【 一 】(18 / 25)

 つまるところ、君の取る行動は今までと何一つ変わっていなかった。


 先のルスティとの戦闘で発現した『世界が速度を失う感覚』。

 視覚のみに意識が集中し、他全ての感覚が失われる現象が、再び君に発現する。


 通常では強引に飛び込む事しか出来ない距離を、冷静に状況を把握しながら突き進んで行く。

 村長とレヴィ。二人の間に割って入りながら、村長の手の動きを完全に補足して、難なく手首を掴む。


 集中は途切れ、置き去りにした全てが君に追いついた。

 全身から嫌な汗が滲み出ている気配がするが、君は無視を決め込む。


『……ウェイク』

「──な、小僧っ⁉」


 君が介入した事で状況は混沌わ極めているが、君は努めて冷静に事態の収束を優先させる。


「すんません!」

「──ぐっ⁉︎」


 村長の腹部を殴打し、気絶させる。

 糸の切れた人形のように崩れ落ちる村長を抱きとめ、間髪入れずにその場を離脱した。

 レヴィからの追撃は、ない。


「怪我人に鞭を打つようで申し訳ないっすけど、今は大人しくしてて下さい」


 半ば独り言のように喋りながら、君は服の収納から手頃な布と簡易的な薬品を取り出し、村長に応急手当を施していく。

 その間も、レヴィからの攻撃はない。

 どちらかというと、周囲に気を配っている様子だった。

 君は村長に刺さっている矢を引き抜いて叩き折る。

 すると、矢は形を失い黒い霧──瘴気となって霧散していった。


(やっぱり、瘴気から精製された矢だったか……)


 矢だけに限らず、瘴気から精製されたモノは全て人体に害をなす忌み物だ。

 体に刺さった状態だと、そこから体内に瘴気が溶け込み最悪の場合、衰弱死も有り得る。


 村長の出血が酷くなる前に傷口の手当てを手早く進めていく。



 一通りの手当てを終えた君は立ち上がり、レヴィの方に顔を向けた。

 終始、レヴィはその場から動く事はなかったが、君の様子に気付いたのか、周囲に視線を向けながら口を開く。


『……終わったか?』

「はい。お待たせしてすんません」

『そうか、なら『』とするか』

「その前に、一つ聞かせて欲しいんすけど」

『……なんだ?』



 応対はしつつも、問答無用とばかりに戦闘の構えを取ろうとしているレヴィに、君は待ったを掛ける。


『フッ、流石に普段通りの態度は取れんか』

「答えて下さい」

『……必要な問答か?』

「もちろんです」


 一瞬、沈黙を挟んだ後、レヴィは腰に──下げているメイスに──伸ばしていた手を戻した。


『お前が望む答えを口にする事は容易い。だが、無意味だ。お前の覚悟が鈍るだけだぞ?』

「村長の肩に刺さっていた矢。姐さんは弓矢は扱いませんし、あの矢羽根の形状には見覚えがあります。恐らく、ゴブリン種の襲撃があったんじゃないですか? そして、貴女はゴブリンを排除した。その両肩の黒蛇と持ち前の武力で」


 話に出てきたからか、好き勝手に蠢いていたマフラーの先が双頭の蛇を形成して君を見つめる。

 蛇に睨まれた蛙、とでも言おうか。

 吸い寄せられるような虚空を孕んだ赤黒い四つの視線が、君を真っ直ぐ射抜いている。


『……だったら、どうだと言うんだ? ワタシは最早、『人間』の域から外れた者。百害あって一利なしの存在だ』

「そんなことはありません。例え、肉体が人間から離れた存在になっていたとしても、、という事です。まだ、手遅れなんかじゃないんです」


 蛇睨みに屈する事なく、君は思いの丈を言葉にして紡いでいく。

 君が望む、彼女があるべき姿に戻す為に。


(姐さんの心がまだ、今までの姐さんのままなら、きっとこのまま穏便に事が済むはず。そうなれば、あとはゆっくり旦那を待てばいい)

『…………』


 君の思いが届いたのか、レヴィは目を閉じて俯く。


『……そうか。……そうだな。……そうかも、しれないな』

「良かった。解ってくれましたか。姐さ──」


 自身に言い聞かせるように言葉を繰り返す姿は、彼女の心に君の言葉が響いた証拠だ。


 ──だが、君が紡いだ言葉は、この場において正しい発言だったのだろうか。


 


 そう。所詮『聖女それ』は、君から見える一側面。

 全てだと思っていたモノの影に潜む、彼女の本質には程遠い。


 レヴィが静かに顔を上げる。

 妖しく揺らめく紅い両眼が君を捉えた。


『ワタシはもともと、


 刹那。君の目の前は黒く塗り潰された。

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