第24話 異世界の国家

 付き人教育を終え、部屋に戻ってくるとすでに陽菜が戻ってきていた。


「陽菜、ただいま」

「……」

「陽菜?」

「え? あ、うん。おかえり。どうだった?」

「午前の訓練が一番きついかも。ずっと素振りって剣道の授業でもなかったし」

「うん……」

「……陽菜? どうした? 何かあった?」

「え? ううん。それよりね。聖女様の年齢が分かったんだよ」

「へぇ。いくつだったの?」

「えへへ、当ててみてー」

「そうだなぁ。見た目は十代前半だけど……実は三十歳とか?」

「ぶっぶー」

「え? 違うの? じゃあ二十五」

「ぶっぶー」

「じゃあ、見た目どおり十二歳とか?」

「のんのんのん」

「なんでいきなり英語になるんだよ?」

「だって、どんどん遠ざかっていくんだもん」

「え? じゃあ、もっと年上ってこと?」

「そう」

「マジか。じゃあ四十」

「全然違うって」

「ええ? じゃあ分からないよ」

「そう? 正解はねー」


 陽菜はニヤニヤしながらもったいつける。


「知りたい?」

「うん。陽菜、早く教えてよ」

「しょうがないなー。正解は、百歳」

「へー、そうなんだ。面白い冗談だね。で、本当は?」

「だから、本当に百歳なんだって」

「え? マジで?」

「うん。マジ」

「マジのマジ?」

「マジのマジのマジだよ。なんか、聖女様ってね。生まれたときに聖女の力があるって分かって、それでその日のうちにこの町の聖女様になったんだって」

「生まれたその日に?」

「うん。だからそれ以外の生き方なんて知らないし、考えたこともないんだって」

「そっか」


 物心つく前から聖女様をさせられて、町の人を守り続けなきゃならない人生なんて想像もできない。


「この町、アニエシアって言うでしょ?」

「うん」

「それ、聖女様の名前のアニエスから取ったんだって。聖女アニエス様が女王様として治めているからアニエシア」

「そうなんだ」

「それでね。今日は国についても教えてもらったんだけどね。聖女様がいる町は全部一つの国なんだって」

「そうなの?」

「うん。だからアニエシアは国の名前で、町の名前でもあるの」

「なるほど。じゃあ、聖女様がいない町や村はどうなるの?」

「国って認めてもらえないみたいだよ」

「そうなんだ。じゃあ、都道府県みたいな感じ?」

「うーん、よく分からないけど、普通は近くの国の聖女様にお金を払って守ってもらうか、自力でなんとかするかのどっちからしいよ」

「そうなんだ。なんか、大変そうだね」

「うん。だから聖女様がいないところは税金が高くて、それで女の人が他の国に逃げちゃうんだって。それで町が無くなっちゃうこともあるんだって」

「そっか。誰だって税金が低いほうがいいもんね」

「うん……」


 そこで陽菜の話が途切れたので、今度は俺から気になったことを質問する。


「今の聖女様って、百年生きてるんだよね?」

「うん」

「それって、この世界の人は寿命が長いってこと?」


 すると陽菜は首を横に振った。


「そうじゃなくて、マナが多い人は長生きで、少ない人は短命なんだって」

「そうなの?」

「うん。あ! でも祥ちゃんは百歳まではいかないけど長生きするって聖女様が……」

「そっか……」


 あれ? もしかして陽菜が浮かない表情をしていたのって、もしかしてこれが理由だったりする?


 だとしたら嬉しいけど……でも、それを直接聞く勇気はない。もし違ってたら恥ずかしいし……。


「じゃあさ。聖女様って代替わりするの?」

「うん。そういうこともあるって。聖女様の力が衰えてきたときに、町の中で聖女の力がある女の子が生まれたら後継者に指名するんだって」

「そうなんだ」

「でも衰えてなかったら十歳くらいまでは育てるけど、そのあとはどこかの町に出すんだって」

「え? そうなの? せっかくの後継者なのに?」

「うん。同じ町に二人も聖女がいたって仕方ないって。それにマナが少ないと後継者が先に死んじゃうこともあるから……」

「そっか。なんか、地球とは全然違うんだね。地球だったら自分の子供を次の女王様にしようとするだろうにね」

「うん。聖女の力がないとダメだからね」

「そっか……」


 と、ここまで話してふと嫌なことに気付いてしまった。


「ねえ、これってまずくない?」

「え? 何が?」

「だってさ。太田さん、聖女でしょ?」

「あ! そっか! 太田さん、もうどこかの聖女様になってるかもしれない!」

「うん。俺、その状況だと説得できる自信、ないんだけど……」

「あたしも……どうしよう?」

「どうしようか……」


 俺たちは思わず顔を見合わせ、そして同時にため息をつく。


「ちょっと、祥ちゃん! ため息、真似しないでよ」

「え? 何言ってんだ。陽菜が真似たんだろ?」

「違う! 祥ちゃんだって」

「いや、陽菜……はぁ。そうだな。俺が真似たんでいいや。なんか、ちょっと気分が重くなっちゃった」

「……うん」

「今日は俺が夕飯、作ろうか? オムライス?」

「えっ!? いいの? やったぁ! 塩味だけでちょっと飽きてきてたんだよね」

「よし。じゃあ、ちょっと待っててくれ」


 俺は亜空間キッチンへと移動すると、すぐにオムライス作りに取り掛かるのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/02/27 (火) 18:00 を予定しております。

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