第2話 水の中

僕、クロネコと。

女の子、サカナは。

森の中の湖にやってきた。

水面は一応あるんだけど、

魚は水面も水中も空中も、

かまうことなく泳いでいる。

飛んでいるとも言うのかなぁ。


「クロネコ」

「うん?」

「この湖の中に愛があるのかしら」

「わかんない。でもね」

「でも?」

「うーん、うまく伝えられないなぁ」

僕は困ってしまう。

「とにかく、愛と言う形のあるものじゃないとは思うんだけど」

「じゃあ、どうして手に入れればいいのかしら」

「時間までに?」

「そう、時間までに」

僕はほとほと困ってしまう。

彼女と僕の愛の感じ方は、とても遠い気がする。


「サカナ」

「なにかしら?」

「ここのお魚は、水も空中もかまわずに泳げるんだ」

「そうね」

「多分、ここにあるのは自由だよ」

「自由?」

それすらサカナの辞書にはないのかな。

僕は自由を説明しようとする。

「たぶんね、お魚が何をしてもいいよって、許されたところなんだ」

「何をしても?」

「僕らは、地に足がついてなくちゃいけないけれど」

「うん」

「ここのお魚は、自由の只中にいるんだと思う」


サカナは空を見上げる。

自由に泳ぐお魚がいる。

僕も空をじっと見る。

僕らが水の中に沈んでいるような錯覚。

僕らはまだその自由は手にいれられない。


僕は傍らにいるサカナを見る。

上をじっと見ているサカナは、

きれいな目にきれいな空を映していて、

僕はそれがいいなと思った。


サカナは、ふぅとため息を長く。

それは、ぷくぷくと上に上がっていくように。

僕らは底にいる。

上に上に、自由を手に入れたお魚がいる。

僕らはここにいる。

まだまだ、いろんなものを見たいと思っている僕たちがいる。

不自由でもいいさ。

今、僕のそばにいる、きれいな目がきれいなものをうつしていれば。


「さぁ、まだ探すわよ!」

「愛、だよね」

「そう、愛を探さなくちゃ!」


きらきら笑うサカナ。

ああ、きれいなのは目だけじゃなかったなぁ。

僕は見解を改めてみる。うん。


僕らはそして、また、走り出す。

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