モンスター娘に転生したら、土地神と勘違いされて崇められました~人外パワーで楽々スローライフ~
ジャジャ丸
第1話 女神(?)の導きを受けました
『おめでとうございます、あなたは選ばれました』
何も無い真っ白な空間で、私は唐突にそう声をかけられた。
顔を上げると、そこにいたのは神々しいまでの光を背負った美しい女性だ。
白銀の髪に真っ赤な瞳を持ち、羽衣を纏ったその人が、私に真っ直ぐ微笑みかけている。
「ええと……あなたは?」
『申し遅れました、私は女神ルシエル。文字通り神です』
「へ? 女神様ですか!?」
なんとこの人、女神様らしい。
確かにこのちょっと眩しいくらいの後光、女神様以外考えられない。
『ええ、女神様ですよ。あなたは、そんな女神ルシエル様に選ばれた人間なのです。私の化身として、異世界へ転生するという栄えある役割に』
「はあ……」
何でも、私が前世でたくさん良い事をしていたから、その尊い魂をここで終わらせるのはもったいないと思って貰えたんだって。
どうか私の世界でより多くの人を助けて欲しいと言われ、私はぶんぶんと首を横に振る。
「そんな、私なんて別にそんな大それた存在じゃないですよ。ただ当たり前のことをしてきただけで」
『ふふふ、その“当たり前”に救われた人が数多くいたことを、私はよく知っています。事実、あなたの最期もまた、幼い子供を庇って車に轢かれたことだったでしょう?』
「そ、そんなことまで見られてるんですね……」
ほとんど咄嗟に動いたようなものだったし、あんまり褒められたことじゃない。
それに……庇おうとしたのは事実だけど、結局その子も守れずに、私と一緒に轢かれちゃったから。
正直私よりも、あの子を助けて貰いたいなぁ……。
『難しく考える必要はありませんよ。これは私からあなたへのご褒美と思って頂ければいいのです、頑張ったあなたが、もう一度新しい人生を歩むための。それにこれは、あなたが庇おうとした子の願いでもあるのです』
「あの子の……?」
『ええ。あなたより少し前にここへ来て、あのお姉ちゃんを助けて欲しいと、そう私にお願いしていました』
そっか……そんなことがあったんだ。
そう言われると、女神様の提案を無下にするなんて出来ないなぁ。
「分かりました。新しい世界で、ルシエル様の名に恥じないように精一杯生きます!」
『その意気ですよ。異世界でもし仮に上手く行かなくとも最大限サポートしますし、死んでしまってももう一度ここに戻って来れますから、安心してください』
なんと、ただ転生させるだけでなく、アフターケアまで完璧らしい。
こんなにも良い人が女神として見守ってくれているんだと思うと、何だかすごく心強い。
『それでは、交渉成立、ということでよろしいですか?』
「はい、よろしくお願いします!」
交渉? とちょっと言葉選びに疑問を覚えながらも、まあそんなこともあるかとすぐに聞き流した。
そんな私に、ルシエル様が両手を広げる。
『では、私ことルシエルの名の下に、あなたの魂を異世界へと導きます。あなたの第二の人生に祝福あれ』
「わわっ!?」
唐突に私の足元に穴が空き、真っ暗な闇の中へと落ちていく。
あまりの急速落下に恐怖すら感じながら、私の意識はやがてゆっくりと閉ざされていった。
事故死した一人の少女を異世界へと転生させた後、女神ルシエルはしばらくその場に佇み……大きく口を開け、哄笑を上げた。
『あっはははははは!! あーもう可笑しい、まさかあんな簡単な演技で、“悪魔”と契約を結んじゃうなんてねえ、最近の人間は騙しやすくて本当にチョロいわ』
神々しく輝いていた羽衣が、みるみるうちに漆黒へと染まっていく。
神性な後光は不気味な赤光へと変化し、純白の空間もまた悪魔の城とでも言うべき暗く陰湿な部屋へ様変わりする。
そう、彼女は女神などではない。
むしろ、その対極に位置する存在……大悪魔ルシエルだったのだ。
『異世界転生なんて面倒なこと、ただ前世でちょっとばかり徳を積んだだけでやって貰えるわけないじゃないの。私が何を狙ってるかも知らないで……ほんと、良い子ちゃんを騙すのって気分が良いわぁ』
悪魔は、人が放つ負の感情を糧として生きる神性生命体だ。
特に力を付けた悪魔は、自らの手で狙った形に人の心を誘導し、破滅させ、その絶望の感情を魂ごと喰らうという“調理”の手間をかけるのを愉しむことが多い。
ルシエルが転生の話を持ち掛けたのも、そういった狙いがあってのことだった。
『触ったら火傷しそうなくらいキラキラ輝く心が絶望に触れ、挫折し、闇に堕ち、ドス黒く染まったその魂が放つ感情こそ、私にとっての最高のご馳走……ふふふ、あの子が死んでここに戻ってきた時、どんな表情を見せてくれるのか、今から楽しみね』
目的達成のため、ルシエルが彼女の転生先として選んだのは剣と魔法のファンタジー世界だ。
強大な魔物が蔓延り、人類が生存出来る土地はごく僅か。
そんな僅かな土地を奪い合うため、同じ人種同士であっても戦争が絶えず、全ての元凶たる魔物への憎しみを募らせている。
そんな世界に、よりによって魔物と人のハーフとして転生させたのだ。どう足掻いても、絶望の未来しかないだろう。
何なら、やり過ぎて絶望する間もなく死んでしまうのではないかと、それが唯一の気掛かりなくらいだ。
『とはいえ、“収穫”まではしばらくかかるでしょうし、今の内に次の“種”を仕込まなくちゃ。あー忙しい忙しい!』
ルンルンと、スキップするような気楽さで世界を渡り、次なる“ご馳走”にちょうど良さそうな人間がいないか探しに向かう。
……そうして、ルシエルがいなくなった無人の空間にて。どこからともなく、小さな光が現れた。
まだ幼い子供の形を持ったその光は、少女が落ちていった穴を見付けるや否や、躊躇いなくそこへ飛び込んでいく。
“──今度は私が助けてあげるね、お姉ちゃん”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます