【 一 】(3 / 25)
洞窟内で行われた二度目の闘争は思いの外、呆気なく決着が付いた。
次々に押し寄せてきていたゴブリンの上位種『ホブゴブリン』。
その巨大な体躯に見合った重い一撃が脅威な魔物。その死骸が洞窟内のあちこちに散乱している。
「よしよし。今、レヴィが倒したので最後かな? 調子は悪くなさそうだね」
「ん? そうだな。むしろ調子が良いまであるな」
レックスの問い掛けに、レヴィは顔に付いた黒い返り血を手の甲で拭いつつ答える。
臭いのするものではないが、肌に張り付くような感覚は、少し付いただけでも不快に感じる事だろう。
君は収納から手頃な手拭いを取り出してレヴィに差し出す。
「あぁ、すまない」
「いえいえ、お疲れっす。……結局、それなりの数が湧いてきたっすね」
「そうだな。狭い通路内で押しつぶされたら厳しかったかもしれないな」
「うぇ、勘弁して下さいよ。帰りが怖くなったじゃないっすかぁ」
彼女にしては珍しく冗談を口にする。暗がりで見えづらいが、笑っていたように見える。
しかし、肥大化した肉壁に挟まれる自分を想像した君は薄ら笑いを浮かべてゲンナリし、彼女の表情に言及する余裕がなかった。
「さて、ご歓談の所、大変申し訳ないんだけれど。……第三ウェーブだ」
レックスの言葉を聞いた君は顔を上げてレックスの視線の先──巨大な瘴石の方へと顔を向ける。
先のホブゴブリンが発生した時と同じ──いや、それ以上の瘴気の激しい動き。周囲の瘴気全てが巨大な瘴石へと吸い寄せられていく。
「ありったけの瘴気を取り込んでいるのか?」
「完全に『質』特化で来るみたいっすね」
「さっきもそうだけど、まるで意思があるかのような動きだね。……実に興味深い」
洞窟内を埋め尽くしていた陰鬱な気配が薄れ、代わりに目の前の物体から驚異的な威圧感が発せられ始めた。
巨大な瘴石が浮き上がり、瘴気を纏う。
一度、黒い霧の塊と化した物体は四肢を伸ばすが如く四方に突起を生やし、徐々に人型へと近付いていく。
最後に二本の角が生えた頭部が生成されて、紅い瞳が妖しい輝きを放った。
黒い筋肉質な巨体が降り立った事で、大地が悲鳴を上げるかのように振動する。
人間の十倍はあると思われる体を有した怪物。
小鬼の王と称される魔物──『ゴブリンキング』が生成された瞬間だった。
『グォオオオッ‼︎』
「──ぅっ⁉︎」
ゴブリンキングの地響きの様に大地を震わせる産声に、君は思わず身をすくめてしまう。
生物である以上、切り離す事の出来ない生存本能に直接叩き付けられる『恐怖』。
無意識に隣に並ぶ血染めの聖女を見る。
「……フフフ、面白い」
聖女は笑っていた。
子供が大喜びするように、それでいて冷静に目の前の『脅威』を見つめながら。
いや、今の彼女にとってそれは『脅威』ではなく、ただの『獲物』に過ぎないのかもしれない。
一抹の不安が君の脳裏を過る。
「……姐さん、大丈夫っすか?」
「ん? ……あぁ、安心しろ。問題なく退けてみせるさ」
君の声に反応して向けてきた目線は、いつもの凛々しくも勇ましい、頼り甲斐のある聖女の笑顔だった。
本当にいつも通りで、先程までの不安がなんだったのか、分からなくなってしまう。
「さて……、始めるとしようか」
半身で中腰になり相手を見据える、いつもの構え。何一つ、陰りはない。……ように見える。
本来ならこれ以上、彼女に戦わせるべきではないのだろう。
だが、今の状況を打破する術を君は知らない。
だから、せめて、何事もなく戦闘が終わる事を静かに祈る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます