第39話 宮殿最後の夜

 宮殿での最後の夕食を食べ、今はソファーに座ってまったりしているのだが……どうしよう。陽菜があまりにも魅力的過ぎて落ち着かない。


 まずは陽菜の服装で、あのスケスケで大胆な寝間着を着ているのに上には何も羽織っていない。


 ちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめてはいるものの、堂々と俺の正面に座っている。


 このちょっと恥ずかしそうな顔も可愛いし、大胆な寝間着の……巨乳の、谷間が……それに腰のくびれと太ももが……うっ、こ、股間の息子が……!


 俺は慌てて深呼吸をし、陽菜を直視しないように明後日の方向に視線を向けた。すると陽菜が口を開く。


「ねえ、祥ちゃん」

「ん?」

「そっち、行くね」


 陽菜は突然ソファーから立ち上がり、俺の隣に座ってきた。


 久しぶりだからだろうか? 陽菜のいい香りが今までよりも強く感じられ、今すぐにでも押し倒してしまいたくなる。


 だ、ダメだ。陽菜を傷つけるようなことは……!


「陽菜、どうしたの?」


 平静を装って聞き返そうとしたが、ちょっと声が上ずってしまった。だが陽菜はそれを指摘したりはせず、可愛らしく俺の肩に頭を預けてきた。


「あのね?」

「うん」

「離れてたときのこと、もっと教えて? どんなことがあったの?」

「え? あ、ああ」


 俺は事細かに魔窟でのことを説明していく。


「ええっ? 祥ちゃん、料理の効果のこと、ちゃんと言わなかったの?」

「うん。だってさ。全員分は作れないんだもん。かといって特定の誰かにだけ作ったら不公平になるでしょ? 騎士たちは手柄を上げたいわけだし。だったらランダムのほうが公平かなって思って」

「そっかぁ。もし知っちゃったら、取り合いになりそうだもんね」

「うん」

「やっぱり祥ちゃんってさすがだなぁ」

「え? 何が?」

「だって、いつも色々考えてて偉いじゃん」

「そう?」

「うん。料理人になるって夢をちゃんと持ってて、努力してて、それで高校では料理研究会を自分で立ち上げちゃったでしょ? そんなの、普通できないもん」

「そうかな」

「うん。そう。すごいよ」

「そっか。ありがと」

「うん」

「そういえば、陽菜って夢はあるの? 日本に帰るっての以外で」

「え? えっと……(祥ちゃんのお嫁さん)」


 陽菜はものすごく恥ずかしそうな表情でうつむくと、聞き取れないほどの小さな声で何かをつぶやいた。


「え? 何? なんだって?」

「え? あ、その……なんでもないよぉ」

「なんか言ってたじゃん」

「う……あ、あたしは……」

「うん」

「あ、あたしは! 祥ちゃんみたいにちゃんとしたのがないから恥ずかしいの!」


 陽菜は恥ずかしがったまま、まくし立てるようにそう答えた。


 なんだ。そんなことだったのか。それなら全然恥ずかしいことじゃないじゃん。


「陽菜、別にそんなの恥ずかしくないよ。だって、クラスでも俺みたいにちゃんと夢を持っているやつなんて少ないでしょ? だから俺みたいなのが珍しいだけで、陽菜は普通なんじゃないかな?」


 俺がそう答えると、陽菜はへにゃりと表情を崩した。


「もう。祥ちゃんは優しいなぁ」

「そう? 思ったことを言っただけだよ」

「でも、あたしは優しいって思ったの」

「ん。ありがと」

「うん」


 それから俺たちは、時間を忘れてお互いが離れていたとこのことを報告し合った。そうしているうちに眠くなったのか、陽菜は突然大きなあくびをした。


「あ……もう遅いか。そろそろ寝る?」

「うん。そうだね。なんだか眠くなっちゃった。祥ちゃんは?」

「俺もそろそろ寝るよ」

「じゃあ、先に行ってるね」


 陽菜はそう言って立ち上がり、ベッドのほうへと歩いて行く。俺はその後ろ姿を見送ったのだが……。


 な、なんだあれ。ヤバい。あの歩き姿、エロすぎる。


 かなり眠たそうなのに背筋がピンと伸びていて、歩いていても軸は一切ブレていない。そしてスケスケの寝間着のせいでキュッとくびれた腰からの艶めかしいボディラインがはっきりとわかるうえに、歩くたびに陽菜の形のいい大きなお尻がプリプリと左右に動いて色気をこれでもかと放っているのだ。


 うっ! む、息子が……。


 お、落ち着け。俺は陽菜が胸を張って彼氏だと紹介できるような男になるんだろ!


 ここで欲望に負けるようじゃ、ただのケダモノじゃないか。


 深呼吸、深呼吸を……。


 すー、はー、すー、はー。


 ダ、ダメだ。落ち着かない。今にも暴発してしまいそうだ。


 かくなる上は!


「俺、トイレ行ってくる」


 そう宣言し、大急ぎでトイレへと向かう。


「はーい」


 ベッドのほうからは陽菜の呑気な返事が聞こえてくるのだった。


◆◇◆


 久しぶりだったせいもあってか、あっという間にスッキリした俺は洗浄魔法で徹底的に臭いを落としてからベッドに向かった。


 陽菜はすでに寝息を立てている。


 ……はぁ。魔窟から帰ったら告白しようと思ってたのになぁ。


 色々あって機会を逃してしまったが、もしかしたらこれで良かったのかもしれない。


 離れている間に陽菜は驚くほど大人になっていて、ただ魔窟で安全なベースキャンプにこもって料理を作っていただけの俺とは比べ物にならないくらい成長していた。


 はっきり言って、今の俺では陽菜の隣に立っても見劣りしてしまう。


 頑張ろう。もっと、もっともっと頑張ろう。料理だけじゃなくって、男として成長できるように。


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 次回更新は通常どおり、2024/03/09 (土) 18:00 を予定しております。

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