〜マリアンヌさんは凶悪令息のお気に入り〜
柚亜紫翼
第1話 Side MA - 16(-6) - 1 - まりあんぬ -
Side MA - 16(-6) - 1 - まりあんぬ -
「何で俺を睨むのだ」
「・・・睨んでおりません」
「相変わらず笑わない女だな」
「・・・申し訳ございません」
「帰る」
「お見送り致します」
「いらん!、ついて来るな鬱陶しい」
バタン!・・・
「ぐすっ・・・ひっく・・・」
コンコン・・・
「失礼します・・・お嬢様・・・あの・・・」
「何でもないの、カーラさん・・・目にゴミが入っちゃって」
「いえ、鼻水も垂れております」
「へ・・・」
ずずっ・・・
「・・・あのクソ野郎にまた何か言われたのですか?」
「何でもないの」
「・・・」
初めまして、私の名前はマリアンヌ・ボッチ、16歳、下級貴族ではありますがとてもお金持ちの家に生まれました。
お父様が言うにはお祖父様の代から始めた不動産や輸入品を扱う商会の運営が大成功、巨額の資産を保有するようになったのだそう・・・。
先程私を泣かせた・・・いえ、一緒にお茶をしていた男性は上級貴族の長男でイッヌ・ネッコォ様、私より2つ年上の婚約者です。
そして今私の隣で垂れた鼻水や涙を拭いてくれているのは専属メイドのカーラ・ムーチョさん、とても美人で優しいお姉様のような人・・・。
「へくちっ・・・」
「お鼻がくすぐったかったですかー」
「大丈夫・・・ありがとう」
バタン・・・
「さて、イッヌ様も帰られたし、お裁縫の続きをしましょう!」
ばさっ・・・
ぬいぬい
ちくちく
ぬいぬい
・・・
ぽろぽろ・・・
「ぐすっ・・・」
楽しいお裁縫をしてるのに涙が溢れて止まらない・・・家族に心配かけたくなくて平気な顔をしているけど、私だって酷い事を言われたら悲しいし傷付くの・・・。
「うぅ・・・つらいよぉ・・・」
「カーラさん、娘の・・・マリアンヌの様子はどうだった?」
「旦那様、奥様、あの・・・私もうお嬢様が可哀想で見てられなくて・・・お部屋で泣きながらお裁縫を・・・昔はあんなに楽しそうにしていたのに・・・ぐすっ・・・」
「そうか・・・」
「・・・」
「だが我が家にいくら資産があっても相手は上級貴族のネッコォ家だ、あの家は金はないが権力だけは持っている、怒らせるとうちのような下級貴族は潰される」
「お嬢様のお友達のアリシア様に助けを・・・」
「私もそうしようと思ったのだが娘からそれだけはやめてくれと泣いて頼まれた、親友に弱いところを見せたくないのか、迷惑がかかると思っているのだろう、だがこれ以上酷い仕打ちを受けたら娘に恨まれてでも私からウンディーネ家に相談しようと考えている」
「マリアンヌちゃん・・・ぐすっ・・・」
「泣かないでくれリリアンヌ、私も可愛いマリアンヌが苦しんでいるのを見るのは辛い、だが今この家が潰れたら抱えている商会の従業員数万人が路頭に迷う、だから慎重にやらないとな」
「初対面の時はかっこよくて優しそうな令息だと思ったのに・・・」
「家族と一緒に居る時には礼儀正しく振る舞っているのが余計に気に食わん、しかも娘に対する非礼を我々に気付かれてないと思っているようだ、あのような愚かな男と結婚したらマリアンヌが不幸になる、それだけは避けないとな」
「できましたぁ!」
ばさっ・・・
半年かかって作った可愛いお洋服、私の髪色と同じ銀の刺繍に目の色とお揃いの淡い青のワンピース、ようやく完成しましたぁ。
「うふふふ、私の最高傑作かも、やはりお裁縫・・・、お裁縫は全てを解決するのです」
一昨日イッヌ様に言われた嫌味な事も、将来に対する不安も全部吹き飛んでしまいました、早速試着しましょう。
「♬♩〜」
くるり
「うん、完成したお洋服を試着する時のワクワクって素晴らしいの!・・・悪人っぽくて冷たい顔だけどこれなら少しは可愛く見えるかも、ふふっ、今日はこれを着て街にお買い物に行きましょう!」
コンコン・・・
「はーい」
「お嬢様・・・大変申し上げにくいのですが・・・イッヌ・ネッコォ様がお見えに・・・」
「・・・」
「あの、そんなこの世の終わりみたいなお顔をされても・・・」
「・・・先触れもなく急にいらっしゃるので驚きました、お迎えする準備が何もできていなくて申し訳ありません・・・どうされたのでしょう」
「お前の部屋に行くぞ」
相変わらず偉そうですねこの人・・・
「・・・はい」
「歩くのが遅い、もっと早く歩けないのか」
「申し訳・・・」
ガチャ・・・バタン!
まだ私がお部屋に入ってないのに扉を閉められましたぁ!。
ガチャ・・・
「どうぞお座りくだ・・・」
お座りくださいって言う前にソファに腰掛けて偉そうに足組んでるよ・・・。
「・・・」
「・・・」
「部屋が散らかっているな、だらしのない奴だ」
「・・・」
事前に来るって分かっていれば掃除くらいしましたぁ!。
「おいそこのメイド、俺が来た時には部屋から出て行けと言ってあるだろ、早く出て行け!」
「・・・かしこまりました」
バタン・・・
「気の利かないメイドだな、あのような使えない奴はクビにしろ」
うぅ・・・酷いの・・・カーラさんは私がちっちゃい頃からお世話してくれてる優しい人なのに・・・。
「それで、今日はどのようなご用で・・・」
「親父から家で遊んでいるのならもっと頻繁にお前と会えと言われた、お前と話していると気が滅入るのだが逆らうと小遣いを減らされるのでな、仕方なく来てやったのだ、喜べ」
「・・・」
「相変わらず無表情で笑わない奴だ、もう少し愛想良くできないのか」
「申し訳ありません・・・この顔は生まれつきで・・・」
「言い訳するな!、生意気な奴だ!」
「ひぅっ・・・」
あぅ・・・涙が出てきました・・・もう嫌です、早く帰って欲しいの・・・。
フルフル・・・
「それに何だその服は、もう少し肩や背中を出して俺の目を楽しませろ、・・・いや、胸も小さいし色気が無ぇから出しても同じか、正直似合ってないぞ、ははは」
半年かけて作ったお洋服を馬鹿にされましたぁ!、もうダメです・・・涙と鼻水が・・・泣いちゃダメだ泣いちゃダメだ泣いちゃ・・・。
ぎゅっ
「何だよ、震えながらハンカチ握りしめて、小便したいならして来いよ」
ガタッ・・・
「し・・・失礼します!」
ぱたぱた・・・
「限界まで我慢するなよ、身体に悪いぜ」
バタン・・・
ドン!
ドン!、ドン!・・・
「あぅ・・・うくっ・・・うあぁぁぁ・・・・つらいよぉ・・・悔しいよぉ・・・ぐすっ・・・ひっく・・・うわぁぁん!」
お手洗いで壁を殴り思いっきり泣いた後、お部屋の前まで来ました・・・うぅ、入りたくないよぉ・・・でも遅くなるとまた怒られちゃうの。
ガチャ・・・
「お待たせしました」
「遅かったな、大きい方か?、男を待たせて堂々とう⚪︎こするのは淑女としてどうかと思うぞ」
「・・・っ」
泣いてる間にこの人の中では私がう⚪︎こしてた事にされてるし!、小説に出てくる「殺意が芽生える」っていうのはこんな気持ちなのでしょうか。
フルフル・・・
「俺様を待たせてごめんなさいも言えないのか?」
「も・・・申し訳ありません・・・」
「まぁいいだろう、さて、今日は街に出かけるぞ、一緒に来い」
「え・・・」
「聞こえなかったのか、街に出かけると言っているのだ」
そんなの今初めて聞いたんですけど!。
「あの・・・急にそんな・・・メイドさんや護衛の人の手配も・・・それに両親に外出許可を」
「そんなの面倒だ、ちょっと出掛けて帰って来るだけだ、行くぞ」
「あぅ・・・待って下さい、無断で出かけたらお父様に怒られる・・・せめてカーラさんに」
私はイッヌ様に連れられて外に停まっているネッコォ家の家紋付きの馬車に乗せられました、私が引き摺られていくのを見た家の使用人さんが慌ててカーラさんを呼んでくれて、カーラさんも一緒に乗る事に・・・。
「ごめんねカーラさん」(ボソッ)
「いえ・・・」
「それでイッヌ様・・・私はどこに連れて行かれるのでしょう」
「賭博場だが」
「へ・・・」
「聞こえなかったのか、賭博場だ」
ダメだこの人・・・賭け事もするんだ・・・。
カラカラ・・・ゴトッ
「ほら着いたぞ、降りろ」
「わぁ・・・いかがわしい・・・」
看板に描かれた半裸の女性の絵、派手な魔導灯、店の前に群がる酒臭い男達、騒がしくて倒れそう・・・。
「ん、何か言ったか?」
「・・・いえ」
「失礼します、このような場所にお嬢様を連れて行かれては困ります、帰りましょうお嬢様!」
カーラさんが私の手を引いてイッヌ様から引き剥がそうとしました。
「何だ、メイドの分際で俺に意見するのか!、弁えろ!」
どん!
イッヌ様がカーラさんを突き飛ばしました、カーラさんは馬車が行き交う車道に、そしてすぐ後ろから馬車が・・・、振り向いたカーラさんは目の前に迫る馬車を見て恐怖で動く事が出来ません。
「カーラさん!」
ずしゃぁぁ!・・・ばちゃ・・・。
私は渾身の力でカーラさんの腕を引っ張り、抱き合うようにして一緒に歩道に倒れ込みました、その直後2人の顔のすぐ横に馬車の車輪が!・・・私の髪を車輪が踏んでるし。
ガラガラガラガラ・・・
「ひぃぃぃっ!」
「危ねぇな!死にてぇのか!」
馬車に乗っているおじさんが私達に罵声を浴びせます。
「お・・・お嬢様・・・」
フルフル・・・
じょろじょろぉ・・・
ほかほかぁ・・・
「あぅ・・・怖くてお漏らし・・・こんなにいっぱい人が居るのに・・・恥ずかしいよぉ」
「命懸けでメイド助けるなんて馬鹿じゃないのかよ、お前が死んだら婚約が無効になって俺の家に金が入らなくなる所だったぜ、気を付けろ」
「ぐすっ・・・怖かったの・・・あぅ・・・私のお洋服・・・泥だらけで・・・破れちゃった・・・」
「お嬢様」
私を立ち上がらせようとするカーラさんの手も震えてます、そうだよね、死にかけたんだから怖かったよね。
「俺は中で遊んでくる、こんな泥だらけの女連れて入れねぇ、それから汚れるからうちの馬車には乗るな、歩いて帰れ、じゃぁな」
「うっく・・・ひっく・・・」
「おい、大丈夫か?」
どうやって帰ろう・・・それに腰が抜けて立てないし・・・そう思っていると私達に話しかけてきた3人組が居ました。
そのうちの一人がへたり込んで動けずに居る私の前に座って手を差し出しました、そのお顔を見ると・・・
「あぅ・・・怖いよぉ」
「お・・・お嬢様ぁ・・・」
あ、私達ここで殺されるかも・・・
フルフル・・・
「おい、ノルド、お前顔が怖いんだからそんなに近付くな!」
「待て!、俺は顔は怖いが悪人じゃない、おい!、エル!、・・・いやインフィーでもいい、この2人を路地裏に運べ」
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