第4話 Side MA - 16(-6) - 4 - ひちじはんにけんじゅつのけいこがあるの! -

Side MA - 16(-6) - 4 - ひちじはんにけんじゅつのけいこがあるの! -



「んぅ・・・朝?」


「目が覚めた?」


「あ・・・ごきげんようお姉様」


「こら、朝はおはようございますでしょ」


「・・・あぅ、おはようございますお姉様、・・・ごめんなさい間違えちゃった」


「おはよう、マリアンヌさん、可愛い寝顔だったわ」


「お・・・お姉様、私・・・涎垂らしてませんでした?」


「さぁ・・・どうかしら」


「わーん!、お姉様酷い!」


こんにちは、マリアンヌ・ボッチです。


昨日歓楽街で死にかけた後、色々あってお姉様のお家で暮らす事になりました。


私と一緒にお世話になる専属メイドのカーラさんはお客様としてのんびりしてもらおうと思っていたのですが、何もしないのは落ち着かないらしく、本人の強い希望でお屋敷のメイドさん達のお手伝いをしています。


私はというとお姉様とお茶をしたり、淑女教育やお勉強に一緒に参加させてもらう予定なのです。


「あの・・・お姉様・・・私が着ていたお洋服は?」


「持って来させるわ、洗ってある筈よ・・・」






コンコン・・・


ガチャ・・・


「失礼します、マリアンヌ様のお召し物をお持ちしたのですが・・・少々傷んでおりまして」


お部屋でお姉様とお話をしているとウンディーネ家のメイドさんが私のお洋服を持って来てくれました、泥だらけで何箇所か破れてたのは分かってたけど・・・見た目は綺麗になっていました。


「ありがとうございます・・・」


「・・・確認しないの?」


「一人の時にするの・・・今見たら泣いちゃうと思う」


「マリアンヌさん、そのお洋服・・・まさか」


「・・・うん、私が刺繍して作ったの、昨日ようやく完成して試着してたらあの人が来て・・・街に連れて行かれたの」


「なんて事・・・あんなに頑張って作っていたのに・・・」


「うっく・・・ひっく・・・半年かけて・・・刺繍も・・・綺麗に出来たのに・・・うぅ・・・ぐすっ・・・」


「泣かないで・・・私にはそのお洋服を直す事はできないのだけど、慰める事はできてよ、そうね、今日は一日中私と一緒にお喋りをしたりお昼寝をしましょう」


「はい、ありがとうお姉様・・・」






お姉様に思いっきり甘やかされた翌日、私達はウンディーネ家の広大なお庭でお茶をしています、テーブルの上には高級なお茶と美味しそうなお菓子が沢山・・・。


「それは酷いわね」


ケーキを頬張りながらインフィーさんが言いました。


「あの服そんなに手間がかかってたのか・・・」


平民の筈なのに完璧な所作でお茶を飲みながらエルさんが言いました。


「・・・」


そして2人にと一緒に居るのだけど、ずっと私を睨んでいるノルドさん・・・怖いよぉ・・・。


「そうなのよ、マリアンヌさんが半年かかって仕上げたお洋服、それをあの犬畜生のクソ野郎・・・万死に値するわ、事故に見せかけて暗殺できないかしら」


昨日の夜、私一人にしてもらってお洋服を確認しました、無惨に変わり果てた状態を見て悲しくて涙が止まりませんでした、カーラさんが言うにはお洋服を抱き締めて泣き崩れる私の様子をお姉様が陰から覗き見ていたらしく・・・とてもお怒りです。


「お嬢様の言葉とは思えないわ・・・」


「怒らすと本当にやばいな」


「・・・」


「あの・・・お姉様、何故この人達が一緒にお茶をしているのでしょう」


そうなのです、当たり前のようなお顔をして私を助けてくれた3人組が一緒にお茶をしているのです。


「私が招いたのよ、一昨日帰る時に連絡先を教えてもらっていたの、もしかしてマリアンヌさんは平民とお茶をするのは・・・嫌?」


「いえ!、そんな事は無いです、貴族の人達って意地悪で・・・怖いし・・・平民の人の方が話しやすいの・・・」


「意地悪?、もしかして・・・マリアンヌさん、貴族の誰かに意地悪されたのかしら?、それはだぁれ?、お姉様がプチッてしてあげるからお名前を教えなさい」


ゴゴゴゴゴ・・・


「そ・・・そんな事されてないです、イッヌ様には嫌な事いっぱいされたけど・・・それ以外の令嬢や令息は特に何も・・・ただ・・・近寄ると避けられたり、急にお喋りをやめて逃げて行ったり・・・私・・・お話ししようとしただけなのに・・・寂しくて・・・ぐすっ・・・」


「それは・・・いえ、なんでもないわ」


「あぁ・・・」


「・・・」


「3人共どうしたんですか?、もしかして・・・私が人から避けられる原因に心当たりがあるなら教えて欲しいのです!・・・悪いところがあるなら頑張って直したいし」


「いい子だわ」


「いい子だな」


「・・・」


「・・・なぁノルド、お前この間から変だぞ、何も喋らないしマリアンヌ様をずっと見つめてる」


「なっ・・・何を言うんだエル!、俺は見てなんていない、誤解を招くような事を言うんじゃない!」


「あ、耳まで赤くなった・・・もしかしてノルドちゃん・・・」


「私は女性が苦手なのだ別にマリアンヌ様を見ていたわけではないし失礼があったのなら謝るそれに顔も赤くなっていないぞ!・・・す・・・少し席を外す!・・・失礼する!」


「わぁ・・・凄い早口・・・」


「ノルド・・・お前まさか・・・」


「あぅ・・・私・・・ノルドさんの機嫌を損ねるような事しちゃったの?、あんなに真っ赤になるほど怒って・・・ぐすっ・・・怖いの・・・私っていつもそう、みんなが私を避けて・・・お姉様ぁ・・・」


「よしよし、マリアンヌさんは何も悪くなくてよ、あの男がおかしいだけ、しかもお顔がとても怖いわね、気にしちゃダメ、それに危ないから目も合わせちゃダメよ」


なでなで・・・


「それで、あのクソ野郎はどうしてるんだ?」


「あの日の夜、マリアンヌさんのお家から行方不明の捜索依頼を出したわ、事前の打ち合わせ通り衛兵も騎士団も受理しただけで特に探索はしていないみたいね、エルさん、その節はとてもお世話になったわ、貴方凄いコネを持っているのね」


「気にするな、騎士団の上層部にちょっとした「知り合い」が居てな、訳あって捜索依頼は出されたが友人の家で保護しているしボッチ家の者もそれを知っているから探さなくていいと言ってある」


「わぁ・・・エルさん、そんな事できるんだぁ・・・凄い・・・」


「翌日あの犬畜生がボッチ家に尋ねて来たようだけど、当主・・・マリアンヌさんのお父様に泣きながら詰め寄られて逃げ帰ったと聞いてるわ」


「しばらくここに身を隠して・・・痺れを切らせた向こうがどう出るかだな」


「マリアンヌさんを諦めて別の生贄・・・いえ、お金持ちの下級貴族が被害に遭うとまずいから我が家で雇っている斥候に動きを見張らせているわ、それと私、面白い計画を思い付いたの」


「何をするんだ?」


「まだ秘密よ、実行する前に連絡するわ、3人に協力して貰いたい事があるの・・・ふふっ」








「ふぅ・・・あいつら2人して俺を揶揄いやがって・・・」


初めまして、俺の名前はノルド、これは偽名で本名はアーノルド・シェルダンと言う、この国の筆頭貴族家に生まれた長男だ。


俺達3人はそれなりに身分がある家の跡取りで、お互い同じような立場だから悩みを相談し合う事も多く、いつの間にか親友と呼べる仲になっていた。


最初は俺とエル・・・エルヴィス王太子殿下が幼い頃出会って友人になり、数年前にラングレー王国から魔法を学ぶために留学して来たインフィー・・・インフィニ王女殿下が俺達2人と合流して悪ガキ3人組が誕生した。


俺達3人はとても気が合い、共に学び、共に悪さもした・・・一昨日マリアンヌ嬢に出会ったのも息抜きの為に護衛の目を盗み、城を抜け出して歓楽街に遊びに来ていた時だ。


俺の親父やエルの父親・・・国王陛下も俺達の行動を知っているが若いうちは遊ぶ事も大事だと見逃してくれている。


それにしても・・・なんと俺によく似た令嬢なのだろう、見た目ではないぞ!、性格の方だ。


外見のせいで誤解され、周りから避けられて寂しい思いをしている、しかも気弱で人見知り・・・。


泥だらけの彼女を初めて見た時は特に何も思わなかった、風呂から出て綺麗な銀髪を靡かせて部屋に入って来た時、何故か胸が熱くなった、そして今日、彼女の悩みを聞いてとても他人とは思えなくなった。


ぐっ・・・


・・・何故彼女の事を考えると胸が苦しくなるのだ、俺は普段から鍛えている、病気になっても筋肉が全て解決してくれる、・・・俺は胸に手を当てた、胸筋にも自信があるのに苦しい、胸がキュッてなるのだ。


おそらく鍛錬が足りないのだろう、帰ったらすぐに鍛え直さないと・・・。


「おっといかん、考え事をしていたら結構な時間が経ってしまったようだ、・・・戻るか」






「・・・それで、あいつ顔が怖いだろ、婚約者候補の娘が初対面の時に怯えて「7時半に剣術の稽古があるの!、帰らなきゃ」って逃げようとしたんだ、そしたらノルドが無表情で「今日は休め」なんて上から睨むようにして言うから相手の娘が泣き出してな・・・」


「わぁ・・・」


「あはは・・・酷い話ね」


おい待て!・・・俺の話であいつら盛り上がってるじゃないか!。


「あ、ノルドちゃん戻って来た」


「何か余計な事を言っていたようだが・・・」


「ひぃっ・・・」


フルフル・・・


「凄んじゃダメよノルドちゃん、マリアンヌ様がこんなに怯えて可哀想・・・」


「凄んでない!、俺は元からこんな顔だ!」







「あぁ美味しかったぁ、ウンディーネ家にはお抱えのケーキ職人が居るんだって」


「出された茶や茶器も最上級のやつだったな」


「・・・」


「それにしてもあの2人、珍しい組み合わせよね」


「そうだな、おっとりして優しそうなアリシア嬢が冷たく過激・・・、見た感じ冷酷そうなマリアンヌ嬢が気弱で優しい性格・・・中身を入れ替えたら外見通りになるのにな」


「アリシアちゃんだって口調が強いだけで素直で良い子よ、それにあれは侮られないように強がっているだけね、私は人の本質を見抜くのが得意なの」


「そうなのか?、敵に回すと怖い相手なのは薄々感じたが・・・将来あの娘と結婚する奴は大変だろうな、あれは男を尻に敷くタイプだぞ」


「・・・」


「おいノルド、お前本当に変だぞ、大丈夫か?」


「・・・」


「ノルドちゃーん・・・」


「・・・」


「やばいな、こいつ本気でマリアンヌ嬢に惚れやがったか!」


「でもあの子、ノルドちゃんを怖がって震えてたよね・・・うふふっ、面白くなって来たわぁ!」

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