第6話 落書き
「どんな感じ?」
「とりあえず言語や世界の歴史、後は基礎知識なんかはまとめてこのちっちゃいのに入ってる。今は私が興味ある事を集めてる感じ」
「………とりあえず当初の目的は達成したって事か? なら、こっちも終わったし、そろそろ帰るぞ」
「待って。もう少しだけ」
「しょうがないな……。じゃあ俺達はどこかの部屋にそこら中で寝てる組員さん達を放り込んでおくか」
会長さんとの話を終えて。
跡目の人を紹介してもらうのは後日って事になったから、今日はお暇するかと、別行動していたローザとエリザベスを回収しに来た。
エリザベスは部屋の片隅でパソコンをぽちぽちやっては、データをUSBメモリにダウンロードしている。
世界の歴史やら言語やら基礎知識やら。
とりあえず教科書に載ってそうな事を片っ端からだ。
最初は本でも買えば良いかと思ってたけど、良く考えたらこっちの方が早いかと思って。島に電波が飛んでなくても、USBにダウンロードしたものはパクったパソコンで見れるしね。
後はその情報をコピーして『クトゥルフ』の面々全員が見れるようにしたら良い。
エリザベスは未だにパソコンの全貌やら、電波のあれこれについて完全に理解出来てなくて、その状態で活用するのに難色を示してたけど。
USBメモリとか意味が分からんって言ってたからね。こんなちっちゃいものに、膨大なデータを保存出来るのが信じられないらしい。
まあ、エリザベスならあっという間に仕組みを理解出来るだろう。今でも既に前世の俺より全然使いこなしてるように見えるしね。
「てか、世界中から教科書的なのを一通りパクれば良いんじゃね? 専門的なのも含めてさ。あ、こら、ローザ。顔に落書きしないの。可哀想でしょ」
「この人達顔が怖いもーん。可愛くしてあげたんだよー」
「怖くて良いんだよ。この人達は怖くてなんぼみたいなところがあるんだから」
せっかく現代に帰って来たし、旅行と情報収集も兼ねて世界を回りつつ、教科書とか専門書をパクるのも良いなぁなんて思いながら、組員さん達を部屋に押し込んでると、ローザはどこから持って来たのか、マジックで組員さん達に次々と顔に落書きしていく。
水性マジックだったのが救いだな。
洗えばすぐに落ちるだろう。
「よし。エリザベス。時間切れだ。もう待ってやらないぞ」
「むぅ…」
「また来る機会はあるから」
転がってる組員さん達を全員部屋に押し込み、まだ粘ろうとしているエリザベスも回収。
「生でヤクザを見れて俺は満足ですよ。次はイタリアのマフィア辺りを覗きに行くか。アメリカのギャング、メキシコのカルテルも気になるなぁ」
前世では絶対に近付きたくない人達だったが、強さを得て現代に帰って来た今なら、物見遊山感覚で覗きに行ける。
俺達のなんちゃってマフィアじゃなくて、本物ってのを見せてもらいたいね。
☆★☆★☆★
「か、会長! すんません!」
「すんませんでした!!」
「構わん。あれはイレギュラーじゃ。わしらにはどうする事も出来ん。交通事故みたいなもんじゃ」
レイモンド達が帰ってからしばらくして。
闇魔法で寝かされていた組員達が飛び起きた。
会長の警護役を任されているのに、全員がぐーすかと寝て一つの部屋にまとめられていたのだ。
しかも一人一人何故か落書きをされて。
全然意味の分からなかった組員達だが、まずは会長の安否だ。
落書きを洗い流す事もせず、一同は揃って会長の寝室に駆け込んだ。
「しかし会長…。本当にお身体はよろしいので…? 起き上がるのも困難だったはずじゃ…」
「うむ。この通りよ。長い事寝てたせいで、体力は落ちてるがな。それでも、苦しむ事はなくなった。空気が美味いわい」
「………一体何があったんですかい?」
急に元気になった会長。
医者からは末期の癌で回復の見込みがないと言われていたのだが、驚くほどにピンピンしている。
当然組員達は気になって聞いてみるのだが…。
「それはまだ言えぬ。正直、わしも良く分かっとらんしの。時期が来たら説明出来るようになろう」
「……そうですか」
正直、会長も何が起こったか分かってないのだ。説明出来るはずもない。
「………それよりも三日後じゃ。藤堂を含む直系組長達を全員集めろ。予定があってもキャンセルさせての強制参加じゃ。すぐに通達を出せ」
「わ、分かりやした!」
レイモンド達は三日後にまたやって来ると言っていた。もしかしたらその時に詳しい説明があるかもしれない。
会長はそんな事を思いつつ『天鳳会』の全幹部を集める。跡目予定の人を紹介して欲しいと言っていたし、会長の長年の勘がレイモンド達とは敵対してはならないと、警鐘を鳴らしていたのだ。
早々に顔合わせを済まして友誼を結ぶ。
さもなくば『天鳳会』が潰されてしまう。
相対して少し話した会長はそう思っていた。
「………顔の落書きもちゃんと洗い流しておくのじゃぞ」
「す、すみません…」
真面目な顔をして話しをして、気にしないようにしていたが、やっぱり落書きは気になったらしい。
「全く。なんなんじゃあの者達は…。何がしたいのか全く読めんぞ」
組員達が足早に寝室から出ていくのを見つつ、会長は深いため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます