落ち着いて聞いてほしいんだけど。レヴィの鎮静化には成功した」


「……すまないな。どの面下げてと言う感じではあるのだが、お前のおかげで──」


「姐さんっ‼ ご無事っすぅ……かぁ……?」


 視界の上方向から覗き込むようにレヴィが顔を見せた瞬間、君は反射的に状態を起こそうとして……、起こせなかった。

 全身のあちこちで発生している痛みが、君の動きを阻害する。

 特に酷いのは頭痛だ。

 『程よい硬さの何か』を敷いてくれているおかげで、それ以上の痛みになる事はなかったのが、不幸中の幸いか?


「大丈夫か? 頭が痛むのか? すまないな。今のワタシは膝を貸してやる事しかできないんだ」


「……え? 今、なんと?」


 体が動かせない君には確認しようがないが、状況からして君は今レヴィに──。


「話が逸れるから、いったん無視して良いかな? レヴィは君が取り付けた『抑制の首輪』によって瘴気を抑え込むことに成功した。それに伴って彼女は……」


「……正気に戻ったって事で良いんすよね?」


「あ、あぁ、そうだね。……フフッ」


「はぁ、しょーもないの」


「……?」


 レックスは掴みどころのない人物ではあるが、急に笑い出す姿に君は眉をひそめる事しかできなかった。


「ごめん、忘れてくれ。えっと、なんだっけ? あぁ、そうそう。それで、今のレヴィの状態なんだけど──」


「ワタシは『魔人』のままだ。さっきレックスが言ったように、首輪の効果で瘴気が悪さするのを抑制している。証拠……になるかは分からないが、瘴気による両腕の再生が出来ていない」


 レヴィは言いながら自身の両腕を君の視界に入れる。

 半端に切られた袖から伸びる腕の先は無く、断面を隠す為に包帯が巻かれていた。

 その痛ましい姿が、君の心に影を落とす。


「姐さん……」


「そんな申し訳なさそうな顔をするな。多少不自由だったとしても、ワタシはワタシに戻れて嬉しいんだ」


 レヴィは言いながら、両腕を君に向かって伸ばす。

 君は無意識に両手を伸ばし、握手するかのように彼女の両腕を掴んだ。


「瘴気に当てられてからお前に止められるまで、一連の記憶は全て残っている。お前達にした事を考えるなら、ワタシはこの場に留まる事すら許されない存在だ」


「そんなこと……」


「だから、ありがとう。お前のおかげで、ワタシはまだ存在できる。お前がワタシを導く光だ」


 レヴィは熱い視線を君に向けたまま、腕を掴んでいる君の両手を頬に寄せて優しく頬ずりする。

 君の両手には、柔らかい頬の感触だけが伝わってきた。


 その感触だけでも構わない。

 それが、それだけが、君が彼女を救い出せた何よりの証拠なのだから。

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