第171話 タイミングは大事 その2
ハザン帝国中庭にて―――。
ドスはその光景をじっと見守っていた。
目の前ではこの国の皇帝とその護衛が殺し合いを続けている。
じっと魔力と気配を消し物陰から二人を観察する。
(……ん、バレてない)
ドスの気配の断ち方はダンジョン内でも随一だ。
なにせ影亡霊であるオーテルに師事したのだから。
そのおかげで二人に悟られる事無く、戦闘経過を見守ることが出来る。
今までの経過から察するに、どうやらリンウは何者かに操られているようだ。
その所為だろうが、見るからに皇帝の動きが鈍い。
本人は冷静だと主張しているが、内心では動揺しまくっているのだろう。
見栄っ張りな奴だと、ドスは思った。
(……ん、もうちょっと待つ。タイミングは、大事)
ドスは皇帝を助けるタイミングを見計らっていた。
以前、エリベルに教えて貰ったのだ。
『――いい、ドッスン。タイミングは大事よ。貸しを作りたいのなら、相手が一番恩を感じるタイミングで割り込むの。あくまで自然に、さもギリギリ間に合ったかのように演出するの。その方が相手はより深く自分に感謝するわ。いい? タイミングを見極めるのよ?』
そう言っていた。
事実、エリベルはその手腕と知性をいかんなく発揮し、スイーツ聖龍(笑)を見事洗脳に近い形で味方とした。見事な手際だった。
だから、ドスもそれに倣って行動する。
相手はこの国の皇帝だ。
貸しを作っておいて損は無い。
上手く事を運べば、大陸会議終了後にダンジョンにとって更に有利な状況を作る事が出来るかもしれないのだ。
ともすれば、先程レーナロイドが言っていた事に関しても有利に働くかもしれない。
(……ん、仕掛けた。あれは皇帝は避けれない、ここが最良のタイミング……)
そしてドスは戦闘に割って入る。
「……ん、大丈夫?」
なんというベストなタイミング。
神が与えたとしか思えない完ぺきなシチュエーション。
目の前のリンウ――いや、ジョーカーが驚いた表情を浮かべる。
「『……君、誰っすか?』」
苛立った声音。
更に自分の放った一撃を軽々と受け止めた相手への警戒。
だが、ドスは答えない。
少しだけ、首を動かして後ろを見る。
その姿を皇帝は茫然と見つめていた。
そうだ、その顔だ。お前を助けた相手を記憶に刻め。
いい感じだ。間違いなくばっちり相手に自分を印象付けた。
ドスは内心ガッツポーズを決めた。
――何者だ?
そう問い詰めてから、カグリアスはその顔に見覚えがあることに気付いた。
男にも女にも見える中性的な整った容姿。
感情を表に出さない冷淡な瞳。
大陸会議の際、聖王国の後ろで一際神経を張りつめていた一人の冒険者だ。
中々に仕事熱心な男だったとカグリアスは感心していたが、
「貴様は……もしや聖王国の『烈風』か?」
確認を取る様に、カグリアスは問う。
こくりと、ドスは頷いた。
「……ん、中庭で変な音して、気になって、ここに来た、危ない処だったから、助けた」
端的に状況説明。
もちろん嘘だ。結構前から見守っていた。
助けるタイミングを見計らっていたのだ。
「感謝する」
「……ん、僕も、戦い、ます」
「……あそこにいるのは余の友人だ。ジョーカーとか言うやつに操られているらしい。悪いが……殺すわけにはいかん」
「……ん、了解」
殺さずに仕留めるのは難しいが、その分高く恩を売れる。
パンッ!とドスは己の拳を叩く。乾いた音が中庭に響いた。
ドスは改めてリンウ――ジョーカーを見た。
(……ん、酷い魔力の混ざり方)
魔力感知を行うと、その歪さがよく分かる。
純色の絵の具に別の色を無理やり混ぜ込んででいるような歪さ。
しかも、その混ぜ込んでいる色が中々にひどい色だ。吐き気がする。
綺麗な澄んだ銀色にどぶの様な汚い色が混じりこんでいる。
「……ん、あの変な魔力、だけを、払う」
「ヤツの魔力が分かるのか?」
「……ん、少し」
驚いた様にカグリアスは問うが、この程度の感知などドスにとっては普通の事だ。
もともと高い才覚と身体能力を有している上に、日々鍛練を怠っていないのだから。この程度の事出来ないでどうする。
「『んー……中々の魔力っすねぇ……』」
ジョーカーは改めて乱入してきた邪魔者の姿を見る。
「『女と間違える位の中性的な容姿に、その歯切れ悪い独特の喋り方……君もしかして聖王国の『烈風』っすか?噂じゃ、中々の使い手っぽいっすけど、僕の相手が務まるんっすかねぇ?』」
「……ん、問題ない。だって―ー」
そう言ってドスは構える。
そして”ゆっくり”と足を前に出した。
「―――“抜足”」
すぅっとドスは静かにジョーカーの“目の前”に移動する。
ジョーカーの眼が大きく見開かれた。
「『―――んなっ!?いつの間に移動したっすか?』」
ジョーカーはドスから視線を外していない。
にも拘らず、ドスはいきなりジョーカーの目の前に“移動”した。
「……リンウより、中のお前の方が、弱い。“風破掌連”!」
武技と魔術の合わせ技の打撃。
ドスの攻撃は強かに隙だらけのジョーカーの腹を射抜く。
「『なっ……!?がはっ……』」
その勢いのまま後退。
更にドスも追撃を仕掛ける。
「『そう何度も喰らわないっすよ!さっきは不意を突かれたっすけど、今度は―――』」
ジョーカーがそう言った瞬間、
「―――“抜足”」
再び、ドスの姿が一瞬消え、次いで目の前に現れた。
信じがたい現象。
「『……な、なんっすかその技……っ!?どうして、いきなり僕の目の前にっ!?』」
驚きと苛立ちが混じったような声音。
当然、ドスは答えない。
当たり前だ。敵に情報を売る馬鹿がどこにいる。
「……ん、“連風掌打”!」
連続での打撃。
それはジョーカーの肉体を強かに打ち付ける!
たまらずジョーカーが距離を取るが、次の瞬間、ドスもジョーカーの目の前に移動する。
まるでジョーカーの意識をすり抜ける様に――ー。
(……ん、上手くいった、やっぱりこの手の相手には“抜足”の効果は絶大)
確信と共にドスはほくそ笑む。
ネタばらしをしてしまえば、これもオーテルに教わった武技の一つだ。
動いているのに、動いている事を悟らせず間合を詰める特殊な歩法。
相手の意識の“空白”を利用して相手に接近するのだ。
自分と相手の呼吸の同調、相手の無意識の見極めによって可能とする高度な武技。
ドスはそれを改良し抜足と名付けた。
要は相手にその移動を悟らせずに物凄く速く接近する。
ただそれだけの技術なのだが、その効果は絶大。
何せ離れたところに居る相手が一瞬で自分の目の前に現れたように錯覚するのだから。相手に与えるプレッシャーは凄まじいものがあるだろう。
無論、欠点はある。
一つはある程度の“距離”が無ければこの体術は使えない。
抜足の理想的な間合いは五メートル以上。
それ以下の間合いだと、相手の無意識と、ドスのスピードがかみ合わなくなるのだ。なので、以前ルギオスと戦った時のような狭い室内では使うことは出来ないのである。
二つ目は目の前の相手にしか効果が無いという事。
当然だ。第三者から見れば、ただドスが猛スピードで敵に接近してるようにしかみえないのだから。
なので抜足の使用は一対一、それも開けた場所に限定される。
この中庭はその条件にぴったりと当てはまる。
元々この歩法は近距離タイプのドスが遠距離、中距離の相手とも互角に渡り合うために習得した技だ。
今回は敵の相性もすこぶるいい。
面白いくらいに抜足が成功する。
「『―――っ、ちぃっ!!』」
ジョーカーは八角棒でドスを打ち付けようとする。
だが至近距離ならばドスの拳の方が早い。
その拳を思いっきり顔面に叩きつける!
「……ん、えいっ!」
メッキャアアァァアアッッ!!と凡そ人を殴ったとは思えない音が炸裂する。
可愛い掛け声とは裏腹にその威力は絶大だ。
そのままジョーカーは壁に激突した。
「……ん、堅い……」
ジンジンと手が痛む。
魔力をしこたま込めて殴りつけた筈なのにダメージを負うなんて。
鬼族の戦士は体は『鬼皮』と呼ばれる堅い硬皮に覆われているとエリベルの資料に載っていたが、想像以上の堅さだ。
まるで極太の丸太でも殴っているかのようだ。
「……」
土埃の中から、頬を腫らしたジョーカーが現れる。
致命傷や気絶まではいかないようだ。
いや、見る限りではダメージもあまり負っていないかもしれない。
操られてる身とはいえ、流石は帝国最高峰の冒険者の肉体と言うべきか。
殺すつもりくらいが丁度いいようだ。
べっ、と血を吐きながらジョーカーはドスを睨み付ける。
「……『聖王国の『烈風』っすか。……確かに強いっすね、近接戦闘に関しちゃ、うちのラウさんともいい勝負かも知れないっすよ。でも残念っすね……この体、滅茶苦茶堅いんっすよ。それに―――』」
ジョーカーの握る八角棒に魔力が籠る。
次いで、分裂。蛇腹剣の様に変幻自在に襲い掛かる棍節の嵐。
さらに風魔術を同時に行使。
「『これなら、どうっすか!』」
全方位からの攻撃。
これならば、相手は此方へ接近することは出来ない。
ジョーカーの得意とする中距離領域での戦い。
「……んっ!」
ドスは全身に魔力を集中させ、攻撃を弾く。
だが、先程の様に間合いを詰める事が出来ない。
「『はっ、なんだ……最初はちょっとビックリしたっすけど、君やっぱ噂通りの近接特化じゃないっすか!こうして距離さえ保てば、こっちのもんっすよ!』」
ドスの攻撃を裁きながら、ジョーカーは言う。
幾分余裕を取り取り戻したらしい。
「『まあ、仮に近づいたところで君の攻撃じゃあ大してダメージにならないっすしね!このまま押し切らせてもらうッすよ!』」
さらに勢いを増すジョーカーの攻撃。
ドスは防御に徹する。
だが、防御の隙間を縫って相手の攻撃が徐々に被弾してゆく。
脇腹部分の服が破れ、頬をかすめる。
「『ほらほらぁっ!捌き切れなくなってるじゃないっすか!』」
「………」
自分が優位に立ってるせいか、ジョーカーは随分と余裕を取り戻したようだ。
つまり、油断している。大変ありがたい。
既に、ドスは“詰め”の段階に入っているのだから。
「……ん、そろそろ、問題なし」
「『―――えっ?』」
ドスの動きが変わる。
迫り来る無数の棍節をドスは全てを捌き切った。
「『なっ―――!?』」
そのまま、“抜足”を使い、ジョーカーとの距離を詰め始める。
ジョーカーは信じられないものを見るような目で見つめた。
「『んなっ!?ど、どうしてっすか!?どうして、この攻撃を見切れるんっすか!?』」
「……ん、棍節の“数”自体が増えたわけじゃ、ない。いくら、速くしても最大同時攻撃数は、同じ」
人の腕が二本しか無い様に、八角棒の仕込み節も数は変わらない。
いくら速度を変えようとも、同時に襲いかかってくる数の絶対数は同じ。
見たところ魔術的な細工がされているわけでもない普通の武器だ。
聖剣レヴァーティンの様な攻撃拡張能力や、龍剣アスカロンの様な魔物の魂が込められている訳でも無い。
更に付け加えるならば、棍節の動きはある程度の法則性がある。
いくら魔力で強化しているとはいえ、動きそのものを一から操っている訳ではない。
その動きの規則性、ある種のパターンを見つけ出すことが出来れば、後はそこに手を添えるだけで、勝手に弾いてくれる。
驚異的な魔力感知と、ゴーレム・ホムンクルスとしての身体能力、そして動体視力を持つドスだからこそ出来る離れ業。
いや、違う。
ドスにとってこれくらい出来て当然なのだ。
自分は偉大なるアースの息子なのだから。
これ位出来なければ、パパの役に立つ事など出来ない。
「……ん、ルギオスとの、戦闘、役に立った」
ギジーに頼んでおいた対ルギオス用の戦闘シミュレーション。
その中にこう言った場合の戦闘方法もあったのだ。
対策を授けてくれたギジーに感謝だ。
肉薄するジョーカーの顔に驚愕が浮かぶ。
「『うっそ……マジっすか……!?』」
だが、にやりとジョーカーは笑う。
「『で、でもいいんっすか!?確かに君は強いっす!でも、この体を傷つけても良いんっすか!この体は、所詮は借り物の体っす!僕は痛くも痒くも―――』」
そこまで言って、ジョーカーは言葉に詰まった。
なぜか?見えたからだ。ドスの顔が。
ドスの口元は―――僅かに嗤っていた。
「……ん、確かに僕じゃ、ちょっと厳しい、かも……」
だから、とドスは言う。
「……ん、後ろ、気を付けた方が、いいよ」
「『―――え?』」
ついジョーカーは後ろを振り返ってしまう。
直後、ドスの“真横”から声がした。
「―――“聖なる十字架よ、我が前に立ちはだかる者を拘束せよ”!」
ジョーカーの後ろに光り輝く十字架が出現する。
「『―――んなぁっ!?』」
バチィィィンと光り輝く十字架が張り付くように彼を拘束する。
予想外の攻撃に油断していたジョーカーは完全に動きを封殺された。
「『なっ―――これは……“
動かせない体で視線だけを動かし、横を見る。
そこに居たのは白い修道服を着た盲目の聖女。
『聖櫃』オリオン・カーラー。
「……ん、ナイス、オリオン」
ドスは彼女の方を見ながらサムズアップする。
「『馬鹿な……どうして……どうして、ここに『聖櫃』が居るっすか!?』」
「……ん、教えるわけない、“風破掌連”!」
魔力を纏ったドスの拳がジョーカーに叩きこまれる。
「『うがっ……ゴッホオオオオオオオオウウウウッッ!!!』」
いくら相手が硬いとはいえ、連続で殴り続ければ流石にダメージは通る。
オリオンたちがここへ駆けつけてきた種は単純だ。
先ほど、ドスが出会い頭に自分の手を叩いて出した音。
あれに込められていた魔力には別の役割があった。
それは、城の外で待機している鳥型ゴーレム・ホムンクルスへの信号だったのだ。
その信号を鳥型がウナへと発信。
その信号を受けて、ウナ達もここへ駆けつけたと言う訳だ。
無論、気配を消し、タイミングを見計らって。
目の前の男に悟られぬように何重にもカモフラージュした思念通話を通して。
「……ん、油断してくれていて助かった」
きちんと警戒して、周囲に魔力感知を張っていれば簡単に気づけたのに。
まあ、そうさせない様に相手の注意を常に自分に向けていた訳だが。
「『がはっ……はは、いくら動きを封じて攻撃を加えたところで言ったッすよね?所詮、この体は―――』」
血を吐きながら、それでも笑うジョーカー。
もはや負け惜しみにしか聞こえないが、確かに彼をリンウの体から引き剥がさない限り、ドス達の勝利にはならない。
そして、ドスにはその手段は、無い。
「……ん、確かに、僕やオリオンじゃ、君を、剥がすのは無理」
「『だったら―――』」
あっさりとドスは肯定する。
「……ん、だから、お願い―――ウナ姉」
「ええ、勿論です。―――“水よ、穢れ無き水流を持って、彼の者の肉体より偽りの霧を打ち払わん”」
磔にされたリンウの周囲に光り輝く水が発生する。
「『なっ――ーがっ、ごぼぼぼ……っ!?』」
「お前は……確か聖王国の『水姫』か……?」
様子を見守っていたカグリアスが呟く。
「『ごっ……がはっ、せ、聖王国の『水姫』……?―――まさかこの水は……っ!?』」
その姿を見て、ジョーカーが動揺した様に声を上げる。
瞬時に自分を覆う水の特性に気付いたようだ。
にやりと、ウナは笑った。
「ええ、私の水は相手の魔力回路そのものに直接作用します。その傀儡の術式……直ぐに剥がして差し上げますよ。どうやら私達が扱うものと随分似ているようですからね……」
「『なっ……馬鹿なっ、いくら君でも出来るはずないっす。だってこの術式はリアス先輩の考えた至高の―――』」
「うるさい、黙れ、さっさと消えないさい、この寄生虫」
容赦のないウナの言葉に流石のドスもちょっと引いた。
ジョーカーを包む水は泡立ちながら、やがてその全身を包み込む。
「……術式把握……属性……魔力数値……異常値……正常値……個体識別反応。成程、確かに手の込んだ術式ですが……何とかなりそうですね」
ウナの水は相手の肉体、そして魔力への高い干渉力を持つ。
これはかつてエリベルがアースの武装化を解除するために造り上げた『戻るぜX』の効力に似ている。
『戻るぜX』は“錬金”の魔素構成作用を逆算して、変動値と変動後の魔素を弾きだし、それを対象の魔力を媒介に還元させるという効果がある。
ウナの水もそれに近い。
相手の魔力と魔力回路から通常値と変動値の値を計測し、変動部分のみを強制的に通常値に戻す。
聖龍の『浄化』とは全く逆のベクトルによる、ある種強制にも近い強引な癒しの力。
エリベルも認める程の魔力への絶対的干渉能力。
それがウナの能力の真骨頂。
直接的な戦闘ではウナはドスに及ばない。
だが、解呪や干渉と言った分野でならば、ウナはダンジョン内でも随一の能力を持つ。全てを癒し、元へ戻すその力から冒険者から畏怖と畏敬を込めて、人々は彼女をこう呼んだ。
―――『水姫』、と。
「『なっ……!?グア……アアアアアアアア馬鹿なアアアアアアアアアアッッ!!』」
べりべりべりべりべりべりべりと、何かが剥がれる不快な音。
リンウの体から“何か”が現れる。
それは黒い霧のような何かだった。
「おそらくあれが傀儡の本体ですね……ドス」
「……ん、“風破掌連”!」
ドスは黒い霧に向かって魔力を込めた拳を放つ。
あっさりと、黒い霧は霧散した。
同時にリンウから魔力の気配が消える。
気を失ったようだ。
「……ん、オリオン、術式解除して、良い。多分、もう大丈夫」
「分かりました」
ふっと十字架が消え、どさりとリンウの体が中庭に落ちる。
「終わった……のか?」
ぽつりとカグリアスが呟く。
「ええ、そのようですね。カグリアス帝、まずはその傷を癒しましょう……手を」
そう言ってオリオンはカグリアスに回復魔術を掛ける。
見る見るうちにカグリアスの傷は全快した。
「すまん、礼を言う」
こちらを見ながらカグリアスは礼の言葉を述べる。
うん、いい感じに恩を感じてくれているようだと、ドスは内心ほくそ笑んだ。
「ともかくここから移動しましょう。追撃があるとも限りませんし」
「そうね、オリオン。そこに倒れてる老人は?」
「……ん、僕が運ぶ。ウナ姉、拘束術式、お願い。万が一起きた時、暴れられ無い様に」
「分かりました。“水よ、罪深き者の体を拘束せよ”」
リンウの身柄を拘束し、ドス達は移動を開始する。
(……ん、それにしても)
ドスは考える。
それは先ほどのあの術式。
リンウを操っていた者の術式についてだ。
ウナの解析に傍ら、ドスも彼女から術式の詳細を思念通話にて受け取っていた。
(……ん、あの術式、僕達の、憑代ゴーレムの術式に、似てた……似すぎてた)
憑代ゴーレムはエリベルがその知識を駆使して作り上げた破格の術式だ。
肉体を安全圏に置いて、離れた場所への干渉を可能にする。
あのジョーカーが使っていた術式はその憑代ゴーレムの術式に酷似していた。
(……ん、偶然?それとも、ダンジョン内の、情報が漏えいしてる?)
「……どうしたのですか、ドスさん?」
考え事に耽っていたのか、オリオンが心配そうに訊ねてくる。
「……ん、なんでもない、オリオン」
「そうですか、ならよいのですか……」
まあ、確かに今は他にやるべきことが山ほどある。
ちらりと、ドスは数歩先を歩く皇帝に目を向ける。
そして、とりあえずこう思った。
――高く貸し付けたぞ、と。
内心ほくそ笑むドスの表情は誰にも悟られることは無かった。
???にて―――。
「あー痛っ……いやー失敗しちゃったっす……」
「あまり調子に乗るからだ。そもそもなんでわざわざ『銀鬼』を使った?グラムを入手するだけなら、他の方法はいくらでもあるだろう?」
「えー、だってその方がリスクが少ないじゃないっすか。僕はリアス先輩の為に最善の方法を取ってるだけっすよ……まあ、失敗しちゃったっすけど」
「……」
「あー、黙らないで下さいよ!逆に辛いじゃないっすかー」
「アレは確かに優れた術式だが、その分対象の力を大幅に弱体化させるだろう。そのような欠陥のある術式を行使するなど―――」
「おい、それ以上言ったら殺すっすよ?たとえ、アオバ君だろうと、リアス先輩の考えた至高の術式にケチをつけるようなら、僕が君を殺すっす」
「じゃあ訂正してやる。いくら至高の術式を行使しようと、使い手が三流ならば全く無意味だ」
「……そう言われれば、言い返せないっすね……」
「……まあ、いい。どうせグラムは『保険』だ。他の奴らは配置についたぞ。リアスもすでに移動している」
「あ、そうっすか。……ん、あれ?リアス先輩には誰が付いてるんっすか?」
「ヴァレッドだ。他の者は手が空いていないからな」
「えー、あんな雑魚に任せるなら僕が同行したかったっすよ」
「そう文句を垂れるな。言っただろう。重要なのは奴の能力の方だ」
「分かったッすよ。でも、という事は準備が整ったんっすね?」
「ああ。お前が無駄に帝城を混乱させてくれたおかげで、他の者達も動きやすくなったようだ。ある意味お前の手柄でもある。褒めてやるぞジョーカー」
「……別にアオバ君から褒めて貰っても嬉しくないっすよ……」
「そう言うな。既にラウとスイレンがダンジョンへと向かっている。あとは彼らの報を待てばいい」
「おっ、という事は―――」
「ああ。今から二時間後―――死龍ウロヌスを復活させる」
そして―――
二人の男女がダンジョンの入口の前に立っていた。
一人は倭の国の民族衣装―――着物に身を包んだクマの様な大柄な男。
凶悪な人相に、剥き出しの犬歯が余計に獣らしさを掻きたてている。
その傍に立つのは、同じく倭の国の民族衣装に身を包んだ小学生程の小柄な少女。
「はっはーっ!ここが例のダンジョンか!いいじゃねーか、中々の魔力を感じるぜぇ……こりゃぁ楽しめそうだ!」
楽しそうに熊の様な大男ラウ・ランファンは笑う。
隣にいる小柄な少女はそれを諌める様な視線を送る。
「ラウ、分かってるの?私達の任務はダンジョンの攻略じゃない。ここに来たのはリアスの目的の為。そこを忘れないでね」
「分―ってるつーの、頭が固てぇーぜ、スイレン?嫁の貰い手がねーぞ」
「アンタが大雑把すぎるのよ、つーか結婚は関係ないでしょう?殺すわよ?」
スイレンと呼ばれる少女から殺気が漏れる。
「おおー怖ぇー怖ぇーこりゃあ行き遅れ確定だな、ガハハハハッ」
「良いのよ、その時はアオバ君に責任とって貰うんだから。良いから行くわよ。ちゃんと、“アレ”は持った?」
「おうっ!アオバからちゃぁーんと借りてきたぜ。準備はばっちりよ」
「そう、じゃあ行きましょう……私達の目的……死龍の復活の為に」
そして彼らはダンジョンへと足を踏み入れた。
あとがき
アース『俺もう七話近く出てないんだけど……主人公なのに』
ドス「……ん、大丈夫。次話は、パパの出番、ある……」
アース『そうなの?でも面倒事や痛いのは嫌だよ?大丈夫だよね?』
ドス「…………」
アース『なんで何も言ってくれないの?ねえ、なんか言ってよ』
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