第34話 動物不審死

 今日は、週に一回の休診日である。

緊急性の高いと判断した患者さんは受け入れるが、基本的にはお休みである。


「さて、今日は新しく買った医学書でも読みましょうかね」


 獣医というのは、ほぼ全ての分野について見識を持っていなければならない。

人間を見る医者なら、各自の専門に科が分かれているが、獣医はそうではないのが現状である。


 そのため、常に新しい知識を入れておきたい。


「ラースさん、ちょっといいだろうか?」


 ラースの部屋をノックした後、バーロンさんの声が聞こえた。


「はい、今行きます」


 医学書を閉じると、ラースは部屋の扉を開けた。


「どうかなさいましたか?」

「いや、隣の街のカリロ子爵の遣いが来ていて、君に会いたいと言っているんだ。なんでも、動物についての相談があるとか」

「分かりました。お伺いしましょう」


 ラースの噂を聞いた者たちが、最近はオーランドの街に続々と来ている。

それでも、領主様の遣いの人が来るのは珍しい。


 ラースは、バーロンさんと一緒に応接間に向かった。

応接間の中に入ると、身綺麗にしたまだ若い男性が立ち上がった。


「この度は、お忙しい中お時間を頂きましてありがとうございます」

「いえ、とりあえず座って話しましょう」

 

 ラースとバーロンさんはその男性の対面のソファーへ座る。


「失礼します。私、カリロ子爵様の遣いで参りました、シリノと申します」

「初めまして。ラース・ナイゲールと申します。私に、動物について相談があるそうですね。バーロンさんから聞きました」

「はい、左様でございます。ここ1週間くらいなのですが、カリロの街の領内の一角に猫や鳥などの野生動物たちが、次々に死んでおりまして。最初は、偶然かと思ったのですが、偶然では済まされない数になっており、どうしたものかと思っていた所、ラース先生のお噂を聞きまして」


 野生動物が街中で死んでいることは珍しいことではない。

しかし、その数が多いのは明らかにおかしい。


「どのくらいの数が亡くなっていたんですか?」

「全部で39体です」

「確かに、多すぎますね」


 自然死では片付けられる数ではないだろう。


「領民たちも気味悪がっておりまして、ラース先生に調査をお願いできないかと思った次第であります」

「私は構いませんが……」


 そう言って、バーロンさんの方に視線を向ける。


「私もかまわんよ。カリロ子爵には色々と世話になっているからな」

「分かりました。調査依頼、お引き受けします」

「ありがとうございます。ラース先生に来ていただけるなら、心強いです」

「今日は、休診日なのですぐに行きましょう。準備してきます」


 明日からは通常業務もあるので、急いだ方がいいだろう。

ここから、カリロの街は馬車ならそんなにかからなかったはずだ。


 ラースはそう言って、応接間を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る