園田遥香の取材③



「どうしたものかしら……」


 社に戻ってきた遥香は、腕を組んで唸った。


 千代から志気雄の話を聞いたおかげで、色々なことが分かった。ただ、それが本当であればの話だが。


「二年も前だし、偏った認識をしていそうなのよね」


 世間一般ではニートと呼ばれるような存在だったとはいえ、千代にとっては大事な息子である。そんな息子が、ある日突然いなくなってしまった。残された彼女は二年もの月日の間に、ストーリーを作り上げた可能性がある。


「呪われたなんて、信じられる話じゃないわ」

「なーに、変な顔で固まってんだよ」

「きゃあっ!?」


 悩んでいる彼女は、後ろから近づく気配を察知できなかった。両肩に手を置かれ急に話しかけられたので、驚いて声を上げてしまった。


「せ、先輩っ。驚かさないでください」

「悪い悪い、はるちゃんがそんなに驚くとは思わなかった」


 振り返って怒る遥香に、手を挙げて笑っているのは彼女の先輩記者である東嶋とうじまだ。

 ひょうひょうとしていて真意が掴めない、見た目もどこか世捨て人を思わせた。しかし悪い人ではなく、新人の頃から何かと世話を焼いてくれたので懐いていた。


「ちゃん呼びしないでください、セクハラですよ」

「そんなこと言うなって。最近はなんでもハラスメントで悲しいよ。うぅ」

「泣いてないの丸見えですけど。泣くふりをするなら、もっと上手くやってくださいよ」


 ジト目を向ける遥香に、東嶋は豪快に笑った。


「悪かったって。それで? 悩んでいたみたいだけど、どうしたんだ?」


 これだ。こういう細やかな気遣いが、東嶋を憎めない理由だった。

 軽口に見せかけて、遥香を気にしてくれている。


「今追ってるネタがちょっと……このまま続けていいか迷っていて……」

「どんなネタを追ってるんだ?」

「それが……うまく説明が出来なくて」

「まあ、いいから。とりあえず話してみ?」


 遥香は連続失踪事件と、千代から聞かされた話を東嶋に伝えた。うまく説明できないという言葉通り、支離滅裂になってしまったが、東嶋は根気よく最後まで聞いた。


「……という感じで、さっき社に戻ってきたんですけど」

「なるほど。呪い、ね。その隣家には訪ねてみた?」

「行ってはみましたが、すでに引っ越した後でした」

「うーん、残念。それにしても興味深い話だな。隣の家に住んでいた少女に呪われたなんて。本当に信じていた感じなの?」

「そうですね。あの顔は嘘を言っているようには見えませんでした」


 ――隣の子と関わったから、志気雄は呪われてしまったんです。


 そう言った千代の顔は、鬼気迫るものがあった。恐ろしさに、遥香は相槌が打てなかったほどだ。


「はるちゃんのことだから、その少女についても調べたんだろう?」

「はい。住んでいたのは、母親と小学生ぐらいの娘の二人だったらしいです。でも、近所づきあいをしていなかったみたいで、名前までは分からなかったんです」

「うーん、先は長いなあ。よし、ちょうど俺も暇だし、取材に付き合うよ」

「え? 本当ですか?」


 東嶋が手伝ってくれれば心強いが、彼も忙しい身だ。申し訳なさで断ろうとした遥香に対し、東嶋は豪快に笑う。


「いいってことよ。久しぶりに面白そうなネタだし、俺もぜひ追ってみたい」

「それなら、よろしくお願いします」


 一緒に調べてくれる人が出来たので、追っていくべきか悩んでいた遥香は、そのことを忘れてさらに調査を続けることとなった。



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