第15話 夜が訪れる
大災害が発生した日。
宇島暦と佐伯ミカは、通院中だった遠野朝陽を連れて病院を飛び出していた。ミカが朝陽を抱え、暦は行く先を阻む怪物を
「遠野さんッ、まひるさんが何処にいるか心当たりは⁉︎」
「僕のところへ行こうとすると思う……」
「学校から病院へまっすぐ行くとなると…… 暦、これじゃあちょっと道が逸れてるね」
「仕方ない、一旦戻って最初から辿り直すか」
スマホで学校までのルートを検索するミカの姿を、朝陽は抱きかかえられたまま覗き込む。
「ざっと見ても複数ある。あなた達がよく通る道はどれ?」
「えっと、大通りの十字路を挟む道路……」
「分かった、しっかり掴まってて」
ミカは朝陽を背負い直し、再び歩き出す。どこを歩いても見慣れた景色は見事に破壊し尽くされ、形を保っている建物からは人の気配が一切しない。
「まひるさんの気配、感じますか?」
「なんとなく、近付いてる気がします」
辺り一面に広がる死体の間を駆け抜け、瓦礫に目を向けながら横切る。まひるの無事を祈る三人の前に、一箇所だけピンク色の水溜りが目に入ってきた。
「こ、これは……‼︎」
暦は慌ててしゃがみ込み、ソレをすくい上げて臭いを嗅ぐ。ミカも暦に続くようにしゃがみ込んで臭いを嗅ぐ。
「間違いない、怪物の血だ。ここで怪物と魔法少女との戦闘があったんだ」
「じゃあ、まさか……‼︎」
朝陽はミカの背中から飛び降りるも、背中から着地する。しかしそんな痛みにいちいち悶える余裕もない朝陽は、激痛を無視してまひるを求める。
「まひるッ‼︎」
動く上半身で必死に瓦礫の方へ這いつくばり、高い所から探そうとする。
「危ないですよ、無茶しないでください‼︎」
「でもまひるが……ッ‼︎」
暦が無理矢理にでも朝陽を止めにかかる。
「離せ、離せッ‼︎」
暦に止められるも、それを振り切ろうとする朝陽を一歩引いて見ていたミカが何かに気付く。
いつの間にか、朝陽の服が赤く汚れていた。ソレは病院から背負った時には一切付いていなかった汚れ。
「ねぇ遠野さん。その汚れ、いつ付いたの……?」
「え……?」
朝陽が自分の着てる服に目を向けると、腹部からズボンにかけて真っ赤に汚れていた。
「うわっ‼︎」
朝陽はとっさにその場から離れようとして横へズレると、今度は手の平が真っ赤に染まる。
暦も嫌な予感がしたのか、朝陽の足元に目を落とす。そこには瓦礫から流れる真っ赤な血溜まりが、朝陽の服をじっくりと染め尽くそうとしている。
「下がってください」
ここは暦が瓦礫撤去に買って出る。もしもの事を想像して心臓が大きく動き出すが、それを深呼吸で無理矢理ごまかして作業に取り掛かる。朝陽は自分も瓦礫撤去をしたい気持ちを持ちながらも、それをグッと堪えて暦に任せる事にした。
「あっ、人の手が……」
瓦礫が少しずつ取り除かれていくにつれ、その中身が
「はぁ、はぁ、はぁ……」
暦とミカが着ている制服、朝陽にとって見覚えのある髪型、そして心臓部分に突き刺さる“止まれ”の道路標識。
「くっ……‼︎」
暦はおそるおそる、その遺体の顔を確認する。
「あ……」
朝陽は確かに見た。瓦礫によって押し潰され身体が所々損傷しているが、子供みたいな背丈に幼稚さしかない顔立ち。
────遠野まひるだった。
「……まひる」
身体はすっかり冷え切って、出血も止まっている。朝陽もまひるの顔を見ると、途端に泣き出す。
「……………………」
暦もミカも、朝陽につられて涙を流す。
朝陽はまひるに寄り添いながら、涙を流す。
「まひるぅ、まひるぅ……」
夕日は、暦達をなだめる事せず沈んでいく。そして、まもなく夜が訪れようとしている。
◆
大災害から三週間後。涼達は隣町へ避難して、新しい生活にもようやく慣れてきた。
「すみません、そこを通してください」
下校中の学校に響き渡る、とても凛とした少女の声。その少女は車椅子に座る男子生徒を押しながら、廊下を気品よく歩いていく。
たまたま近くを歩いていた涼と日向は、突然の出来事に対し呆気にとられる。
「ねぇ涼、朝陽先輩の後ろにいた人って誰?」
「あぁ、サッカー部新マネージャーの近喰真夜先輩だな」
「へぇ……」
朝陽を多目的トイレの中へ押した真夜は、そのまま二人きりになる。それからしばらくして表情一つ変えずに出てきた真夜に涼が歩み寄る。
「こんにちは、真夜先輩」
「あら、こんにちは境入さん。それとお隣の方はたしか禿さん、でしたわね?」
「はい、初めまして……」
「不慣れながらも見事な献身っぷりですね、真夜先輩は」
「当然です。マネージャーとしてももちろんですが、今の朝陽さんにはわたくししかいないので……」
(そっか、そういえば遠野先輩って……)
朝陽の目に生気が無い。そんな彼に寄り添う真夜の心境を考えると、とてつもない辛さを抱えているのは明白だった。
『真夜、トイレ終わったよ』
「わかりました、今行きますね」
すぐに多目的トイレから二人が出て、涼達とすれ違う。
歩き方、身だしなみ、匂い。まさにお嬢様と呼ぶに相応しい見た目に、日向は少しだけ苦手意識を持つ。
「……ねぇ涼」
しかし涼は日向の声には一切反応せず、真夜の後ろ姿を見つめている。
「……あぁ悪い、どうした?」
「あのさ、近喰先輩とまひる先輩って接点あるの?」
「うーん、俺の記憶ではないと思うな」
「じゃあ近喰先輩は、どんな経緯で遠野先輩に出会ったのかな? 接点がないなら、その人に車椅子を押させるにはちょっと変なんじゃ……」
「いや分からないぞ。朝陽先輩はかなり女子から狙われてるって男子内で噂だったからな、真夜先輩もその一人って事も十分ありえるんじゃないか?」
「そう……」
朝陽と真夜の二人を見て、日向はふと“あの事”を思い出す。
三週間に起きた、街一つが壊滅する大災害を。
◆
その日の夜。真夜と朝陽は街のホテル、そのとある一室で二人きりの時間を過ごす。真夜のお金で部屋を一週間分借りて、現在四日目。真夜も朝陽もこの状況に慣れ始めて、会話にぎこちなさが無くなってきた。
(ついに念願だった、朝陽さんとの時間…… まひるさん亡き今、このわたくしを邪魔する者は誰もいない……)
真夜は能力で朝陽に対して“真夜は朝陽の幼馴染”という嘘を植え付け、本来まひるが隣に立っていた時間を全て自分に書き換えた。
今の朝陽には、“遠野まひるという幼馴染”が産まれた時から何処にもいない。真夜の能力によって、まひるに関するあらゆる物全てを失ってしまった。
(朝陽さん、わたくしが守って差し上げます……)
真夜は隣で眠っている朝陽に目を向ける。片想い相手が、目の前で眠っている。それだけで真夜の心は嬉しさで満たされていき、もっと眺めていたい気持ちになる。
(素敵な寝顔…… 見ているだけで幸福感が全身を駆け巡り、もっと欲してしまいます……)
その時、自分に生えている触手の事を思い出す。
「……………………」
朝陽の寝顔。そして唇。
真夜がかけ布団をめくっても、起きない。
(朝陽さん、あなたにわたくしのファーストキスを……)
眠っている朝陽に寄り添い、肩と肩を合わせる。
真夜自身、朝陽とはきちんとした雰囲気で恋人同士のキスをしたかったが、今回は少しだけ勢いに任せたズルい手段で唇を交わす。
(これが、キスなんですね……)
真夜の中にある触手がザワつきだす。朝陽に対する感情が、全身をくまなく駆け巡るのが分かる。
(これで朝陽さんは、わたくしのものです……)
朝陽の隣で眠り、幸せを噛み締める。そしてこれからも、朝陽を必ず幸せてみせると笑顔で伝える真夜。
朝陽と一つのベッドで眠る。そんな恋人ならではの時間をもうしばらく堪能してから、真夜も眠りについた。
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