第86話

「さて、この辺でいいだろう」


 街の外に出て街道を外れて人気のない場所まで移動してから、ある物をアイテムボックスから出した。


「箱馬車?」


「見た目はな。中を見てみ」


 俺が促すと、ピクリナは馬車の扉を開けて目を丸くした。

 馬車の中は空間魔法を使って広々としており、全員分の個室と風呂、トイレ、キッチン、リビング完備。


 その上、異空間なので馬車の揺れを感じない物となっている。

 家具も一通り揃えてあるのでもうここで暮らせる。


「すごい  本当にすごい


「ちなみにこの馬車は自走できる」


「⁉」


 明らかに不審車になるから普段は偽装のために馬に引かせるが、最悪戦闘が起きて馬が逃げたとしても大丈夫だ。


「屋根の上に荷物を適当に積んで……はい。これで普通の箱馬車だ」


 軽く走らせて動くのを確認し、アイテムボックスに収めてギルドに戻った。



 ■□■



「よーし、出発するぞー!」


 馬を確保して翌日、俺たちは出発した。

 ジェノルムは耳にたこが出来るほど問題だけは起こすな、と念押ししてきたが大丈夫だろう。 


 ここに問題を起こす非常識なやつなんて居ない。

 俺?一番弱いんだから問題なんて起こせるわけ無いだろう。


「いやぁ、獣人のシースナがいて助かったよ」


「い、いえ、あたいなんかがお役に立てて光栄です!」


 獣人であるシースナは動物と話すことができ、買ったじゃじゃ馬二頭を手懐けてくれた。


 シースナが地図を見せながら馬と話すと、馬は分かったと言わんばかりに頷きムチを打たずとも走り出した。


 しかし流石に御者台が無人なのは怪しいので、交代制にして座ることにした。

 今は俺とシースナの番だった。


「なあ」


「何でしょうか?」


「尻尾触ってもいい?」


 この世界の獣人はそれぞれケモ度が違う。

 ほとんど二足歩行の動物に見えるやつも居るし、素人のコスプレレベルの耳と尻尾だけついてる人族みたいな見た目のやつも居る。


 シースナは獣人の中でも獣割合が低く、ケモ耳と尻尾があるだけで、普通の人間とさして変わらないので表情が読みやすい。

 現在シースナは顔を真っ赤にしていた。


「尻尾はちょっと…………」


「なにか理由が?」


「尻尾を触るのは恋人や親子でしかしない行動です」


「……すみませんでした!」


 手触りが気になるがそういうことなら仕方ない。


「ああ!謝らないでくださいユースケ様。尻尾は無理ですが、あたいの耳なら大丈夫ですよ」


 頭をこちらに傾けてきたので耳をモフる。

 やっぱり豹だから猫と似た手触りだ。

 耳をニギニギされるのが気持ちいいのかシースナはゴロゴロと喉を鳴らした。


「交代の時間よーって、これどんな状況なの⁉」


 馬車から出てきたヴァイオレットが大きな声で叫んだ。





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