新たな話題
今日は朝から学校中が喧騒に包まれていた。
昨夜の学校での爆発音は、近隣住民だけでなく、警察が出てくるまでに発展したようだ。
そして爆発音の出所とされるグラウンドにはショベルカーでも使ったように地面が削られていたのくれば、好奇心旺盛な年代の学生からすれば良い話の種である。
滝虎 灰のクラスでも朝からその話題で持ちきりだ。そしてそれに興味深々なのが目の前に。
「灰、お前はどう思うよ、アレ」
灰の前の席に座る少年、春日 偉助は背もたれに腹を押し付けるようにして顔を近づける。
「なんだろーね。いたずらとか?ってか近い」
偉助の鼻先が僅か数cmまで迫ってきた灰は、顔を僅かに強ばらせて顔を引く。
「イタズラだとすると探校生か?だとしたら数が絞られるぞ。そんな危険なことするか?優等生が」
残された傷跡の規模は決して小さなものではない。
直線距離で20m前後、幅は大体その1/3、そして捲られた地面の深さは最も深い所で50cmは優に越える。
これだけの規模のスキルを使用できるのは優秀なメイジ系統スキルを持つものに限られる。成績上位の優等生達は進路のためにそんな余計な事はしないだろう。
「……なら、モンスター、とか?」
少し言いづらそうな灰に、偉助は面食らったような顔で手を顔のまえで振る。
「まさか!それこそないだろ。もしそれが本当なら前代未聞の大事件だぜ。世界が恐れていた事そのものだ!」
ダンジョン内部のモンスターの大量外界流出。スタンピード。今までダンジョン内部で大人しくしていたモンスター達が一斉に外へと雪崩れ込み、暴虐の限りを尽くす最悪のシナリオ。
数万、数十万とも言われるモンスターが湯水の如く涌き出てくる様子はまさに世界の終焉とも呼べる地獄絵図。
しかしダンジョンが現れてこれまで、どういうわけか、モンスターが外に出てくる様子はまるで無かった。
「まぁ、それが怖くて警察やらお偉いさん達がこぞって来てたんだろうな。上級探索者のどちらさんかも来てたぜ」
「上級探索者が?」
怪訝な表情を覗かせる灰。
多忙に尽きる上級探索者が学校の騒動に顔を出すなど普通は考えられない。
「まさかほんとにモンスターが出てきたって線が最有力?」
「だとしたらそのモンスターはどこいっんだろね」
「いやいや、怖くね?いや待てよ?スキルを使った形跡があると言うことは争った可能性が高い」
「確かに、なにも無いところで大技どかんなんていくらモンスターでもやらないよね。それならわざわざ姿隠す必要ないし」
「だとするとだ!やっぱり誰かがそのモンスターと戦ったんだ!そしてその本人が現れないとなれば、きっとそいつは人目を忍んであふれでたモンスターを狩るヒーロー、忍者だ!」
「いや、なんで忍者」
灰達同様に昨夜の事件で色めき立つ周囲が一瞬、ぱたりと静かになったかと思うと、次の瞬間には動揺が広がった。
「なんだ?みんなどこみて」
偉助が視線を向けた先、周囲の視線を独占する人物に言葉が詰まる。
「ねぇ、偉助。あれって」
灰もその人物を見てどんな人物だったか検討がついた。それを確かめるべく偉助に声をかける。
「偉助?」
表情を固めて黙り込む偉助は、何かに駆られるように走りだした。
「周成!」
偉助は自身の教室に向かうその人物の前に立ち塞がった。
「あ、いっくん久しぶり。元気だった?」
「周成……本当にお前なんだな。生きてたんだなお前」
友人同士だったのか。震える声を必死に押さえ込む偉助に、灰はある程度の事情を察した。
「勝手に殺さないでよ。まぁ、でもそれなりにひどい目にはあったけど」
「良かった。生きてる。本当に」
初めて聞く偉助の震える声に、心中を察した灰は静かに見守る。
「今までごめん!周成がひどい目にあってきたのは知っていたのに俺……何もできなくて。これからは──」
「いっくんは何も悪くないよ。だから気にしないでよ。悪いのは弱かったぼく自身と虐めてきたやつらなんだから」
「周成……」
相賀の口調は柔らかい。それは恐らく信頼する友に向けた、彼本来の姿なのだろう。
「でもぼくはもうだいじょうぶだよ。なんたってすごく強くなったんだから」
「え?」
「信じられない?でもそれはすぐに証明できるから待っててよ」
「証明って、あ……いやそうだな。今日は模擬戦闘があったな」
どこか不穏な空気を感じた偉助だったが、得たスキルを御披露目する場面など授業中にいくらでも機会があるだろうと、妥当な考えで暗いイメージを追い払った。
「そんな事よりあの日何があったんだよ」
それは3ヶ月前の探索実習において、相賀を含めた5人の未帰還によって発覚した探索事故。
当時は正規の探索者や教師陣が総出でダンジョン内を捜索するも、結果は空しく終わり、学校全体に暗い影を落とす顛末となった事件。
その被害者本人が今日になってひょこっと顔を出せば校内が騒然とするのは当然と言えた。
「あー、それはなぁ……」
困った様子の相賀が言いよどむ中、相賀の名前を呼ぶ教師の声が廊下に響く。
「ごめん、中での事はあんまり覚えていないんだ」
相賀はけろっとした表情でそう言うと、偉助を通りすぎて教師の方へと歩み寄る。
男性教師が感極まって相賀を抱きしめて、生還を喜んでいる様子に偉助もそれ以上踏み込めなかった。
ただ呆然と、熱血教師の抱擁を受ける相賀の後ろ背中を見つめることしか出来なかった。
今まで静観していた灰が偉助の隣に立つとわざとらしい憐憫を窺わせる瞳で偉助と相賀を交互に見て口を開く。
「NTR?」
「お前いい性格してんな」
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