第12話 精霊使い。
ドリアードの意志を確認しないまま、ダンジョンに植えてしまったんだが、どうしても気掛かりで仕方が無い。
って鈴木さんが言うから、精霊使いを探して来たんだけど。
『その子をくれるなら良いわよ』
ミーミルが欲しいって。
私は困らないって言うか、寧ろ助かるから良いんだけど。
「僕はモリさんのモノですし、嫌です」
『あっそ、じゃあ交渉は決裂って事で、さようなら』
《いやちょっ、エルフやダークエルフの命運が掛かってるんですってば》
『人の手を借りないと死滅するなら、死滅する運命、そうした命運なんだから今ちょっと手を貸してどうにかするって。逆に、傲慢過ぎじゃない?』
《家畜も否定するって事ですかね、シルクを生み出す蚕って人の手が無いとダメなんですけど、じゃあ無くても良いって事ですよね》
『そうね、無くても死なないもの』
《無くても死なないから、助けない》
『そうそう』
《因みに、役に立とう、とかは》
『無いわねぇ、逆らってどうこう出来る事って実は凄く少ないし、困って無いし』
《成程、じゃあ称号を剥奪して、居なくても困らない人になって貰いますね》
『は?』
「本当に居るんですね、人を傲慢だって言う傲慢な人」
「彼、付与術師なんだそうです、アナタの称号確認してみて下さい」
『ちょっと、何よコレ』
「俺、嫌いなんですよね、傲慢な人とか優しくない人って」
「分かります、協調性が無いってつまりは愚かだって事ですからね」
《ですんではい、教会地区を滅ぼします。こんな重要な称号持ちがクソ地区にどうしても集まっちゃうんでね、うん。逃げ出す猶予は7日間、人員も貸し出しますから頑張って逃げ出して下さいね、では》
『そんな、ちょっ』
今は自分の事だけで良い、そんな時代じゃ無いんですよ。
って言うかドリアードの声を聞くだけなのに、それを傲慢だなんて、本当に自己紹介乙って感じですよね全く。
「この称号、誰に付与しましょうか」
《出来たら性格が良い方にお願いしたいんですけど、それもそれでご苦労されるかもなので、目下はレオン君に付与して貰って、後は精霊達に選んで貰おうかと》
「成程、そうしましょう」
先ずは転移魔道具で国まで戻って、伊藤君にも改めて相談してから、レオン君へ。
「ダンジョンって意外と居心地が良いから大丈夫だって」
《ほうほう》
「それと、無職のローズさん?が良いんだって」
《ほう》
そうして選ばれたのは、無職を貫いていた転生者の元鈴木(女性)、現ローズさん。
「いや本当、凄い困るんですけど」
《ですよね、敢えて無職のままだったんですし》
生前はご苦労なさってたみたいで、定職に就かないでも生きていられる称号、無職を貫いており。
しかも一生に1度だけ何かを変えられる魔法を使って、今は凄い美人さんになったらしいんですけど。
「この外見だけど、本当に目立ちたくない」
《分かります、面倒なのは良く分かるんですが、出来るだけご迷惑掛けない様に、もう他に、関わる人数は最小限にしますんで、お願いします》
「生活の保証と、保護をお願いします」
《はい喜んでー!》
後は精霊とローズさんの相性が心配だな、とか思ってたんだけど。
何か、ちょっと納得しちゃった、精霊もあまり認識されたくないんだそうで。
だからローズさんを選んだんだな、と。
「あ、成程、後はダンジョンの情報、だそうで」
《あ、うん、はい、宜しくお願い致します》
やっぱりダンジョンは寄生体で、魔素によって生きてる、元になるのはその土地の全て。
で、誰が作り出してるかって言うと、ダンジョンの精霊が新たに現れての事らしい。
「ただ、産まれたばかりみたいで、意思の疎通は難しいですね。何かを求めているのは分かるんですけど、何を求めているのか、分かって無いのか、寂しいのか」
《あー、赤ちゃんかぁ。じゃあどうやって精霊が成長するか、とかは》
「ダンジョンが、活用される事じゃないか、と。ドリアードは樹を植えるのは勿論ですが、素敵な木工細工にされるのも好きなんだそうです。それは水も、土も風も、要は好きだって思われて大事に使って貰うと、成長するみたいです」
《あー、だから認識されたくないんだ、あんまり大事にされると使われなくなるもんね》
「だそうです」
《でもなぁ、ダンジョンにあんまり増えられても困るんだよねぇ》
「あぁ、欲や願望に反応するそうです、ダンジョンが欲しいと強く願う者が多いと」
《増える》
「だそうで」
《どうにか出来んかしら》
「もしかすれば、ある程度成長すれば、ダンジョンを操作出来るのではと」
《やっぱり、暫くはダンジョン攻略するしか無いかな》
「みたいですね」
《ありがとうローズさん、精霊さん》
「いえ」
山田さんローズさんの外見好きそうなのに。
あぁ、だから、そう言う事なのかな。
愛人、とかだと無職とは違うもんね。
《なんじゃ、人見知りかの》
「と言うか、アナタ達にも緊張してますが」
『なんやワレ、肝っ玉がちっさいのぅ』
『仕方無いですよ、急に私達が現れたんですから』
《あの、直ぐに消えますので、ごめんなさぃ》
「あ、いや、お礼を何か、どうしましょうか」
《そりゃもう植えて世話じゃよね》
《お水は私がやりますので、はぃ》
『藤棚はどうかな、木陰にもなるし、世話も楽だよ』
『せやな、偶に酒を撒いてくれはったらエエわ』
「ぁあ、はい、お願いします?」
『よっしゃ、せやったらソコやな』
《いや我はもう少し日当たりを》
『その中間にしておこう、2人の話に付き合っていると永遠に決まらないからね』
《長いので、はい、それで大丈夫です、はぃ》
「あぁ、はぃ」
どんな仕事も、必ず人と相対さないとならない。
だからこそ、無職なのにも関わらず生きられる能力、無職の称号で密かに生きてきたのに。
転移転生者が国を作ると言うから、クソみたいな場所から移って暫くしたら、コレ。
いや平和だし、ベーシックインカム擬きが機能してて、本当に無職でも罵られる事も無く生きられる国に恩返し出来るって言うのはアリだけど。
だけど急に、意思を持つ何か、精霊と接触するとか。
しかも、その精霊使いの称号の適格者、とか。
もう、本当、人じゃないけどほぼ人じゃん。
で、しかも保護を求めたら魔王城に住む事になっちゃって。
いやね、魔王鈴木君の事は信頼してるし、尊敬もしてるよ、元同じ鈴木としても。
でもさぁ、コレじゃ、まるで配下じゃん。
いやね、鈴木君の配下なら心配無いとは思うけどさ。
《ほれほれ、掘り過ぎるで無い、その位で構わんよ》
「あ、はいって、いつの間に苗が」
《不思議じゃよねぇ》
『私が運んだのだけど、まぁ良いよ』
「あぁ、どうも、肥料とかは良いんですか?」
『ワシが居るんや、そこらは何とか出来るわ』
《じゃの、後は植えて土を少し被せたら、そうじゃそうじゃ》
《では、少し離れていて下さい》
「あ、はい」
あぁ、虹だ。
綺麗に撒くなぁ。
『ふん、目立つやっちゃな』
《すみません》
「綺麗は正義」
《じゃよねぇ、まだまだ成長させたいんじゃが》
『後は棚と椅子だね、城内に家具職人が居るそうだから、頼むと良いよ』
「あぁ、面倒臭い」
《まるで怠惰そのものじゃのぅ》
『しゃあないやん、人間はホンマに面倒やしな』
『少し魔力を分けてくれたら、私が補佐するよ』
「おぉ、お願いします」
『ふん、取り入るのがホンマに上手いわな風の』
「あ、名前とかって有るんですかね」
《まぁ我はドリアードじゃよね》
『見て分かるやろ、ノームさんや』
《あ、その、私は色々と有って》
『私も色々な名前で呼ばれているから、好きな、呼び易い名前で構わないよ、ね?』
《はぃ》
「じゃあ、ナイアスと、風神さんかゼファーか」
『それなら多分、ゼファーより風神の方が良いかもね、君は女性だから』
「?じゃあ、風神さんで」
そして家具職人に頼みに行き、一瞬で藤棚とベンチが出来上がったので、少し気になっていたゼファーについて調べに図書室へ。
『あぁ、ローズさん、どうも』
「エルヒムさんか遠藤さん呼びかで迷っているんですが、恥ずかしいですね、旧姓を知ってる方に会うの」
『エルヒムで良いよ、元鈴木さん』
「あぁ、それでお願いします。エルヒムさんは調べ物ですか、書物の寄与ですか」
『暇潰しと言うか、気分転換にね、君は?』
「あ、風の精霊や神について、ゼファーってご存知ですよね?」
『あぁ、精霊使いに任命されたそうですね』
「はい、それで名前の事で、風神さんかゼファーかと言ったら、ゼファーは止めたほうが良いみたいな事を言われまして」
『あぁ、成程。僕ならウルトゥヌスだね、あまり語られてはいないけれど、温厚そうだから。ギリシャ・ローマ神話の棚だね、案内するよ』
「はい、ありがとうございます」
そして読んでみると、確かに避けるべきと言うか、随分と奔放で派手な方だった。
うん、確かにウルトゥヌスさんかも、けどやっぱり呼び易いのは風神さんだな。
『ついでに最近仕上がった日本神話も読んでみると良いかもね、知らないなら、だけれど』
「知らないんで読んでみます、ありがとうございます」
『うん、じゃあまたね』
親しみ易い大賢者、遠藤さん。
凄い、偉い、愛する人の為に女になって妊娠出産。
しかも良く働く、なのに無職の私を責めない。
良い人。
やっぱり良い人が幸せになるのは嬉しい、良い世界になってるって実感する。
『あぁ、新しい人が来たね』
「1週間に1人って、結構な数ですよ?」
『けれど世界中で、転生者も含むとなると、そうでも無いよ』
「あぁ、まぁ確かに」
《じゃが今回は少しマズそうじゃ、七大竜の拠点に居るでな》
「えっ」
『気になるなら、魔王と一緒に行った方が良いかも知れないね』
「えー、はぃ」
『大丈夫、補佐するよ』
《じゃの!》
明らかに、私の罪悪感を知っていての煽りだろうとは思いましたよ。
でも、コレで私が役立たずだと分かって貰えれば、もしかしたら見放してくれるかも知れない。
そう思っていたせいか、コレから相対する者がクソ人間かも知れない、そんな警戒心が薄れていた。
まさか、自分から人に関わるとか、久し振り過ぎて。
「どうも、ローズです、何かお困りでしょうか」
私、転移の際に完璧な称号と容姿を手に入れた筈なのに。
目の前に現れたのは、綺麗で可愛い若い女性、しかも名前が主人公っぽいわ。
いえ、寧ろ悪役令嬢の名前、かしら。
『はい、転移したばかりなんですが、ココは』
「七大竜の神殿と呼ばれているそうですが、後は、鈴木さん、お願いします」
「あぁ、俺は勇者をしていた鈴木、ココは部外者は立入禁止なんで、移動して貰いたいんだが」
ビックリしたわ、最初から居たみたいだけれど、地味なせいか気付かなかったわ。
でも、セオリー的には強者かも知れないのよね、警戒しておかないと。
『ご心配無く、私の称号は竜の巫女、まさにピッタリの場所ですね』
「成程」
「あの、じゃあ私はコレで」
『同行をお願い出来ませんか?ローズさん、私、少し男性が苦手で』
出来るだけ人となりを知っておくべきよね。
この人達が、必ずしも善人とは限らないのだし。
「すまないが」
「はぃ」
ほら、やっぱり鈴木さんの方が強者っぽいわ。
コレで正解かも知れないわね。
「あぁ、侵入者はコレか」
「すまんな、だが竜の巫女の称号を持っているらしい」
「ほう」
あぁ、強気俺様系、かしら。
強そうな凄いイケメンさんね。
『宜しくお願いします、田山と申します』
「あぁ、もしかして山田さんの反対、だろうか」
『ですね』
「すまんが」
「あぁ、引き止めて悪かった、次へ行って良いだろうか」
『はい』
次に案内されたのは、次男とも言えるニノ竜様。
《そう、竜の巫女》
『はい、田山と申します、宜しくお願い致します』
《あぁ、うん》
最初から好感度マックスの対応をされないのは、寧ろ普通よね。
だって最初は善人かどうか、ヤバい奴じゃないかどうか何も分からないのに、キラキラスマイルでベタベタされたら逆に怖いもの。
「次は、三ノ竜だな」
『あぁ、うん、どうも』
ニノ竜が優男、三ノ竜はヤンチャ系、ぽいのだけれど。
何で、どうして、こんなに引いた態度なのかしら。
『あの、何か』
「あぁ、まぁ色々と有ってな、気にしないでくれ」
それから四、五、六は女性で。
けど、そこもまた凄い距離が有って。
『あ、鈴木のおじさん』
「松本さん、勉強の合間に少し良いだろうか、七ノ竜も」
《あー、うん、はい》
この子も、私を見た瞬間にテンションだだ下がり。
コレ、絶対に何か有ったわよね。
『田山と申します、山田の反対です、宜しくお願い致しますね』
『松本です、宜しくお願いしますね』
可愛い、お人形さんみたいなのに、名前は松本。
『あぁ、もしかして転生者の』
『はい、そうなんです』
《けど中身は子供のままだから、もう勉強に戻って良いかな》
『お邪魔しました』
『またね田山さん』
何かがおかしい。
警戒されるのは分かるわ、けれど何か、何か警戒の仕方が。
「田山さん、男性が苦手なの、本当ですかね」
しまった、警戒され過ぎて対応に差が付けられなかったわ。
『少し、ですけど鈴木さんは思っていたよりも警戒しないで済みました、ありがとうございました』
「いや、だが教えてくれないだろうか、竜の巫女とは、具体的にはどんな称号なのか」
魔法が有るのだし、きっと隠しても無駄よね。
『説明が難しいのですが、竜の方々のお世話を、と』
「でも、世話が必要そうに見えます?」
『いえ、ですがコレから先、もしかすれば必要になるのかも知れませんので』
「成程、確かにな」
「じゃあ、私は帰ります、ココには詳しくも無いので」
『あ、あの、出来ればココの常識等についても、お伺い出来ませんかね。結婚だとか、子育てとか、ローズさんはご結婚は?』
「いえ、独り身です」
「俺は既婚者で子持ちだが、相手は身籠っているので、会わせるには少し時間が欲しい」
『あ、いえいえ、それにしてもローズさんが独身だなんて、もしかして美醜の基準が違うんでしょうか?』
「いや、特に違いは無いが、痩せている者は忌避され易い。病気持ちか、病気や妊娠に耐えられそうにも無い、と寧ろモテない部類に入る」
『あぁ、そうなんですね』
「あの、私よりも適格者は居るので」
「あぁ、すまないローズさん」
『あの、私何か気に触る事を』
「いえ、ただ目立ちたく無いのと、人が苦手なのと、今日は忙しかったので、もう休みたいんです」
成程、弱点を知るチャンスかも知れないわ。
『もしかして、前世で何か』
「何度も何度もストーカーに遭ったんです、どんなに気を付けても、この顔だからか」
「あぁ、ローズさんのその顔は、前世のか」
「はい、やっぱり私は私ですから、自己を認識するのにどうしても違和感が有って。でも、またストーカーに遭うのが怖くて」
「成程」
羨ましい。
そんな思いから、つい。
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