第2話 依頼

「ただいま」


 その後も、なあなあの態度で授業を終え、アーノルドにやれやれとした目で見つめられながらも教室を出て、帰宅したルカ。


 本来、に通う生徒達は、決められた校区の寮に住まうことが決められているのだが、ルカだけは例外である。


 なぜなら────


「おかえり。もうすぐ帰ってくるんじゃないかとちょうど思っていたところだ」


「珍しいなフリューゲル。この時間帯に家にいるなんて」


 ────現在ルカが通っている第七学園の学園長兼身元引受人兼世界で数人しかいないとされる『魔女』、フリューゲル・デ・ヴァレンタインと同居しているからである。


 魔女。産まれながらにして、誰もが持ってはいるが、自在に操ることは出来ない『魔力』という概念を操り、人の身では到底起こすことの出来ない奇跡を起こすことができる人の事を言う。


 腰ほどまで伸ばした黒髪と、吸い込まれるほどに綺麗な黒の瞳。身長も150センチ程しかなく、パッと見では学園に通う女生徒と変わらない美貌を誇るが、実年齢は自主規制ピーーー超えている。


「なに、少し気になることがあってな。早目にルカと共有をしておきたいと思っていただけだ。でもあるしな」


「了解。直ぐに荷物を部屋に置いてくるよ」


 契約。それは、ルカがこのアーセナル学園に通う際に、フリューゲルと交わした約束事。


 一つは、請け負っている依頼を戦闘系の物ならルカに回すこと。フリューゲルは唯一、姿や居場所が分かっている魔女なため、様々な人から困ったことがあれば『依頼』という形で仕事をしている。


 だが、なにぶん気分屋な性格なので、受けるかどうかは彼女の『興味を引くかどうか』なので、受けてくれればラッキー程度の認識で依頼者もフリューゲルへ依頼を出す。


 フリューゲルの負担を減らしたいのか、はたまた剣を振るいたいだけなのかは分からないが、ルカは時折、こうして手伝いをしている。


 もう一つの条件は、学園での生活に口出ししないことである。


 本来であれば、通う必要の無かったこの学園なのだが、フリューゲル経由で知り合った別の学園長より、どうしても入学して欲しいと土下座で頼み込まれたことがある。


 真面目に剣技を習うことはしない。授業を聞くも聞かないもルカの自由。そういった条件でルカはアーセナル学園に入学したのだ。


 まぁ、流石に最初から自由奔放に生活していると納得しない生徒も出てくるので、最初の一年間だけは真面目にはやっていたのだが。


「座れ。情報を展開しよう」


 ポンポン、と自身が座っている隣に手を叩き、暗にここに座れと指示されているルカ。特に抵抗もしないでそのまま座ると、パッと隣にいたフリューゲルが消えるも直ぐにまた現れる。


 場所は、何故か座っているルカの膝上だが。


「さて、単刀直入に言うがルカには不審者の捕縛を手伝ってもらいたい」


「不審者?」


「これを見てもらおう」


 パチン、と指を鳴らすと部屋の照らしていた明かりが消え、空中に幾つもの学園の敷地内の映像が投影される。


「これは……足跡か?」


「私の警備兵は物凄く優秀なのは、お前も知っているだろう?この足跡は、学園の生徒のものでは無い」


 何を言っているのか分からないかと思うが、このアーセナル学園内には、フリューゲルが自作している自動機械ゴーレムが警備を務めており、そのデータベースには生徒のありとあらゆる情報が記録されている。


 こういうケースで、フリューゲルが外したことがないことをルカは知っているので、疑う余地は無い。


「仕事の時間だルカ。お前の力、存分に発揮してくるといい」


「了解した。フリューゲルも警備、頑張れよ」


「なに、お前が一番重要なところを見てくれるから、私も楽ができる。いつも、感謝しているよ」


 そう言い、背中をルカに預け、完全に脱力するフリューゲル。


「不審者はいつも通り殺すか?」


「いや、今回は私の前に連れてきてくれ」


「珍しいな。いつもなら遠慮なく殺れと言うのに」


「少し、気になることがあってな。出来れば尋問にかけたい」


「分かった。フリューゲルがそう言うなら信じる」


 立ち上がるために、一度フリューゲルの体に手を回して抱き上げる。その後、もう一度ソファに座らせた。


「それじゃ行ってくる……頼むから、帰ってくるまでに部屋汚くさせんなよ。片付けるの誰だと思ってんだ」


「それは保証できないな。自分で言うのもあれだが、ズボラなものでな」


「お前………」


 フリューゲルは仕事もできるし、魔女だし、傍から見れば完璧超人であるが、私生活はからっきしである。別に、食事はせずとも生きてはいけるし、部屋がきたなかろうがどこに物を置いたかは完全に把握しているため、困ったことは起きてないが。


 しかし、マジでほっておくとその内、ルカでさえ歩くことが出来ないほどな散らかしているので、毎日毎日ルカが家事をしているのである。


「あいつ、俺が居なかったらいつか死んでたろ」とはルカの談。


「相手は恐らく、お前と同じように荒事に慣れている可能性が高い。必要ないかと思うが、油断するなよ」


「………安心しろ。戦いの場に於いて、俺が油断するようなことなんてない」


 それは、前世の時に嫌という程培った経験。


「どんな相手だろうと叩き潰してやるさ」


「ならばいい……私を、寂しがらせるんじゃないぞ」

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