第18話 決戦

「……おかしいな」


 夜、フリューゲルは、爆弾の処理を施すために第七学園の屋根の天辺にて、警備兵を総動員させながらも、自身も魔力で探知するという方法を取っているのだが。


(全くもって爆弾の反応がない。貴族特区を纏めて吹き飛ばせる程のものだぞ?)


 国の総面積の一割ほども無いが、それでも広大である。で、あるならば大量に用意をされていると考えるのが普通であり、すぐに見つかると思っていたが。


(……ブラフか?しかし、奴らが何も仕掛けを施さないということはありえない……視点を変えよう。私が奴らの頂点だったらどういうふうにここを吹き飛ばす?)


 前提条件として、貴族特区を纏めて吹き飛ばす、ということなのであればフリューゲルでも充分に可能だ。彼女は、ルカを除けば自分が最強の存在だと信じているし、どういう輩でも遅れをとることはない。


 だが、相手はフリューゲルと同じ、世界の枠組みに捕らわれない『魔女』だ。一般的な方法では無いことは確実だ。


(思い出せ。私は敵の魔法には二度触れている。つまり、『呪い』に関する方向だろう)


 一度目の、オーガの角から検知した精神魔法も、見方を変えれば呪いとも解釈できる。


「────なるほど、これは厄介だな」









「今日の月も綺麗だな。戦争が始まる幕開けに相応しいと思わないか?」


「いや、思わないね。その野望は、今から俺たちに止められるからだ」


 招待状に示された運命の日。夜、人気のない訓練所にて、約束通りローゼスを伴いやってきたルカ。そこには、既にガイアが待機しており、軽く周りを気配で探るも、目の前にいる男一人以外は反応がない。


「ツレねぇな。お前も、俺達と同じで本質的には戦いの中でしか生を実感できない生き物だと言うのに」


「確かにそうだ。だが、俺とお前達で、明確な違いはある」


 ローゼスに手で示し、ここで待つように指示を出す。それにこくんと頷くと一言。


「頑張ってください。信じてます、あなたが、どんな問題も吹き飛ばしてくれることを」


「待ってろ。君の未来は、俺が守るよ」


「お熱いねぇ。さながら、姫とそれを守る騎士サマってか?」


「────一つだけ、聞きたいことがある」


「なんだ?聞いてやるだけ聞いてやるよ」


「お前たちに、ローゼスを襲うように仕向けたのは誰だ?」


「それをお前に言って、なんのメリットがある?」


「お前達がローゼスを襲うのは、依頼をされたからだ。違うか?」


「まぁそうだな」


「つまり、依頼が無効になれば、お前たちはローゼスを襲うという名分はなくなる」


 こうしてルカが直接聞いているのは、まだ黒幕探しに時間が掛かりそうだということを、手紙経由でフィルヴィス家から聞いたからである。


 望み薄であろうが、聞くだけ損はない。


「それを言ったところで、俺になんのメリットがある?」


「今日、ここで無様に負ける時は、命じゃなくて腕一本でアジトに返してやる。まだまだ戦っていたいんだろう?」


 混沌の嵐カオス・ハリケーンという生命体は、何よりも戦いを求めており、戦うためだけに生きていると言っても過言では無い。


 生命活動が終わる────つまり、死ぬということはどんなことよりも屈辱……といった読みの発言なのだが。


「はぁ、分かってねぇな兄弟」


「…………」


「俺達はなぁ……『今』という戦いの日々で生きてんだ」


(………交渉決裂か)


 言葉の端々から滲み出る戦意。それを悟り、交渉が上手くいかなかったため腰から剣を抜く。


 その折れた刀身には、未だに鞘が抜かれていないまま。


「その先に『あるかもしれない』戦いなんて────ハナから興味ねぇんだよ!!!」


「────残念だ」


 剣戟音。鞘と剣がぶつかり合い、その衝撃で訓練所の床が割れる。


「人は、生きるために戦うものだ。そのくだらない矜恃のせいで、今、お前は死ぬ」


「違ぇな!人は戦うために生きてるんだ!戦いの中で死ねるなら本望だろうが!」


 二度、三度、剣を斬りつけ合う。ルカはいつも通り、的確にガイアの急所を狙い、ガイアはそれを防ぎながらも手数で勝負をする。


 直剣と短剣。リーチではルカ、手数ではガイアとそれぞれ有利を持っている。


「それは、お前も同じだろう?」


 幾度目かの斬り合いで鍔迫り合いの状態へと持ち込む。力の入れ方、刀身の角度の駆け引きにより、膠着状態へ。


「……確かに、昔の俺はそうだった」


(アイツと出会う前までは、いつ死んでもいい。ローゼスと出会う前までは、適当に野垂れ死んでもいい。そう思っていた)


 適当に流れ着いた場所で戦っていたい前世。前世の経験からバケモノ扱いされた今世。


 戦いの中でしか生きれない、生きられない事を知ったルカは────いつも、誰かが側にいて自分の存在証明を新たにするのだ。


「だが、俺はいつも誰かの笑顔を守るために戦っていた。それだけが、俺の存在証明であり────俺が真に、命を賭けるに相応しいと感じた時だ」


「っ!!!」


 悪寒。明確に死のイメージが幻となってガイアを襲い、大きくその場から飛び退いた。


「────我がつるぎは無であり、無に非ず」


 鞘を抜く時は、誰かの平和を守るために命を賭ける。ずっと────それこそ、前世で戦友と出会ってから決めていたこと。


 剣を抜かずに人を殺す、『無剣』の人斬り。だが、その呼び名にはもう一つ意味があった。


「その身に魔を宿し、あらゆる障害を全て叩き斬る」


 それは、刀身を用いずに、で人を斬る、使である。

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