第17話 命を預かる者として、命を懸けないわけにはいかない
漆黒の竜は未だに目を覚める様子はない。
「とりあえず、テラ、ダンク、ナル、背を向けてほしい。強化魔法をかけるから」
強化魔法は本来、自分自身か触れた物にしか強化することができない。だが、それはよく知られる強化魔法の場合の話だ。
誰よりも強化魔法に向き合い、古い書物から調べ、勉強した俺は例外となる強化魔法を習得している。
「強化魔法って他者にかけられるもんなんだ」
「3分限定だけどな」
俺は一人一人の背中に手を当てて、唱えた。
「ブースト・エンチャント・グラント」
すると、3人の体から微弱なオーラが漂う。
3分限定の強化魔法ブースト・エンチャント・グラント。効果は本来の8割だが、強化魔法で唯一、他者にかけることができる魔法。
「あとは武器だな。ダンク、ナル、武器を出してくれ」
「おう、よいっしょ!!」
ダンクは何もないところから突然、斧を取り出した。
「もしかして、それって異空間収納機か?」
「おっ、これを知っているとはあんちゃん、物知りだな」
異空間収納機、自身の魔力を基に異空間を作り出し、どんなものでも収納できるアーティファクト。転移結晶ほどじゃないがそれなりの値段がするアイテムだ。
「なに、驚いているの?それより早くして」
「ナルも持ってるのかよ」
この二人、本当に何者なんだろうな。
まあ、今はそんなことどうでもいいけど。
手早く、ダンクの斧、ナルの双剣にも強化魔法ブースト・エンチャント・グラントをかける。
「これで準備は整った。テラ、お前は魔法に集中しろ。そして合図を待て、いいな?」
「うん…………」
作戦は簡単だ。
俺とダンク、ナルが漆黒の竜に突撃、気をそらせるうちにテラが魔法の準備。そして、魔法の準備ができれば、俺が合図を送り、テラが心臓あたりに魔法を叩き込む。
すべての準備を整えた俺たちはテラを後ろに控えさせ、武器を手に取り、漆黒の竜を見た。
「ダンク、ナル…………行くぞっ!!!」
その声にダンクとナルは先に前に飛び出した。
それと同時に漆黒の竜は目を開く。
「おお、やっぱり大きいな!!筋肉がうずく!!」
「しゃべってないで手を動かして、少しでも隙を見せたらブレスで即死だ」
「わかってるよ!!」
巧みな動きで竜の足元まで近づき、ダンクが傷跡に斧を振り下ろす。
鈍い音が鳴り響く中、漆黒の竜もまた苦痛の叫びをあげる。
「効いたな!今、痛いって叫んだな!トカゲ!!ならもういっちょ!!」
もう一撃、繰り出そうと斧を振り上げるが、すぐに頭上から殺気を感じ取った。
「させない!」
大きく飛び上がり、体をネジのように回転させながら、傷跡に深く切り裂いた。
その攻撃で漆黒の竜はブレスをやめ、器用にしっぽでナルに反撃するが、小柄な体を生かし、軽やかによけた。
「あぶねぇ、あぶねぇ」
「欲張らない。一撃与えたら、後ろに引くことを考えて」
「ああ、そうだな。それにしても、すげぇな、強化魔法って、体が軽いし、力もみなぎる。それに刃もすんなり通りやがる」
「そうだね。私も今までにないくらい力がみなぎる」
ダンクとナルは声を震わせながら強化魔法を実感した。
二人とも、強化魔法がしっかり機能をしているみたいだ。
「俺も動かないとな」
俺は二人みたいに斧が得意でも剣が得意なわけでもない。だからこそ、出し惜しみはしない。今できるすべての強化魔法を、俺に…………。
「ブースト・リミットリリース」
強化魔法ブースト・リミットリリースは本来、強化する際には限界値があり、それ超えるとオーバーフローして、体が砕けるのだが、この強化魔法をかけることで一時的にオーバーフロー状態を後回しにできる。
言うなれば、一時的に限界を超えた力を使うことができるんだ。だがこの効果時間は1分のみ、それを超えるとオーバーフローして、体が砕ける。
メリットに対してデメリットは大きいが今は生きて外に出ることのほうが価値がある。なにより、このパーティーのリーダーとして命を預かる者として、命を
「全力を尽くして、時間を稼ぐ」
手元にある剣にも強化魔法をかけながら、竜の足を足場に駆け上がる。
竜の胸あたりには鱗がない。なら手っ取り早くそこを狙うのが一番、竜の気をこっちにそらせることができるはずだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
胸あたりまで駆け上がり、剣を振り上げるとその瞬間、漆黒の竜は大きく口を開き、耳鳴りするほどの咆哮を放った。
「うぅ、耳が…………」
強化魔法をかけていても、これほどの…………。
一気に力が抜け、落下する俺はバタッと着地し、膝をついた。
「これはスキル覇気だな」
「うぅ、体が重い」
スキル覇気、自身のレベルより低い者を対象にひるませる威嚇スキル。
そういえば、スキルを考慮していなかったな。でも、だからなんだ。
「くぅ…………重いな。でも、この程度で兄さんは膝をつかない。ならこんなところで膝をついていられるか!!!」
俺は力強く振り絞り、立ち上がった。
「おいおい、マジかよ。これは負けられんな!!」
「そうだね!!」
俺に続いてダンク、ナルも立ち上がり、武器を構えた。
「スキルを使ったってことは漆黒の竜の気を引けているってことだ。気を抜くなよ!!」
「あんちゃんに言われなくても、俺の筋肉は
「レインに言われなくても、気を抜かない。全力でいく!!」
こうして、漆黒の竜との戦いはさらに苛烈になっていった。
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