第13話 七大竜。

『その顔で目立ちたく無いなら、整形なり』

「何で既に苦痛を得てるのに更に金と時間を使って苦痛を得なきゃいけないんですか、じゃあその理屈なら苦労して金持ちになっても強盗に遭った時点で財産を幾ばくか放棄して普通になれって言うんですか、巨乳で苦しんでたら手術で取れとか言いますけど手術費用や仕事や勉学が滞る事や痛みに後遺症に耐えろと?何故?何故苦痛を避ける為に更にコチラが苦痛を得て支援すら無いまま一生後遺症と向き合わないといけないんですか?お前らが改めろよ?」


「ローズさん」


 あぁ、キレてしまった。

 善意からの発言だったかも知れないのに、つい、やってしまった。


『その、ごめんなさい、深く考えない無神経な発言でした』

「俺もすまない、つい、ローズさんの事を知らないなと突っ込んでしまった」


「いえ、その、半ば八つ当たりを」

『いえお怒りはご尤もです、言ってらっしゃった事もご尤もです。羨ましいなと、そうした考えから無責任な発言をしました、ごめんなさい』


「でも、田山さんだって」

『元の容姿は違います、だって、本当は後期高齢者だもの』

「えっ」


『子育てが終わったと思ったら、娘は結婚詐欺に遭って仏門へ行くし、息子は犯罪に加担し捕まって、夫はその時の騒動で浮気相手と一緒に居る時に心筋梗塞で入院。バタバタしてる間に、階段から落ちちゃってね。だから、いえ、ごめんなさいね、アナタ達が善人かどうか分からなくて、弱点や人となりを知りたくて、ごめんなさい』


 あぁ、生意気な若い女、マジウザい。

 とか思っちゃってた、固定観念から今までの女と一緒だと。


「すまない、俺達も同様に警戒していたんだ。以前にも、こう、若い女性が来て問題に」

『あぁ、私のお世話って下のお世話じゃないですよ、次こそは子育てを成功させたいって神様に願っての事で。でもごめんなさいね、まさかそんな風に誤解されるだなんて、ほら、この容姿にも年齢にも慣れて無いから』

「私も、固定概念から、ごめんなさい、善意ですよね、整形の事も」


『でも手術だものね、後遺症まで頭が回らなかったわ、した事無いのよ、病気も怪我も、でもごめんなさいね本当、無神経だったわ』

「いえ、健康なら分からないのも分かります、私も逆に整形すれば良いじゃんって煽った事も有るので」


『言い返すって大変よね、なのに本当、ごめんなさいね』

「いえ、向こうじゃ言えなかった事なので、すみません」


「このまま謝り合うより、先ずは竜人達の誤解を解きに行き、ついでに休憩しないか」

『実はおトイレに行きたかったのだけど、ココって水洗かしらね?』

「あ、大丈夫ですよ、直ぐに案内しますね」


 恥ずかしい、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

 苦労したけど健康だったお年寄りに八つ当たりだなんて、本当に恥ずかしい、何してんだろ私。


 あー、焼ける、今なら顔を焼ける気がする。

 ダメだ、コレもう逆に顔に拘ってるんだって逆に良く分かった。


 うん、焼くか整形しよう。

 そんでちゃんと新しく生きてみよう、うん、恥ずかしぃいいいあああああ。


《どうしたんですか》

「あ、あぁ、何でも無いですニノ竜さん、集合場所は向こうです」


《何か激しく苦悩なさってたみたいですけど》

「恥ずかしくて死にそうだけど死にはしないのでご心配無く」


《先程の女性と何か》

「あ、あの方は鈴木さんが安全を確認した筈なのでご心配無く」


《その女性は》

『はー、危なかっ、あらニノ竜様も所用でらっしゃいますか?』


《いえ、では失礼しますね》


『あらあら、逃げられちゃったわね』

「本当、ごめんなさい」


『そんな、言わせたのは私だし、後生の為にじゃんじゃん聞かせて頂戴』




 どうやら渡辺さん曰く、田山さんはモラハラ夫の被害者、らしい。


《お前の為に注意してやってるんだ。コレ言われてるし、典型的、古典的なモラハラ被害者ね》

「なのに私キレちゃって、死にたい」

「いや、まだやり直せる筈だ、死なないでくれ」


「あ、もう、ごめんなさい」

「いや良いんだローズさん」

《はいはい、負の連鎖に入ってるけど、どうしたいの元鈴木は》


「整形するか、焼くか」

《極端だねぇ、マジ極端、中庸は無いワケ?》


「転生の時のに、戻る」

「だが、既に変更は」

《居るじゃん、付与術師、称号を転生者に入れ替えて貰うか、魔王が試しに戻すか》


「戻す、と言われても」

《時を戻す感じで、容姿よ戻れ、みたいな》


 時よ、容姿よ。


「待った、先ずは称号の入れ替えからで」

《アンタね、そんなに精霊使いが嫌なの?》


「だってこんな性格悪いの」

《全く、何を気にしておるんじゃか》

『せやせや、そら鬱憤溜まっとったら軽くでも爆発すんのは当たり前やろ』

『そうだね、ずっと抱えていたなら、辛かったからこそ導火線は短いものだよ』

《大丈夫ですよ、もっと短気な方は居ますし、口が悪い方だって居るんですから》


『ぉおん?!ワレ、ワシの事言うてるやんな?』

《ふぇ》

『まぁまぁ、この程度で性格が悪いなら、私達は極悪精霊になってしまうって事だよ』


『それもワシに言うとるやんな?』

《じゃの!》


『おいコラ!』

《なんじゃ!この間抜けノームが》

「すまないが、君達は精霊、だろうか」


《ふむ、我がドリアードじゃ》

『ノームさん、な』

『彼女からは風神と呼ばれているよ』

《水の、ナイアス、ですぅ》


「鈴木だ」

《あ、渡辺です、どうも。うん、確かにコレは長年人と殆ど関わらなかった元鈴木には、辛いな》

《いやでも我ら今まで黙っておったぞぃ?》

『せやで、一応はお嬢ちゃんに気使うて大人しくしとったんやけど』

『このまま黙っていては精霊使いの座が空白となってしまうか、悪しき者の称号になってしまいそうだったからね』

《ま、前の方は悪しきとまでは、言いませんが、はぃ、あまり、良い方とは、言えませんでした、ので》


『ホンマ、ワシら使うだけ使って、愛想も何も無しに酒だけ貢ぐ可愛くないヤツやってんな』

《他と話す事も禁じられておったし、まぁアレの方が遥かに性格は悪かったでな》

『私達は君を気に入っているんだ、出来るだけ静かにするから、このままで居させて欲しい』

『はぃ、ぉ願いしますぅ』


「どうだろうかローズさん、精霊がもっと気に入る者か、他にも称号を与えたくなる者が現れるまで、と」


「そこは、それこそ、田山さんとか」

《アレは子供の事ばっかりじゃし、秘密は好かんで無理じゃな》

『せやな、ワシら別に猫可愛がりされたいのと違うねん』

『自由で居る事を許容してくれる、そして偶に思い出し、感謝してくれるだけでも十分だからね』

《でも、偶には話したいので、はぃ》


「すまないが、火の精霊は」

《あ、ココに居ますよ、寡黙ですけど良い子なんです》

「あ、ごめんね、てっきりナイアスの心臓かと、名前は?」


【何でも良い】

「ごめん本当」

《大丈夫じゃよ、いつもこうじゃし》

『ワシより愛想が無いねんなホンマに』

『大人しくて思慮深いからこそ、寡黙なんだよね』

《しかも、1番人気なので、はぃ》

「あぁ、既に宗教が有るしな、成程」


「あー、じゃあフェニックス」

「良いな、カッコイイ」

《不意に凡人するなぁ鈴木さんは》


「いやカッコイイだろう」

《いやイフリートでしょうよ》

「でもイフリートってちょっと荒々しさが、容姿とかジンぽくて何か違うなと、なら寧ろサラマンダーですよね」


「分かる」

《えー?イフリート強そうじゃん》


「それは違う」

《分かんないわマジで》

【フェニックスで構わない】

「はい、本当にすみませんでした」


 話が終わったと思った瞬間、瞬きの間に精霊が。


《消えた》

「あ、え、まだ居ま、消えた」


「まぁ、コレで俺が願わなかったら、恨まれてしまうだろう。すまない、ローズさん」




 見慣れないのは当たり前だ、赤子だって最初は驚くんだ、と。


《だからまぁ、それでも違和感が有るなら、今度は前に寄せるとかで良いんじゃないかな》


 そうして私は、転生後の容姿へと戻った生活を始めた。

 でも、相変わらず少し人は苦手なまま。


「実は、女性のストーカーも」

『あらあら、だから私の嘘も見抜かれちゃったのね』


「まぁ、はい、私とは随分と違うな、軽いなと」

《本当に面倒だね人間は》

「あぁ、全くだな」

『でもニノ竜に顔は殆ど見えてないから、丁度良いんじゃない?気になってたんでしょ、ローズの事』

『あらあら、まあまあ』


 嫌味じゃなく、盲点だった。

 そうか、そうやって相手を選んで接しても良かったんだ、なのに私は。


《僕にも選ぶ権利が有る様に、君にも選ぶ権利が有る、だからもし》

「あの、見えないのにどう生活を?」


《熱感知、と言うべきかな、そう見えているんだ》


「つまりは温かいか冷たいか」

《それと同時に、怒っているか平常心か》

「俺達は五感、俺の場合は視覚、三ノ竜は聴覚。四は嗅覚、五は直感、六は触覚」

『あら、そうなると七ノ竜は味覚、かしら?』

『そう、松本の涙の味が気に入ったらしい』


「あぁ、竜っぽい」

『あらそうなの?』


「伝説って言うか、神話が有って」

「童貞の尿に解毒作用が有る、そうした事と同列だがな」

《その言い方だと変な方向になりそうなのだけど》

『半分は有ってる』

『そうなのね、ふふふ。あ、お邪魔したら悪いわね、このまま図書室へ行ってくるわ』


「付き添おう、俺も見て確かめておきたい」

『あらありがとう、じゃあねローズちゃん』

『じゃ、頑張ってニノ竜』


 私、拘りって、執着するって事だけなのかと。

 でも違った、何か、そこに杭を打たれてグルグルする犬みたいな。


 無意識に無自覚に縛られてて、でも抜け出せない、抜け出したいのに抜け出せなくて。


《元の容姿を、捨てた弊害は、どうなんだろうか》

「あ、まぁ、偶に鏡を見たり、何かに自分が映ると驚きますけど。それ以外は別に、特に無いですね」


《そう》


「あの、私の何が気になったんでしょうか?」

《怒り、苦悩。でも決して僕には言わなかったし、今でも、いじらしいと思う》


 あぁ、内面の事しか言われないって、こんなに恥ずかしいんだ。

 凄い、恥ずかしい。


「その、後は」


《真摯に向き合おうとしてくれている、恥ずかしいと思いながらも》

「あぁ、そこまでバレちゃうんですね」


《何処に心臓が有るか、どれだけ緊張しているかも》


 あぁ、私は私を受け入れられなかった、素直になれなかった。

 だからこそ、余計に苦しかった、私も面食いだから。




『ふふふ、幸せってやっぱり素敵ね』


 早かった、あっと言う間にローズちゃんと二ノ竜様の結婚式。

 でも、この相手だって思って結婚しても良い、本当はコレも正解なのよね。


「最初は、すまなかった」

『あらあら、良いのよ、私だって正直な態度ではなかったんですもの、おあいこよおあいこ』


「だとしても、いや知ったからこそ、すまないと思う」

『良いのよ、本当に、どうしようも無い事だもの。それにもう、すっかり誤解は解けたのだもの、水に流しましょう?』


「いや、初めからやり直したい」


『私、コレはコレで気に入っているのだけれど』

「心優しい君に、あまりに失礼だった、改めてやり直させて欲しい」


『そんな、膝を付くなんて』

「結婚を前提に、改めて考えて欲しい」


 いやだわ私、立ったまま夢でも見てるのかしら。

 それとも、もう1回、死にそうになっているのかしら。


「田山さん」

『あ、鈴木さん、私、夢遊病かしら?』


「いや、アナタは起きているし、夢でも妄想でも無い」


『だって、中身はおばあちゃんよ?』

「俺達には、長く生きる者にすれば年齢は些末な事、問題は本質、中身だ」


「田山さんには失礼かも知れないが。一ノ竜、いっそ年増が好きだと言った方が早いかも知れない」

「年増のアナタが好きだ」


『まぁ、勿体無いわ』

「分かりますよ田山さん、俺にもそう思った時期が有りましたから」


『あら、そうなの?』


「相手が、イケメンで頭の良い男で」

『あら分かるわ、まさに今そうだもの』

「寛容さや優しさに惚れた、だからどうか口説かせて欲しい」


『でも、本当に良いのかしら』

「ローズさんも応援してます、だから待ってるんですよ、ブーケトス」


『あ、あらあらごめんなさいね気が付かなくて』

「先ずは返事を貰えないだろうか」


『口説く許可よね、ええ、勿論よ、頑張って』

「あぁ、分かった、行こう」


『そうね』


 不思議ね。

 足元も何もかもがフワフワして、良い年なのに、浮かれてしまっているわ。




『何か、分かった気がするよ、主婦の孤独感』


「すまない、何か」

『僕が傍に居ない間に色々な事が起こってるから、当たり前なんだけど、自分が居なくても世界は回る、置いてけぼりって感じが凄くて。そりゃ鬱にもなるよね、僕はならないけどさ』


「本当に」

『無力感より追い付きたいって感じ、転生体のローズさんに会ってないし、何ならダンジョンに行きたいし』


「本題はそこか」

『だって折角変えて貰った暗殺者のレベル上げられて無いんだもん、気配を察するとかは出来るけど、もっと役に立たせたいし』


「てっきり、田山さんの結婚式に出たいのかと」

『それは正妻さんのお仕事だからね、ダメだよ妾が出張って良い事なんか1つも無い、それよりダンジョン行きたい』


「指示には絶対に従って貰う」

『勿論、戦闘系は不慣れだし全面的に任せる。ありがとう』


「しっかり準備も」

『はいはい、君に確認して貰うし、言う事聞きます』


「先ずは洞窟ダンジョンからだ」

『うん』


 僕が出産と子育てをしてる間に、洞窟と塔の他に森のダンジョン、神殿のダンジョンが現れた。


 隣の国を潰して暫くするとダンジョンが無くなって、更に少し経った頃、各地に神殿ダンジョンが現れた。

 神殿と言っても、廃墟に近いんだけど、形がね。


 で、当然の様に後から出来たダンジョンの難易度は高い。

 行けるかな、神殿ダンジョン。


 溢れる前に、何とかしたいんだよね。

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