第4話 相馬さん
「相馬浩三さーん。おはようご・・・」
「先生!大変です!」
陽子が呼び入れる声の途中で相馬さんは勢いよく診察室に入って来た。
相馬さんは77歳。3週間前に白内障の手術を受けて経過観察中の患者さんだ。
術後の患者さんの悲愴な剣幕にらなも顔色を変えた。
術後の合併症が起きていたら大変だ。
もしかして感染症とか?
青ざめながら尋ねた。
「どうされました?」
相馬さんは興奮しながら答えた。
「目薬の差し方を間違えていたんです!」
「は?」
術後の目薬は抗生剤1種類と炎症止め2種類の3種類だ。
朝・昼・夜・寝る前の4回、その3種類の目薬を差してもらっている。
「朝に3種類を4回、昼に3種類を4回という風に差してたんです。」
「・・・。えー、それはつまり3本×4回×4回で一日に48回差していたということですか?」
相馬さんは力強く頷いた。
「今朝、家内に”お父さん目薬の差し方間違ってるんじゃない?”って言われて気付いたんです!目薬の差しすぎで目がおかしくなってないか不安になってしまって。先生、早く見てください!」
「・・・。」
なぜそんなことになった・・・。
そして、奥さんはなぜもっと前に指摘してあげなかった・・・。
様々な思いが溢れた。
まあ、術後の感染症じゃなくて良かった。
そう前向きに考え直しながら相馬さんを診察した。
「黒目も綺麗ですし、目薬で荒れたりはしてないですよ。」
「あー、良かった・・・。」
相馬さんは安心した顔で帰って行った。
賑やかに現れた相馬さんが帰って、診察室に静寂が訪れた。
「何というか・・・奥さんもっと早く言ってあげて欲しかったですね。」
陽子の言葉に激しく同意したらなだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます