第6話 近石さん

「近石栄子さーん。おはようございます。」

陽子が呼び入れた。

近石さんは72歳。白内障の術後と緑内障を診ている。


小柄で痩せ気味なのだが、どこで焼いたのかと思うほど黒く日焼けしていて深いしわが沢山刻まれている。髪はとかしていないのか白くぼさぼさで、歯もかなり無くなっていてアジアの秘境民族の長老のような容貌なのだ。

服装はいつも作業着系のダボっとした上着にパンツで、1か月くらい洗濯をしていないのでは?と思うような汚れやシミがついている。


「近石さん。おはようございます。お変わりないですか?」

らなの言葉に近石さんはおもむろにしわしわでしみがいっぱいついた白い(?)ハンカチを取り出した。それを診察用の椅子の上にひくとその上に座った。

「変わりないです。」

この行動を初めて見た時は驚いた。


陽子も驚いていた。

「”椅子が(私で)汚れないようにひいている”のか”汚い椅子に座りたくないからひいてる”のかどっちなんでしょうね?」

いつも辛口の陽子の発言に苦笑したものだ。


でも、実際どっちなんだろう?

全然別の理由かもしれないけど・・・。


河川敷などに居を構えてそうな雰囲気なのだが、保険証は2割負担だ。

結婚して息子さんもいる。

夏でも匂ったりもしない。

病気の説明に対する応答も問題なく、次回指示も大方守っている。

そのかなり独特の風貌に反してごく普通の真面目な人なのだ。


一通り診察が終わり何事もなく近石さんはきちんと礼を言って帰って行った。


この人もひまわり眼科七不思議の一人かもしれないわね。


近石さんが受診にくるといつも不可思議な気分になるが、今日も例にもれず不可解な気持ちになりながら診察室を出て行く近石さんを見送ったのだった。





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