閑話 写真ニキ1

 ☆★☆★☆★



 「ひえぇぇぇぇ…。勝っちゃった…」


 掲示板で少しばかり人気の写真ニキは、スマホの的中画面を見て戦慄していた。


 800万近くエンマダイオウの単勝にぶっ込み、2500万以上になって返ってきたのだ。普通の神経をしている一般人なら気絶してもおかしくない。


 「ぜ、税金がとんでもない事に…」


 そして最初に心配したのは税金の事。なんとも世知辛いものである。券売機で買っていたら、脱税する事も出来たかもしれないが、小心者の写真ニキは、800万近い大金を持ち歩く事など出来なかった。


 スマホで馬券を購入したのなら、高額配当を得た場合ほぼほぼバレる。政治家の脱税は見逃すくせに、一般人からは夢も希望も根こそぎ持っていくのだ。やれやれである。


 「確か前に芸人さんが2400万の馬券で700万くらい税金で持っていかれたって言ってたような…」


 写真ニキは震えた。





 思えばエンマダイオウとの出会いは偶然だった。趣味である競馬と写真撮影を両立するには、毎週土日の競馬場はうってつけで、その日もなんの気もなしにパドックで新馬戦出走予定の馬の写真を撮っていた。


 すると偶々横に、エンマダイオウのオーナー家族がいて、既に界隈では有名になりつつあるオーナーの娘さんにエンマダイオウが突撃してきたのだ。


 エンマダイオウはオーナーの娘さんである舞ちゃんが大好きだ。一部ネットではロリコンなのではと言われてるぐらいに。パドックでは毎回娘さんを見つけて嘶いているし、レース後の写真撮影では、毎回隣に配置しないと駄々をこねる。


 今では遠くから嘶くだけだが、新馬戦の頃は近付けるギリギリまで来た。新馬戦でその頃はエンマダイオウの名が知られてなかった事もあって周りに観客も少なく、思う存分写真を撮れた。


 それでせっかくの記念だからと、単複で10万ずつ突っ込んだのが、全ての始まりだ。


 新馬戦で盛大に出遅れたものの圧勝。馬券は的中して、面白いし強い馬だなと追いかけ始めた。


 的中した馬券を持ち越してエンマダイオウの次のレースに全部注ぎ込む。エンマダイオウは無敗を維持して、有馬記念まで来たのだ。写真ニキのその時までの勝ち額は800万近く。優秀な人の年収ぐらいあった。


 そして今日。

 800万が2500万超えに。


 正直、今回の有馬記念は負けるだろうなと思っていたのだ。掲示板では信じてるとは言ったものの、あの枠は流石に厳しいと思っていた。


 だが、写真ニキにもここまで毎レースエンマダイオウに注ぎ込んできた意地が、矜持があった。ここまでやってきたのに、負けそうだからと、ひよるのはエンマダイオウに失礼なのではないかと。


 そして意を決して全ツッパ。結果、勝利して、やって良かったと心の底から思っている。


 「来年は海外レースに挑戦したりするのかなぁ…。流石に追えないかも…。仕事もあるし…」


 今回の有馬記念に勝った事で、既に国内に敵なしと言われてるエンマダイオウだ。もしかしたら主戦場を海外に移すかもしれない。


 タッキーがエンマダイオウと共に引退を宣言してるし、いつか凱旋門賞には間違いなく挑戦するだろう。


 「ここまで来たら全レース現地で応援したいんだけど…。有給だけでなんとかなるかなぁ…」


 写真ニキはレース後の写真もしっかり撮影して帰路についた。


 明日からの仕事も頑張ろうと。今から上司に媚を売って有給を取れるようにしておこうと。そんな事を思いながら。


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