第5話 フェンリルの子供

 ラースは倒れている神獣に駆け寄った。


「ひどい怪我です……」


 その神獣はあらゆる所から血を流していた。

その傷跡から推察するに、他の魔獣にやられたのだろう。


「ちょっと、ごめんね」


 ラースは怪我の状況を確認する。


「肋骨が折れてますね」


 触ってみると肋骨が3本折れているのが確認できる。


「痛いよね、もう少し頑張ろうね」


 このままでは、折れた肋骨で臓器を損傷してしまう可能性がある。

そうなったら、ますますひどい状況に陥ってしまう。


「ラースさん、この子は?」

「フェンリルの子供です」

「やはりそうでしたか。でも何でここにフェンリルが」


 フェンリルはS級の神獣である。

普段は、森の奥地に生息しており、森の守り神的な存在なのである。


「わかりません。とにかく治療しないとこの子が危ないです」


 呼吸が薄くなっているのを感じる。


「クレイン様、すみませんが馬車から私の鞄を取って来てくれませんか?」

「分かった」


 クレインはすぐに走って鞄を取りに行ってくれる。


「大丈夫。絶対助けてあげるからね」

「ラースさん、これでいいのか?」

「はい、ありがとうございます」


 ラースはそれを受け取ると、鞄の中から医療セットを取り出した。


 その時、森の中から魔獣が現れた。

ブラックウルフである。

その鋭い爪と牙と凶暴な性格から、住民たちを悩ませて来た魔物である。


「クレイン様、この子をやったのはそいつらです」


 傷口の形から見て間違いない。

これは、ウルフによるものであった。


「分かった」


 そう言うと、クレインは剣を抜く。

そのまま、横に剣を振るうと、魔獣を一掃してしまっていた。


「さすがですね」

「いえ、あなたのことを守るのは私の仕事です。他の誰にも譲りません」


 かっこいいと思ってしまった。

ラースがもう少し幼かったら、完全に落とされていたことだろう。

まあ、もう半分くらいは落とされてしまっている訳だが。


「ありがとうございます。とにかく、今はこの子ですね」


《医療魔法・調剤》


 魔法によってラースは薬を生成する。

それを注射器に入れて、フェンリルに注射する。


 出血が止まった。


「これでよし。あとは……」


《上級治癒》


 フェンリルの子供に対して、治癒魔法をかけた。

すると、傷口は完全に塞がりフェンリルの子供は元気を取り戻した。


《医療魔法・スキャン》


 スキャンして見た骨の状況も問題ない。

完璧にくっついている。


「もう、大丈夫ですよ。今度は気をつけてくださいね」


 そう言って、ラースはフェンリルの子供の頭を撫でてやる。


「すごいですね。本当にフェンリルの命を救ってしまうなんて」

「今回は発見が早かったのが、不幸中の幸いでしたね」 


 もう少しでも発見が遅れていたら、あの魔獣たちにやられていたかもしれない。

そうなったら、助けられなかっただろう。


「あの、治癒魔法の前に使っていた魔法は見たことがありませんでしたが……」

「あれは医療魔法です。お祖父様に教わりました」

「そうだったのですね。どうりで見たことないわけだ」


 医療魔法は、便利だが使える者が少ない。

祖父が居なくなった今、ラース以外に使える者が居るのかも怪しい魔法だ。


「では、先を急ぎましょうか」


 ラースとクレインは馬車へと戻った。

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