園田遥香の取材①



「連続失踪事件、ねえ……」


 デスクの上にある資料を睨みながら、園田そのだ遥香はるかはため息を吐いた。


 彼女はオカルト雑誌の記者をしている。働いている出版社はお世辞にも大手とは言えず、第一志望の会社に落ちて仕方なく入社した経緯があった。さらには、オカルト雑誌に配属されたのも納得がいっていない。

 そのため、仕事に熱意を持っているとは言えない状況になっていた。


「どうせただの作り話でしょ。それか勘違い」


 取材をしたところで、それが採用されるか分からない。面白い記事が他にあれば、そちらが優先される。収入は歩合制ではないため、余計にやる気が出なかった。


「あーあ。駄目そうだったら、すぐに終わらせよう」


 使われる見込みの無い記事に、いつまでも時間をかけてはいられない。

 とりあえず集めた資料を確認して、そこから追取材をするか判断することにした。


「えーっと……発端はネットの書き込みだったのよね」


 遥香は、資料の一番上にある紙を手に取った。


「書き込まれたのは、約二年前。……IPから考えると、定期的に利用していた人で評判は良くなかった」


 その人が書き込む内容は、ほとんどが周囲に対する愚痴だった。それも、ほとんど言いがかりの近いものである。


 曰く、コンビニ店員の態度が悪い。近所の誰かがうるさい。親が働けと口うるさい。みんな自分を馬鹿にしている。自分は優秀な存在なのに、誰もそれを理解していない。


「……カッとなったら、何をしでかすか分からないタイプね。面倒くさい。結構トラブルもあったみたいだし……本名は近藤こんどう志気雄しきお、四十二歳ね」


 言葉には出さなかったが、遥香の声に蔑む色が混じった。彼女も立派な職業とは胸を張って言えないが、それでも志気雄よりはマシだと思った。


「投稿がおかしくなったのは、最後の投稿より……二ヶ月ぐらい前かな?」


 紙には、志気雄の書き込み内容が全てある。


 ―あいつらは、俺を監視している。昼も夜もずっと。


 ―俺を狙っているんだ。


 ―うるさいうるさいうるさい。


 ―あたまのなかでこえが


「そして最後の書き込みが……これ、か」


 目を細めた遥香は、何度も見ている内容を改めて確認する。


「『ふれるな』。一体どういう意味かしら」


 その書き込みを最後に、志気雄は姿を現さなくなった。ネット上だけでなく、実生活でも姿を消したのだ。

 財布や携帯などが部屋に置きっぱなしだったため、心配した家族が失踪届を出した。しかし成人の志気雄がいなくなったところで、本腰を入れて捜査はされなかった。

 現在のところも、志気雄の行方は分かっていない。


「そして似たような失踪が、ここ二年の間に四件起きている」


 二年で四件というのが、頻度として多いのか少ないのか微妙なところだ。しかし、近藤のように『ふれるな』という言葉を残していなくなった者が他にもいるのは確かだった。

もっと多かったら、警察が捜査するほどの事件になる。このぐらいが、オカルト雑誌が取り扱うレベルの話かもしれない。


「……もう少しだけ調べてみようかしら」


 このネタを切り捨てて、次があるわけではない。事実でなくても、面白く肉付け出来れば記事になるかもしれない。

 遥香は諦めて、連続失踪事件の調査を続けることにした。



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