第6話 花咲く

僕らは森を行く。

クロネコの僕とサカナの女の子。

僕らは走って森を行く。


行く方向に白い光を見た。

「なんだろう?」

「行ってみようよ!」

サカナはとにかく前へ進む。

僕もその手を握ったまま、

一緒になって光のほうへと走る。


そこは、花畑がぽっかりと出来ていた。

色とりどりの花が、森の中に、小さな広場に。

女性が一人、そこにいる。

花のような女性だと僕は思った。

「いらっしゃい」

女性は僕たちを見つけて、笑った。

「ここは花咲くところ。森の木々が遠慮して、影を作らないところ」

「花、すごいね」

サカナは、素直にそう述べる。

僕はそういうサカナを好ましいと思う。

素直で、とてもいい。

女性は僕のほうを向いて、微笑んだ。

何か知っているような気がする。

「あなたたちは…ああ、まだなのね」

女性はそういう。

「まだ?」

サカナが問い返す。

「ならば、あなたたちに、お土産をあげましょう」

女性は、花畑の中から、何かを拾い上げる。

それは、小さな箱。

女性は手招きをして、僕らを呼び寄せ、

サカナに箱を渡す。

「この箱は、虹の丘に至るまで、開けてはいけません」

「開けちゃいけないの?」

サカナは不満げに。

「でも、決まりを守ったら、花のように咲くものがあるはずです」

「花のように?」

「それはきっと、探していたものです」

サカナは首をかしげ、思い当たる。

「愛?」

「どうでしょう?とにかく、どんなことがあっても、虹の丘に至るまでは」

「うん、わかった!」

サカナはぺこりとお辞儀。

僕も女性に向かって一礼。

どんなことがあっても、が、引っかかったけど、

とにかく、僕らは、求めていたものの尻尾はつかめたかもしれない。


花咲くようなものが、この箱にある。

サカナは、箱をいろいろな角度から見ている。

小さな箱は何もいわない。

僕はそんなサカナを、黙ってみている。


「行こう、クロネコ。虹の丘を行こうよ」

「うん」

サカナは走り出す。

僕も走る。

はやる気持ちそのままに、

僕らは、走る。

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