第53話 ベルベットの遺志
クレインと共にラースは屋敷に戻る。
「お帰りなさいませ。お嬢様にお客様がお見えです」
従者にそう伝えられた。
「応接間かしら?」
「左様でございます」
「分かったわ。ありがとう」
ラースを訪ねてくる者が王都に王都の屋敷に来るのは珍しいことだ。
すぐに応接間へと向かった。
「お待たせしてすみません。って陛下!?」
そこに居たのは間違いなく、ローラン国王陛下と父上であった。
「驚かせてすまんな」
「いえ、言って頂ければこちらから出向きましたのに」
「いや、気にするな。侯爵にも用があったしな」
父に促され、ラースは陛下の対面へと座る。
「女神の加護を受けたそうだな」
「やはり、陛下には伝わったのですね」
「まあ、教会への呼び出しがあった時点で察してはいたが、気になってな」
「はい、聖女様から女神様の加護を受けました」
教会から陛下には早急に伝えられたのだろう。
「さすがだな。地域動物医療ネットワークの方も順調に機能しているそうじゃないか」
「はい、獣医師会や陛下のお力添えあってのことです」
「謙遜もそこまで行くと嫌味だぞ」
そう言って陛下は含んだ笑みを浮かべる。
「本当に私一人では限界がありますから。辺境伯やクレインさん、獣医師会の皆さんそして、陛下の力があったからこのシステムを構築できたんです」
「そういう事にしておこう。これから、ラースには多くの命が救われるのだろうからな」
「それで、私にも何かご用件があったのではないですか?」
「ああ、そうだった」
陛下は思い出すようにして言った。
「ナイゲール家を侯爵家へと引き上げたが、ラースの功績を考えた時ラース自身にも何らかの褒賞を与えねば王家の名が折れると思ってな。何でもいい。望みを言ってはくれないか?」
「では、陛下に折り入ってお願いしたいことがございます」
「何だね?」
ラースはこの機会をずっと伺っていた。
そして、ようやくその時がやって来たのだ。
「この王都に平民でもお金がなくても、医療を提供することができる病院を作っては頂けないでしょうか?」
医療は平等である。
しかし、それをまだ実現できているかといえばそうでは無い面がある。
治療を受けるには決して安くはない治療費がいる。
それを払えずに治療を断念する者もいる。
そんな医療の不平等を無くしたい。
生前、お祖父様が言っていたことだった。
しかし、それを実現できずにベルベットはこの世を去った。
「分かった」
陛下は少し考えた後にそう言った。
「もう、構想は決まっているんだろう?」
「ええ、医療費の全額負担を廃止し、3割負担とします。残りは税金から負担するような制度を整えれば大丈夫かと」
この世界では全額医療費を負担するのが一般的だ。
しかし、そこを税金で助け合えれば負担額を減らすことも可能であろう。
「なるほど。それならやれそうだな。よし、早急に財務官や宰相と相談して取り決めるとしよう」
「ありがとうございます」
陛下はそう約束すると王宮に帰った。
♢
「ラースは頑張っていますよ父上。まるで、父上が叶えられなかった夢を代わりに叶えるように……」
その日、ラースの父はベルベットの写真を見つめて言った。
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