不良青年君が補習でお漏らしする話

こじらせた処女/ハヅ

第1話

「うわっ万智、お前あのテストで赤点かよ!ダッセー」

昼休み、メロンパンを片手にクラスメイトが笑う。

「っせーな…」

教室の人間にも散々バカにされた後で辟易しているというのに、目の前の悪友達は笑うことをやめない。なぜなら俺と同じ、授業サボりの常習犯であるこいつらは全員テストをクリアしているからだ。

「何回見直してもおんなじだぞー、それにお前、惜しいってレベルじゃねえじゃん」

13点、採点ミスが無いかを必死に眺めているが、一個二個あったところでこの補習は覆せない。

「てかお前ら、何で通ってんだよ…」

数学という教科は得意な人間もいる反面、苦手としている人間も一定数はいる。むしろ、そっちの方が大多数だ。前回だって一クラス弱ほど、引っかかっていた。目の前の笑っている奴らもその中に含まれている。

「そりゃあ…なぁ…?」

「流石に俺ら、分数は計算できるぞ」

問一のバラバラとした計算ゾーンを見せられる。

「ここ間違えるってお前、ヤベエよ」

「下手したら中学生よりバカなんじゃねえのー?」

「っチッ…」

 周りの奴らの冗談めかした声に、居心地が悪くなる。九九だってまともに覚えていないのに、分かるわけない。

「まあ、今日は予定通りカラオケ行くけど、もし終わったら来いよ。どうせ1時間かからねえだろ」

「…おう」

 ああ、憂鬱だ。


 お経のような国語の授業を眠って過ごし、放課後の合図のチャイムが鳴った。部活に出る人、帰る人、それぞれ皆が一斉に動き出す。

「じゃあカイト、駅前のカラオケで。部屋番あとで送るわー」

「おー…」

 補習場所は、数学準備室。資料や赤本がズラリと並んでいるが、俺には関係ない教材ばかり。そんなこじんまりとした部屋に2つ、机と椅子のセット。

「来たか、万智。さっさと座れー」

 席の一つに足を組んで偉そうに座っているやつが数学教師、御手洗。もっさりとした髪、だらしなく生えた髭。26歳とは思えないくらいにオヤジ臭い。

「ったく…補習したくねえから簡単な問題出してやったのに…まさか引っかかるとはな。ほらこのプリント、やって帰れ。1時間もあれば終わるから」

「っす…てこれ…」

クリップで閉じられたプリント。3枚ほどのものだったが、全く分かりそうにない。グラフと文章が頭の中で揺れる。

「…帰る」

 1時間で終わるかよ、心の中で悪態をつき、おろしかけたカバンを肩にかけ直す。

「帰っても良いけど、進級させないからな。俺は別に良いけど。」

「チッ」


 目の前の数字の羅列には頭が痛くなる。そもそも、最近こそ授業には出ているが、ずっと寝るかゲームをして過ごしているのだ。勉強するために座って頭を使うのは慣れていなくて苦痛だ。

「こら、ケータイで調べるな。終わるまで預かっておく。渡しなさい」

いつもの癖で出したスマホを没収されてしまった。

「早く帰りてぇんだろ。なら見させろよ。一生おわんねーよ」

「だめだ。分からんところは教えてやるから。どこだ?」

しょっぱなの問題を指さす。

「ここはな、赤玉と白玉が…」

淡々とした口調で始まる説明。

「ほら、ここ。6×6はなんだ?」

「…さんじゅうろく」

「よし、じゃあ分母にそれ書け。じゃあ次、さっきと同じような問題だから。やってみろ」

何とか空欄を一つ埋められた。しかし時計を見るともう10分も経っていた。残りの問題を数えると14問もある。明らかに1時間で終わる量じゃない。俺がバカなだけなのだろうけど。

「おい、どこ行く」

「便所」

カバンを肩にかけ、教室を出る。引き止められないように、早足でそこを出る。案外何にも言われなかったな。あいつ、チョロいじゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る