第14話 防御。

「田中」

『はい』


「高橋」

「はい」


「佐藤」

『はい』


「アニス」

「はい」


「森」

《はい》


「誰1人、決して欠ける事無く家に戻らせる、行くぞ」


 暗殺者、くノ一、治療魔法師に死霊使い。

 森さんのスキルがあまりにも不明な為、先ずは美食のレベル上げ、次に暗殺者のレベル上げの為にダンジョンへ。


 危うさは全く無かったが、やはり防御魔法の使い手は欲しい。

 山田さんや松本さんでも構わないんだが、出来るなら戦い慣れてくれている方が、指示を出す方としては安心だ。


《いやー、楽勝でしたね》

『予想はしてたけどさ、森さんのスキル便利過ぎじゃない?同一ダンジョン内限定で、食べた魔物のスキルやレベルが獲得出来るって』

「しかも美味しく食べると割増し、流石美食って感じだよねぇ」


《でも大食は無いんで限界は出ますよねぇ》

「でも、長く探索する程に有利だよね」

『まさしくダンジョン適性の有る称号だよね、けど僕はなぁ、狩人の下位互換って感じだし』

『安全装置のお陰で僕らは安心ですけどね、チーム内の殺害は出来無いんですから』

「何にでも安全装置が有る、無ければ世界は破綻する」

「ですねー」


「防御系の称号持ちを加えたいんだが」


《んー、盾?》

「あータンクで防御強い系か、白魔道士系?」

『高橋さん本当に詳しいなぁ』


「浅く広くですよ」

「両方持つ者は、流石に無理か」

《あぁ、人数多いと色々と大変ですもんねぇ》

『しかも作業効率が落ちるからね、人数が多いと人は手抜きをするし、船頭が多いと揉めるし』


《あ、でもアレはどうですかね、称号変えても相性が良かったら、スキルは継続所持出来るんですし》

「あー、タンクと防御魔法の入れ替えか」

『ただ、同意してくれるか、だよね。この国の者なら生活には困ってないだろうし、最悪は痛いし危ないし』

『そこは交渉人フィクサーの井上さんにお願いするのはどうでしょうか』


「頼むか」


 幸いにも国に協力的な井上さんと、新婚で精霊使いの元鈴木さんの能力で、交渉は問題無く進み。

 転移者の双子を引き入れる事に成功したのは良いんだが。


『具合が悪かったり、怖かったりお腹が減ったと思ったら、直ぐに僕らに言うんだよ?』

《そうですよ、大人でも気が利かなくなるのがダンジョンですからね?》

「「うん」」

「よし、行くぞ、リサルカ」


「「はい!」」


 田中君の暗殺者スキルで双子の護衛を、双子には防御魔法と時に敵を引き付けるタンクを。

 アニスには探索をして貰い、くノ一高橋さんに先ずは先制攻撃をして貰い、打ち漏らしは俺が。


 そして〆は、森さんの美食スキルで解体。

 調理、休憩。


『魔力供給以外、僕の出番が無いのは良い事なんですが』

「佐藤さんに如何に活躍させないか、ですからねぇ」

「嫌味では無く、本気で楽な仕事だと思って欲しい、所謂ボーナスステージだ、と」

『そうそう、警察官に忙しい方が嬉しいと思われるのも嫌だしね』

《あー、確かに。うん、存在してるだけでも十分なんですよ佐藤さんは、お陰で無茶出来ますし》

「でも2人は無茶したらダメですからね?子供は守られるべき存在なんですから」


「でも僕らは、ココで生きるなら義務だと思う」

「うん、私達はずっと守られる立場じゃないから、早くから勉強出来て良いと思う」


『うっ、こんなに良い子達なのに』

「分かる、キツいねコレ」

《君達がアホになれる世界を目指しますから、あまり気負わないで下さいね》

「そうそう、コレは予習復習準備体操でお散歩、程々に頑張りましょうね」


「難しい」

「程々って難しいよね?鈴木のおじさん?」

「あぁ、大人でも難しいが、そこは常に気を付けるべき事だ」


「色々気を付けないといけない」

「やっぱり大変だ、大人って」


 以降も、安定して最速最短で回れたんだが。

 引率する大人のメンタルに影響が出る為、一先ずは彼らが16才になるまで、称号を交代させる事に。




「どう、だろうか山本君」


「俺もそう思います、やっぱり子供には安全な場所に居て欲しいですし、子供には学んだり遊ぶ時間が必要ですから。このままだと利用され、使い捨てられ、あ、いやココでは大丈夫だとは思いますが。他の国の者が手を出す懸念です」

「いや、俺らも警戒してくれて構わない、所詮はただの大人でしか無いからな」


 いや、アナタ魔王ですよね。

 俺の称号は付与術師、与えられるって事は元の状態も見抜ける、つまりは鑑定スキルも持ってるんですけど。


 鈴木さん、凄い属性持ちなんですよね。

 蘇生者とか都落ちとか。


「いえ、温厚な性格も見抜けてますから」

「温厚、か、臆病者だとか慎重だとかも有るんだろうな」


 はい。

 性格がたったの一文字で終わるとか、ゲームじゃないんですから、当然複数存在してます。


 それこそ影響力の強弱までも。

 表示される文字の濃淡や大きさで影響力が分かるんですけど、所謂スクロール、魔法の紙を広げると書道の字で見える。


 俺の場合は。

 鑑定スキルと言っても、全員が同じ、一律の見え方をするワケじゃない。


 その数も、何もかも。


「知りたいですか?」

「知るべき事が有るなら」


 最初は勇者の称号を持つ人だと聞いていて、直ぐにも鑑定スキルを使った、けれど称号は魔王。

 なのに、勇者のまま、清廉潔白なまま。


 性格の基本構成としては温厚。

 その温厚さを形成するのは真面目さと優しさ、そして臆病者を形成するのは慎重さ、強さを形成するのは我慢強さと恥ずかしがり屋。


 どう見ても根は勇者。

 魔王なんて、勿体無い。


「アナタは、やっぱり勇者、ですよね」


「不器用過ぎる点は、勇者とすべきなんだろうか」

「遠慮は美点だと思いますよ、それに無遠慮でお喋りな勇者は、どうかと」


「まぁ、だが」

「何でも多様性を当て嵌めるのはどうかと思いますけどね、ダークエルフが黄色人種って流石に直ぐ納得出来無いじゃないですか、せめて黒ギャルじゃないと」


「あぁ」

「それに似せる事や寄せる事って良い事だと思うんですよね、カリフォルニアロールとか、カレーを作ろうとして肉じゃがになるとか、それって進化だと思うんですよ」


「美味いんだろうか、カリフォルニアロール」

「アボカドとサーモンって少し脂っこいですけど、酒に合いますよ、プチプチのとびっ子ありきですけど」


「あぁ、あのプチプチはとびっ子と言うのか」

「はい。まぁ少し逸れましたが、寿司ってやっぱり握り寿司、助六寿司や稲荷寿司や太巻じゃなくて、マグロの乗った握り寿司。勇者や英雄には原型が有る、無骨さとか不器用さって寧ろ備わってるべきだと思うんですよね、その後に次世代が続く。ほら偽者ってお喋りで軟弱に描かれている事が多いじゃないですか、そうして勇者を勇者たらしめていると思うんですよね」


「すまん、譲れれば」

「いえ、俺には荷が重過ぎです、例え2代目だって無理です。二番煎じのプレッシャーに応えられる自信も、その気も有りませんから」


「俺は、ただ出来る事をしていただけだ、そこまで高尚なモノじゃない」


 勇者らしい言葉。

 本当に、どこまでも勇者なんですよね、魔王様は。




《あぁ、君は知らないのか、鈴木さんの過去を》

「はい、ココ最近の事しか、ですので古参の渡辺さんにと。他にも聞いてみたんですが、濁されるんですよね、佐藤さんとか中村君」


《ドンピシャでそこに聞くか》

「あ、関係者だったんですね、成程」


《まぁ、私達も関係者、ある意味で加害者なんだが。そうか、鈴木さんは何も言わなかったのか》

「はい」


《良いだろう、折角だ、新参を集めて話をするかな》


 コレは贖罪と言うべきか、単なる事実と捉えるべきか。

 償えないまま、更に与えられてしまった。


 私達は平穏と若さを、鈴木さんに与えられたまま。


「成程、コレは佐藤さんに謝るべきなんでしょうか」

《いや、そこは君の考えで構わない、それで佐藤が捻くれる様なら、まだまだ反省が足りないと言う事だしな》

『私ね、何でも謝れば良いと思っていたのだけれど、違うみたいなのよね。本心で謝らず、その場を何とかする為の謝罪って、要は面倒だと思っての謝罪だから逆効果なんですって』


《田山さんの言う通り、下手な謝罪は逆撫でする事になる。だから、最初に私は謝らなかった、それが悪い事だけだとは思わなかったからだ。だが、結局は、目の前にするとな、耐えられなかった》


 完全な自己満足だった。

 謝った事実を欲するべきでは無いと想っていたのに、どうしても。


「俺も、仕方無いのかと思います。他国を見てるからこそ、その道しか無かったんだろうなと」

『そうね、昔の事は良く知らないけれど、少なくとも向こうの問題だって、頭が良い人が集まっても解決出来無い事は多いのだもの。きっと道は限られていたのよね』


『私は、納得出来ません』

『松本ちゃんは、何処が納得出来無いのかしらね?』

「と言うか、双子も納得出来ていなさそうだけど」


「私、どうして同じ大人なのに違うのかなと思う」

「うん、守ってくれる人とイジメる人は、どうして違うの?」


《色々な意味で、見方が違う。喉が渇いてる人に水を与える人が居る、綺麗で毒も無い水。単に善意で与えて貰ったと思うか、見下したいからか恩を売る為に与えられたと思うか。善意か悪意か、そもそも考える出発点が違う》


「見下し」

「恩を売る」

《他にも有るが、要は優しさからか、そうじゃないか。確かに疑えとは教えてはいる、けれどもそのもっと前、考える前の大前提が違うか》


「「か?」」

《悪意の中でだけで育ったか、弱い者はイジメて良い、悪いことだと知らなければ悪いとは思わない。それか罪悪感や共感する能力が異常に低いか、イジメる人もまた、多種多様》


『でも、だから、分かってるなら』

《人の考え、それこそ常識を変えるのにはどれだけ大変か、先ずはそこを考えてくれないかな。しかも変える利益が無いなら、人は変わろうとはしない、タダで魚が貰えるなら釣りなんて覚えないんだよ》


『あのね松本ちゃん、私って中身がおばあちゃんだからか、自分を変えるのって凄い大変なのよ。問題が起きたら先ずは謝る、例え私が原因じゃなくても、そうやって揉めないって利益を得ていたの。結果的には全体の損なのだけど、その時は正解だと思っていたの、そう思い込まされていた。でも今は違うって分かってるわ、でもね、クセで直ぐに謝ってしまうの』


《味が嫌いだ、けれど体に良い、だからと言って美味しく感じる様になるワケじゃない。折れた足が治っても庇って歩くクセは直ぐには治らないし、手が無くなっても痛みや痒みを感じる、クセを治すのは難しい、考え方のクセもだ》

「と言うか、思ったんですが、そもそも納得について若干の齟齬が有ると思うんですよね」

「「そご」」


「解釈の違い、ですかね。同音異義語は分かりますか、カキが食べたい、イシが欲しい」

「海のか」

「果物か?」


「そうです、納得についても。どれだけ納得するか、ちょっと許すか全部許すか、どうですか松本さん」


『全部は、はい、納得は難しいです』

「でもそれは考える為の材料、要素、乱数が足りないんだと思うんですよ」

「「らんすう」」

《乱す数、乱れる数、要は変動する数。どれだけ背が伸びるか予測が難しいって事だな》


「あぁ、服を買うのに困るやつ」

「靴も、後食べるのも、食べたいし食べられると思っても、以外と食べられない」

「そうです、何故分からないのか、それは経験が足りないから。しかも経験1つだけでは大人でも予測が難しい、だから経験の数は多い方が良い、でも数が多いと中には珍しい事も起こる。それが乱数です」


「でも数なら計算は出来るでしょ?」

「だいたいで」

「大体は、それが振れ幅や余白なんですけど、大人でも乱数の事が頭から抜けてしまう事が有る。頭が良いから、偉い人だから、専門家だから絶対に失敗は無い筈だ。でも天気予報は偶に外れる、それだけ乱数が多いから」


「あー、洗濯物が濡れて怒られた」

「晴れって言ってたから怒ってた」

「詳しく知らないと乱数の事は考えない、しかも乱数が幾つ有るか数値はどの位かも知らない、だから外れるとは思わない」

《しかも、安心安全で完璧な世界だと無意識に思っている、不安定で不正確な事ばかりだと思うと人は病んでしまう。鍵を掛けたか、火の始末はしっかりしたか》

『分かるわ、つい鍵を確認しちゃうのよね、特に遠くに出掛ける時』


『じゃあ、何処まで知れば』

《勉学や自分の時間を潰さず、自分がもう良いだろうと思う所まで、突き詰めたら良い》

「ただ、その先も考えるべきだと思いますよ。渡辺さんや伊藤君さんが間違っていたとして、何が出来るのか、どうしたいのか。放置した先、断罪した先に何が起こるのか、も」


『そんな、別に』

「間違った正義感から問題提起する人も居るんですよ、自分の正しさを証明したい、有名になりたい、お金が欲しい。それらの欲望が無意識のままに、問題を大きくする人も居る、それこそ死人が出ても反省しない、偽の情報に騙された私は悪くないって本気で言う人も居ますし、偽の記憶を植え付けられて本気で信じ込む人も居る」


《まぁ、コレは難しい問題だ、期限を決めて宿題としよう。期限は自分で決める事、但し延期は1度だけ、1年以内に終わらせる事。良いね?》

「「はーい」」


『はい』


 詮索する気は無いけれど。

 山本君には、何かが有ったのか。




「あぁ、父が冤罪で自死、冤罪だと分かっても相変わらず汚名はそのままで。就職活動も難航して、酔っ払いに絡まれて、ですね」


《鈴木さんなら、勿体無いからさっさと結婚しろ、と言うそうだけど》

「凄まじい掌返しを見て来たのと、まだ、最近の事なので難しいですね」


《あぁ、しかも鑑定スキル持ちには、難しいか》

「ですね、仕事なら良いんですが、私的な事に使うには罪悪感が有りますから」


《だとしても、無理に開示する必要は無いからな、精神科医が相手に全てを開示しないのと同じく。見る事に罪悪感は持たない方が良い、いずれ無意識に分かる様になる》


「はい」


 リミッターが有るからと、何処かで高を括っていた。

 けれど、このスキルは自動発動する事になる。


 自分に意識を向けられた瞬間、明確な悪意や欲を見抜ける様になった。

 文字通り、相手の顔に文字が書かれて見える。

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