掌編小説、短編小説集

澄空ありあ

荒野の中で寝そべる男


見渡す限りの荒野、どこまでも続く乾燥した大地の上で、俺は仰向けに寝そべっている。空は澄み渡り、白い豆粒みたいな太陽が、暖かい光を放ちながら見下ろしていた。


眠るのに丁度いい温度だ。寝ている土に乾燥した土臭さも無いし、煩わしい虫もいない。


風も吹かない荒野に俺は居る。ここには俺以外の人間なんて居やしない、社会のクソみたいなしがらみに囚われずに済むし、ゴミ上司の無茶振りも襲って来ない。


今まで知らなかった、人がいない世界がこんなにも美しいなんて。少しでも長くここに居たいと、毎回思う。あんな地獄に何か戻りたくない。


ああ、豆粒みたいな太陽が黄色くなり始めた。暖かい光が、眩しく痛い光に変わっていく。


太陽の輪郭が、まるで俺を喰らうかのように大きくなる。


「嘘だろ、嫌だ! 嫌だぁぁぁぁ!!」


『ここから追い出される』感覚に、俺は心の中を掻きむしられるような激しい焦燥を感じ。体を起こして太陽に背を向け、全力で走った。


心臓が激しく脈打ち、呼吸が荒くなる。輝く太陽が、俺に覆い被さるように近づいてくる。圧迫感に息が苦しくなりながら走り続けると、何か重いものを引きずっているかのように、足が前に進まなくなった。


後ろを振り向くと、赤黒く輝く太陽が目の前まで迫っていた。


「戻りたくない、戻りたくない! 俺は自由なんだ、地獄で働く罪人何かじゃない!」


俺は必死にそう叫んだが、太陽はそれさえも飲み込むように近づいてきて――。


そして意識は覚醒する。


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