第129話 デカい馬


 「プヒヒヒン」 (悪くないな)


 二日間のファンサービスをしてから少しして。エンマダイオウ君はアメリカの地に降り立った。


 カラッとした気候で割と過ごしやすい。

 牧場の人達も英語で話してるから、なんとなくだけど言ってる事が分かる。


 フランスの時ほどストレスは感じないね。


 「エンマー! 今日は早めに戻るよー!」


 まあ、いつも通り牧瀬さんがずっと付いててくれるから、ストレスもくそもないけど。やっぱり異国の地でも、慣れた人が近くに居ると違うな。


 「ちゃんとお気に入りのクッションも厩舎に置いてあるからね」


 「プヒヒヒン」 (助かります)


 俺のお気に入りのクッションは二つある。牧場のど真ん中で寝る用と、馬房でお休みする時に使う用の二つだ。


 もうこれに慣れすぎて、クッションがないと眠れない身体になっちゃった。………いや、無くても寝れるけど、充実感が違う。


 人間が枕が変わると寝れないから、旅行先にも枕を持参するような感じかな。今回で海外遠征は最後だけど、お気に入りを持って来てくれて良かった。


 ちびっ子が持って行った方が良いって飼い主兄さんに言ってくれたお陰だな。


 やっぱりちびっ子しか勝たん。


 「プヒヒヒン」 (飯も美味い)


 アメリカの草はどんなもんかと思ってたけど、変わらず美味い。これもやっぱり日本から持って来てくれてるのかな? 牧場に生えてる草はちょっとイマイチだったからなぁ。




 なんて事を思ってから数日。

 アメリカにもすっかり慣れて調教をこなしていた日。


 「プヒヒヒン」 (な、なんじゃありゃ…)


 調教場所から遠く離れた場所。

 結構距離があるのに、存在感が半端ない馬達が二頭で軽トラックみたいなのを引っ張ってる。


 「プヒンプヒン!」 (なにあれなにあれ!)


 俺の手綱を引いてた牧瀬さんに鼻先をぐりぐりして尋ねてみる。ちょっとサイズやばすぎない? 俺も結構デカい方だけど、それでも倍ぐらいの差はあるんじゃないの?


 まさか次のレースでの対戦相手はあれじゃないよね? 流石の俺もあんな過酷なトレーニングは積んでないよ? あそこまでしないと、アメリカの競馬は勝てないぐらい修羅ってるのか? なんかちょっと不安になってきた。


 「あれは別競技のお馬さんだね。重たいものを引っ張る競技があるんだよ」


 「プヒン」 (な、なるほど)


 べ、別競技ね。それなら良いんだ。

 流石のエンマ君も、あんな漫画に出てきそうな馬と戦いたくない。なんか戦ってる土俵が違うもん。


 「プヒヒヒヒヒン」 (よく見たらそんなに速そうではないか)


 あっちはパワーを競う感じか。

 俺達はスピードを競う感じだし、練習方法が違うのも当たり前だよね。


 ……あれって俺達と同じように母馬から産まれてくるんだろうか? 成長してあんなに大きくなるってこと? 俺達と成長と度合いが違くない? 鍛え方次第では俺もあんな感じになれたりするのかね?


 俺はゴリマッチョより、細マッチョ派だから、今のフォルムが気に入ってるんだけど…。


 神様の気まぐれであっち方面の競走馬にならなくて良かったな…。過酷すぎる。馬も絶対しんどいだろ。


 日本の競走馬として生誕させてくれて感謝ーと神様にお礼を言う。今更人間じゃなくて、馬に生まれた事は気にしてない。なんだかんだ快適に過ごせてるしね。


 なんて事を思ってると、一緒に歩いてたアメリカの厩務員さんと牧瀬さんが何かを話してる。牧瀬さんって英語も普通に話せるんだよね。才色兼備ってやつだ。


 「少し距離を離した柵越しだったらあっちの馬に近付いても良いみたいだよ。どうする?」


 「プヒン」 (え、見たい)


 遠目からでもデカさが分かるんだ。

 近くで見たら更にデカいだろう。是非とも見てみたい。





 「プヒーン」 (でっかー)


 って事で牧瀬さんに連れられて近くに。

 身体の分厚さが全然違う。体重は1トンを軽く超えてるらしい…。俺のレース時の体重も500キロを優に超えてるけど、やっぱり倍ぐらい違うらしい。


 「プヒヒヒヒヒン」 (や、やろうってのか)


 俺がジーッと見てると、向こうの馬もジーッと見てくる。メンチ合戦に負けた事がない俺だけど、流石にちょっぴり尻込み。


 デカいのはずるいよ…。それだけで武器じゃんか…。威圧感が全然違うもん。


 「あっちの競技の馬は温厚な馬が多いんだって。ほら、あの子も優しそうな目をしてると思わない?」


 「プヒヒヒン」 (思わない)


 甘いで牧瀬ちゃん。甘々や。

 あれは獲物を狙ってる目ですよ。


 隙あらば喧嘩を吹っかけようと企んでる目です。数えきれない程メンチ合戦してきた俺が言うんだから間違いない。


 そんな中、ふんすふんすとやる気を滾らせてると、そろそろお開きの時間になったみたいで。


 お互い手綱を引かれてバイバイした。

 流石アメリカ。侮れない国だぜ。

 馬もあんなにビッグにしちまうとはな。


 「日本にもばんえい競馬って似たようなのがあるんだよ。ソリを引っ張ってレースをするの」


 「プヒン?」 (そうなの?)


 そりゃ、初耳だ。

 いつか実際にレースしてるところを見てみたいな。


 結構な迫力があって面白そう。

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