らな先生の眼科診察室
らな
第1話 清水さん
N県S市はN県の県庁所在地N市に隣接するベッドタウンだ。N市は日本でも有数の大都市だが、S市はかつての繁栄から衰退の一途で人口も微減傾向の町だった。
らなの働くひまわり眼科医院はそんなS市の中ではまあまあ大きめの駅の駅前にあった。
年配の理事長が経営するその医院で、らなは午前中の診療を任されていた。
ここで働き出して、今年で10年目になる。
「清水志保さーん。おはようございます。」
診療助手の陽子が患者さんを診察室に呼び入れた。
名前を聞いて、らなはニンマリ笑った。
今日は何が入ったのかしら?
清水さんはある意味ひまわり眼科の常連さんだ。
ひと月に1回くらいのペースで目に何かが入るのだ。
診察室に入ってきた清水さんは椅子に座ると今朝の出来事を話し出した。
「家の外を掃除していたら2階から植木鉢の水が垂れてきて右目に入ったんです。」
そんなことある?!
笑いそうになる顔の筋肉を引き締めながららなは尋ねた。
「今、目がコロコロしたり痛みはありますか?充血や目やにはどうですか?」
「入った時は少しコロコロしましたが、今は何ともありません。」
清水さんは真面目な顔で答えた。
「では、ここにお顔を乗せて目を診せてくださいね。」
細隙灯という眼科診察用の顕微鏡に清水さんは顔を乗せた。
「黒目も白目も傷はありませんね。粘膜の炎症も出ていません。」
らなの言葉に清水さんは笑顔になった。
「よかったー。私、よく目に物が入るから。」
よく物が入るって自覚あったんだ!
安心した清水さんは今日は薬の処方もなく帰って行った。
清水さんが出て行った後、らなはカルテをパラパラめくった。
この1年で14回、目に何かが入ったと受診している。
一番多いのは、バス〇ジックリンだ。8回入っている。
「お風呂の掃除をしていたらバス〇ジックリンが目に・・・。」
もっとゆっくり掃除すればいいのにと思うが長年の習慣は変えられないのだろう。
あとは家の中にいて2階から落ちてきた水が入ったとか外を歩いていて空から降ってきた液体がなどなど・・・。
家にいて2階から水って、どんな構造の家なんだろう・・・。
いつも上を向いて生活しているのかしら?
いろいろ思うことはあるが、性格の良い清水さんの診察は全く苦ではない。
今度は何が入って受診するのかしらね。
そう思いながららなは清水さんのカルテを片付けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます